10 ノアの里帰り? 他一話
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ノアの里帰り?
僕はエリーの故郷、クリアル山の麓へやって来ていた。エリーの故郷、そして僕が世話になってた神殿がある場所。一応神官様に挨拶をして、エリーの自宅を見に行った。町の名前はリネ。ここにはエリーの自宅兼花光玉を売ってる店がある。以前は花や野菜なども売っていたけど、今は花光玉のみを販売してる、はずだった。
「店が開いてない?おかしいな。今日は休みの日じゃないはずだ。もう他の店は開いてるのに」
不思議に思って近くの肉屋のおばさんにたずねてみた。
「ああ、最近は店を開けてたり、開けてなかったりするのよね」
話好きのおばさんで、最近の様子を細かく話してくれた。ほぼ僕が思ってた通りだった。エリーがリーフリルバーン家に奉公に出たおかげで働かずともお金が入るようになったエリーの両親と妹は真面目に働く気を無くしたようだ。僕は家の裏に回った。
「やっぱりか……」
家の裏から続く畑は雑草が生え、荒れ放題だった。おばさんによるとパーソンさん夫妻は解雇されている。さっき寄った時には気が付かなかったけれど、二人は神殿で再雇用され働いているようだ。
「エリーがこの畑を見たら悲しむな……。どう伝えたものか」
もともとこの辺りは土地が豊かだったわけじゃない。エリーがいたからたくさんの収穫があったのだ。エリーがいなくなり、さらに手入れを怠った結果がこれだ。
考え込みながら一旦神殿へ戻ろうと歩いていると聞き覚えのある声に呼び止められた。
「あら?ノアじゃない?」
カレンだ。声はそうだけど、なんだか異様に飾り立てたドレスを着ている。化粧もしているようで、ややきつめの香料の匂いが鼻についた。正直気味が悪い。
「…………」
「相変わらず不愛想ね。挨拶も出来ないのね。あんた、姉さんについて行ったんですってね?いつ帰って来たの?馬車で来たの?姉さんは上手くやってるみたいね。ご当主様に気に入られて、毎月お金も送ってくれて助かってるのよ!」
「こんにちは」
「ちょっと!挨拶それだけ?まあいいわ。あんたまた戻るんでしょ?ねえ、姉さんに送ってくれるお金増やして欲しいって言ってよ!ご当主様に言えばもっと何とかなるんじゃないかしら?あら?あんた結構いい服着てるわね?ノアのくせに生意気!……ふーん、私も貴族の家で働かせてもらおうかしら。上手くいけば私も貴族に気に入ってもらえるかも!姉さんみたいに年寄りじゃなくて若くてカッコいい人に!そうよ!私姉さんよりずっと綺麗だし……」
くだらない、そう心の中で吐き捨てて僕はその場から消えた。
エリーの家からリーフリルバーン家の屋敷は普通の馬車なら五日間程かかる。自費で来ることは出来ないだろう。エリーに家の現状について話すことはまだ迷っていたが、カレンのたわごとは放っておいてもかまわないだろう。
「さっさとエリーのところへ戻ろう。僕ならとべばすぐだしね」
エリーがリリーと出会った少し後 東の海辺の屋敷にて
「母さん!いったいどうしたんだ!歩き回って大丈夫なの?ああ、すっかり顔色が良くなってるじゃないか!」
「まあまあクレス!お帰りなさい。こんなに頻繁に帰って来てしまってお仕事は大丈夫なの?」
「大丈夫って、それは僕が聞きたいことだよ!今朝神官様が来てくれたの?それにしても元気になってる。まるで病自体が消えたような……」
城の悪魔憑きの病の対策室で働く文官のクレス・レイクネイビーは海辺の自分の屋敷へ帰ってきていた。彼は城で働く文官で、仕事の休みの日には病に倒れた母を見舞うのが最近の常であった。レイクネイビー家は古くからウィステリアワイズ家に仕える紫の一族の一つだ。
「いったいどうして……。あれ?その首飾りは?」
母の胸元に見慣れない、いや、どこかで見たような丸い透き通った装飾品が優しい光を放っている。自分と同じ紺色の髪と瞳を持つ可愛い妹が弾けるような笑顔で話してくる。母親が元気になって嬉しいようだ。もちろん自分だって嬉しい。しかし。
「海でお姉ちゃんに貰ったの」
「リリーが?お姉ちゃんに?母さんちょっとそれ見せて!!……やっぱり、花光玉だ」
あの日、緑の一族のリーフリルバーン家の方が報告書と共に持ち込んできたもの。あの時、資料をよく検討して上に報告を上げるべきだと進言したが、まだまだ新米のしかもさほど身分の高くない自分の意見は聞いてもらえなかったのだ。あの報告書は処分しておけと言われてそっと自分の机の引き出しにしまっておいたが、忙しさにかまけて忘れてしまっていた。
「このお守りをいただいてから、体が軽くてね。とても助かってるの。週一回の神官様の浄化も要らなくなったのよ」
彼の母は悪魔憑きの病のせいで日ごとに体が弱っていた。神官の浄化の後もすぐに体が重くなり始めてしまい、効果が薄まってきたのではと心配していてところだったのだ。実際、この病で亡くなる人は最終的には神官や白魔法使いの浄化が効かなくなってしまうのだ。
クレスは唇をかんだ。もっときちんと覚えておけば……。こうしている間にも病で苦しむ人や亡くなる人は増えていくのだ。
「ごめん、母さん、リリー、城へ戻らなければならなくなった。また来るから!」
城では恐らく自分が何を言ったところで聞き入れてもらえないだろう。
「急ぎ、ウィステリアワイズ家に訪問の許可を取ってくれ。当主様に面会の約束をっ!」
家人に申し付けると、クレスは城へ急ぎ戻ったのだった。
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