09 いろいろなきもち
来ていただいてありがとうございます!
「え?貴女って全属性の魔法を使えるの?」
私の目の前には、人懐こい笑顔、栗色の髪、緑の瞳の女の子がいる。人付き合いの苦手な私の唯一の親友。お茶のカップを持ったまま、私に問いかけてくる。
「全部じゃないわよ。できないこともあるわ。地属性の魔法は全く使えないし、得意不得意があるし……」
「それでもすごいわ!地属性の魔法なら私が得意だもの!私達って二人で力を合わせれば完璧ね!」
そういって片目を瞑った。その拍子にお茶がドレスに零れてしまった。
「キャーッ!!」
私は慌てて水魔法でドレスのしみを除いてあげた。彼女は笑顔でお礼を言ってくれた。恥ずかしそうに。…………そうね……こんな私といつも一緒にいてくれる……ちょっとそそっかしくてほっとけない可愛い人。ああ、私の大切な親友。大好きな親友。太陽みたいな笑顔に何度救われたか分からない…………。
また、あの夢だ。あれ?私泣いてる?夢の私は本当にあの子が好きだったんだね。
「すごいなぁ。夢の私は色んな魔法が使えたんだね。どんな感じだったんだろう」
もそもそとベッドから起きてドレッサーの前に座った。鏡に映る私は大好きだった親友に少しだけ似てる気がした。
「親友かぁ。神殿で勉強してた時は仲が良い子は何人かいたけど、親友っていないかも。みんな、どうしてるかな……」
今朝は朝食の後、フィル様の書斎へ呼ばれた。ご当主様の書斎ではなくてフィル様の書斎。こじんまりしてるけど、緑を基調とした品のいいお部屋だ。他のお屋敷の事はよくわからないけど、リーフリルバーン家のお屋敷は木目を活かした加工の少ない家具が多いんですよーってエドさんが言ってた。
「え?これがカレンの花光玉なんですか?」
「ああ、そうだよ」
木箱の中に入っているのは綺麗な青い花光玉。青い花は春の時に一番効果が高いって結果が出た花。春風草の花。なんだけど、私は首をひねった。
「本当にカレンが作ったものなんですか?いつものとは違うみたいで……」
明らかに光度が足りない気がする。
「そうなのか?普通の花光玉に見えるんだが」
「いつもはもっと、光が綺麗で、澄んでて、色もこう、もっと鮮やかで……」
「確かにエリーのものとは比べものにはならないが、そこそこの出来だと思うぞ」
フィル様が一つを手に取って満足気に眺めた。
「うーん」
私はおかしいとは思いつつも確認する方法もなく、いつものように仕事に戻った。
小さな皿に重さを量った花びらを入れていく。今日も自分の仕事を終わらせたノアが手伝ってくれてる。
「え?五日も?」
「うん。リーフリルバーン家の馬車は魔法道具だし、馬にも魔法がかけられてるからね。普通の馬車だとそのくらいかかると思うよ」
「そんなにかかるんだ……」
私はカレンや家の様子が気になって一度家に帰りたいと思った。一応給金を送るときに簡単な手紙を添えているけれど、家からは返事が来たことは無いんだよね。たまにこちらはみな元気だと、言伝があるだけなのだ。ちょっと様子を見に帰りたいから二日くらい休みを貰えたらと思ってたんだ。ノアに相談してたらそう説明されて、すごくびっくりしたよ……。
「そうだよね……。うちがある場所ってすごく外れの方だし、よく考えたら一日でここまで来れたのって変だった。そっかあ、魔法の馬車なんだ」
私って本当に……。地理の勉強もしたけど、実際の距離感ってちゃんと分かってなかった。それにしても魔法ってすごいなぁ。
「エリーが呼ばれた時は、ご当主様の病が進行していて、もちろん神官様にも来ていただいてはいたけど、何か別の手立てを探していらした時だったからね」
「そうよね。ご当主様がお城に行くための大切な馬車だものね。それに今は夏の花が次々と咲いてる。今十日間も休むわけにはいかないわよね」
気にはなったけど、カレンの調子が悪いのかたずねる手紙を書くことにした。返事、来るといいんだけどな。
その日の夕方、フィル様が仕事部屋へやって来た。明日、一緒に王都へ行って欲しいって言われた。
「王都へですか?でも、今はどんどん花が咲いていて……」
今日は二十二個花光玉を作れた。二つか三つ作っては魔力の回復を待つ。合間に勉強その繰り返し。夕ご飯までもう少し頑張ろうと思ってたところだった。
「そうなんだが、君に会いたいっていう貴族がいるんだ。花光玉の件で。ウィステリアワイズ家の当主だ。流石に断るわけにはいかない」
うわあ……そんな大貴族様がっ!?いかめしい顔をして睨んでくるご当主様を想像して、ひきつってる私にエドさんが励ますように笑ってくれた。エドさんの笑顔はお日様みたいでほっこりする。
「花の事なら大丈夫だ。うちには優秀な魔法使いのノア君がいるからね。花の準備は留守の間に彼がしっかりしておいてくれるだろう」
ちょっとフィル様の顔が意地悪そう。
「…………いいですよ。エリーが帰ってきたらすぐに作業できるようにしておくよ」
ノアがにっこりと私に微笑む。私はちょっと意外だった。ノアは寂しがりだからついてきたがると思ってたから。
「はい。分かりました」
こうして私はフィル様と王都のウィステリアワイズ家に行くことになった。王都なんて行ったことない。どんな所だろう?それから頭脳明晰で天才がたくさんいるという紫の一族、その筆頭のウィステリアワイズ家。きっとすごい人達なんだろうな……。今回はノアがいないんだ。ワクワクする気持ちと怖い気持ちと、不安な気持ちが入り混じってその夜はすぐに寝付けなかった。寂しがりは私の方だったかも……。
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