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まぼろしのひつじ 番外編  作者: うしさん@似非南国
10/13

小ネタ詰め合わせ 2(世界地図付き)

今回も月勢2本詰め。なんか本編PVが4000超えてた記念でということで。

※カクヨムには入ってません(あそこ文中に挿画入れられないんで地図が入れられなくてですね)

・この世界のあちらこちら今昔。


「あら少年、どうしたの?地図なんか見ちゃって」

 宙に浮かせて表示させた地図を真剣な目で見つめているケスレルに、声をかけたのはシャキヤール。今日も月は平常進行だ。


「これまで行ったとこに印付けてるんだ、行った年で色変えてさ。それにしてもいつ見ても思うんだけど、丸い海岸線が多いね?」

 すっかり旅行そのものが趣味になってしまった少年は、振り返りもしないでそんな返事をする。


「あー、今の海岸線は地図で見ると結構そうよね。リィス、昔の地図出せる?」

【昔と申しますと……話の流れ的にこれですかね】

 呼ばれた都市管理AIが応じて、ぽこん、と気の抜けた音と共に表示されたのは、地図。但し……


挿絵(By みてみん)


「あれ?今の地図より地面がすっごく多いし知らない地名ばっかり?」

 さっきまで自分がマーキングしていた地図と見比べて、ケスレルが首を傾げる。


「そりゃあそうでしょ。月が落ちる前の地図だからね。都市名は一番多い頃に一千万人以上いた主要都市ね。まあ半分くらいはこの段階で人口減っちゃってたけど。アンデインとラフォニウムとモルバテット南部の諸都市と南大陸の2都市がこの頃でも周辺合わせて二千万くらい居た感じだったかしらね、確か」

 さらっと答えるシャキヤールだが、それって何年前だっけ?と少年が首を傾げている。


【正解ですね。モルバテットは南大陸との交通の加減もあったのでしょうが、本当に人口が集中していましたからね。

 アンデインはランデリア最大の都市、首都はラフォニウムでしたが、これも交通の利便性で人口が集中したものですね】

「へー昔の地図がこれで、今がこれか……うわあ、当時の大都市のあったとこ、あらかた無くなってる……?」

 宙に浮いた半透明の地図を移動させて重ね合わせたところで、うへえ、という顔になるケスレル。


挿絵(By みてみん)


「そうよ。あの馬鹿念入りに大都市狙い撃ちしたそうだからね……頭脳と能力の無駄遣いにも程があるというか」

 溜息をつくシャキヤール。自分がメインで使っていた分体も潰されたせいで、この時の話は彼女にとっても伝聞だ。


「でもそうしないと姫さん危なかったんでしょ?」

 諸事情でその様子も多少知識のあるケスレルは同情的だが。

「それもそうなんだけどねえ。結果的に落ちる月迎撃までして結構なダメージいっちゃってたそうだから、大差ない気がするのよねえ」

 シャキヤールは首を振る。彼女的にはどうも当時の事はアウト判定の様子。


「えーっと、このファンランってとこが、場所的に、月に持ってきた都市?」

 これはだめだ、と話題を変えるケスレル。相棒の悪さの話は出来たらほじくり返したくないので。


「そうね、実際には地上と地下の二重構造都市で、生き残ったのは地下の半分くらいだけなんだけど。当時のあたしの分体潰れたのもここね」

 シャキヤールも蒸し返すつもりはなかったようで、素直に答えている。


「で、旧西黒森ってこの時代から森なんだ」

「この時代は森だったけど、一回焼け野原になって、そこからまた森を育て直したのよ。ちなみに月が堕ちる前の山脈は、今よりどこもだいたい低かったわ。月の破片の落下で地殻変動もあったから、急激に地形が変わっちゃってもう大変だったのよ……。リソースはごっそり減ってるしさあ。

 姫ちゃんが頑張ってくれたから辛うじて壊れ切らずには済んだけど、あんなにやきもきするのはもう御免ね」


「で、極東は相変わらず極東?サイズはちょっと小さくなった感じだけど」

 これも地雷だったー!とまた話をずらすケスレル。


「あそこは月が落ちる前から独自路線だったのよ。まああんなことになってるとは思わなかったけど」

 いつぞや乗り込んだら猫の大王国になっていた極東の様子を思い出し、最初の頃の『独自路線』は、ああではなかったんだろうな、と思うケスレルだが、口にするのはやめておく。なんとなく、また創世神様の愚痴が出そうだったので。


「そういえば、このレ=ファンダって場所、なんか残ってそうじゃない?」

 北方ってまだ行ったことないなあ、と呟きながら、重ね合わせた地図から、人口があった割に消滅していないらしき場所を指す少年。


「どうかしらね。今の北方の民は遺跡は発見してもなかったことにしてるそうだから、原型留めてたら何かはありそうだけど」

 北方の民は、基本的に危うきに近寄らず、を鉄則として生き延びてきた民族だ。

 遺跡はうっかり見かけることがあっても、決して近寄らないのだという。


「ああ、北方は姫の本体が落ちたので……。北海の大穴が落ちたところのはず?レ=ファンダは月を落とす前に駄神共が何かしたらしくて、僕が手を出すまでもなかった記憶が」

 西黒森の話が出た辺りから背後で話を聞いていたセルファムフィーズが口を挟む。


「うへえ、それ調査しないとだめなやつじゃね……」

 見る間に嫌そうな顔になる創世神。何か問題の種でも残っていたら、排除しなきゃだめよねー?と、諦め顔で呟いている。


「いえ、あれらが何をしたかは判らないのですが、レ=ファンダの跡地には遺跡すら残ってないんです。月を落とすより前に消滅していたらしくて。その段階で完全に『なかったこと』になっているようで、千年過ぎてることでもありますし、今更調査もへったくれもないと思いますよ」

 気にはなっていたようで、密かに調査した結果がそれだというセルファムフィーズ。


「なかったこと?もしかして、世界に大穴開けられた時の?」

 渋い顔になるシャキヤールに、


「あーあのでかい街?北の」

 龍の姫がひょっこり顔を出して確認を取る。


「そうそれ。姫ちゃんあそこどうなったか知ってる?」

「私が飛んだ時にはもう跡形もなかったわよ。最初に大穴開けられたのがその辺りだったみたい。穴はなんとか塞いだけど、消されたものの復旧までは私には無理だったからね」


 直接見た者が言うならまあ間違いないんだろう、と、北の『調査』は結局取りやめになった。

 どうせ、少年の行動傾向からして、いずれ出掛けることにはなるには違いないのだが、気楽な観光で行けるな、と思う一同である。



・リィスさん。


 新しく創った月の核は、かつて幻理国の西の国境の地下にあった都市の中枢機能を丸ごと移転させて、データベースや都市機能、それに月の防衛機能なども纏めて管理できるつくりになっている。

 データベースはまだしも、都市部分の管理が意外と煩雑なので、地下当時からずっと都市制御をしていたAIを再調整して補助させているのだが。


 この管理AIがなんというか、曲者なのだ。


 大昔に、今とは別の分体でこの管理AIを創ったのはセルファムフィーズなのだが、よりにもよって、大本の性格設定に、シャキヤールの一番はっちゃけた分体、通称シャキヤちゃんの思考パターンを利用したというのである。


 悪戯大好き愉快犯、最終的に確かに目的は達するだろうが、その過程での周囲の心理的ダメージという名の被害甚大、と、ほぼ関係者全員が断言する、自分が面白くて世界が滅びなければなんでもいいでしょ、を地で行くあのあたおか系はっちゃけマインドを、なんでよりにもよってそんな重要なところに。とは、後からそのことを知ったシーリーンと龍の姫が口を揃えたぼやきの要約である。


 案の定、出来上がった彼は、運用開始直後から、業務に全く支障のない部分で大量の都市伝説を発生させては悦に入る愉快犯と化していた。

 何故か逐一全部残されていた、過去の所業のログを確認した結果、流石にコレは酷い、ということで、月に上げる時に再調整はしたのだが。


 一時こそ大人しくしていたものの、いつの間にやら元通り、つまり未だに悪戯を辞めようとしないのである。


「いや、予想以上にストレス値が上がる業務だったので、このくらいはっちゃけさせないとAIでも病むんですよねえ」

 最初から超長期の運用予定でしたしねえ、ここまで頑張るとは思ってませんでしたが。と設定した本人はのほほんと述べる。


 なお、話題が話題だから本人(?)には聞こえないトコでやろっか、と、たまたまアプデ周期が来ていて本体ごと寝ているため不在の龍の姫と、自分にその手の話題の解決策は出せないだろうと言って今回も留守番のマーナガルム以外の面子で、極東の片隅、西小島で海を眺めながら相談する一同である。

 今回は自費で果物の盛り合わせやら搾りたてジュースやら各々好き勝手に注文して、気に入ったものに舌鼓を打ちながら。まあ要するにいろいろ言い訳を付けつつ、やっていることは息抜きの観光客しぐさ、だ。


「幻像とはいえ、悪戯でおばけ沸かすとかほんとやめてほしいんだけど」

 最近悪ふざけの被害にあったばかりのシーリーンがげっそりした顔。前回来た時とは違う果物の盛り合わせ自体は気に入っているようだが。


「でもあれは見抜けなかったシィもどうかと思う……」

 丁度その時一緒にいて、こちらは如何にもわざとらしい風情のおばけを幻影だと速攻で見破ったケスレルは、そこまで大ごとだと思っていない様子。

 こちらは釈迦頭のなかでも、鳳梨釋迦と呼ばれるものを気に入って、今回も頼んでいる。


「そういえば、おにいちゃんは全然被害にあってないよね」

「そりゃ俺が上位管理者だもん。リィスさんも反逆扱いはされたくないんじゃない?」

 ジト目で兄を見る妹だが、兄のほうはしれっとしている。リィスさんとは都市AIの愛称だ。


「それだけかしら?セルファはたまに被害にあってる気がするけど」

 創世神さまことシャキヤールは疑問顔で、細長い、地元ではポウポウと呼ばれている黄色味の強い果物をつついている。


「今の僕は副管理者なので、リィスとは同位でこそないですが、上位管理者とは扱いを変えてこられても、設定的にはおかしくないですね」

 だいたい、客人扱いのハルムレクさん辺りは被害にあったことがないんですから、問題ないのでは?と、これも全然問題だと思っていなさそうな金髪男。こちらは果物は頼まず、酸味の強めの果物のミックスジュースなど口にしている。


「つまり何か、リィスさんが悪戯する相手は、俺以外で、なおかつ月の住人と認められているものだけ?」

 ケスレルが首を傾げて、でもそれはそれで、俺だけ仲間外れみたいでやだなー、と、聞かれない方がよさそうな事を言う。


「定義的にはそんな感じよね。あと寝てる人たちには手出ししないわねあいつ」

 シャキヤールが頷きながらそんなことを補足する。ポウポウを食べ終わったので、次は三角に切られたスイカの種をほじり始めている。


「絶対『寝てる人は反応がないからつまらないし』とか言いそう」

 シーリーンが嫌そうな顔でそんなことを予想している。こちらは盛り合わせの半分くらいを食べ終わったところ。


「いや、姫さんの御両親については手出し禁止命令してある。なんかおかーさん怒らせると大変らしくって姫さんに頼まれた」

 えっいつの間にそんな、と想定してなかった回答をする上位管理者を見る一同。


「あー。確かに瑞姫は怒らせちゃダメだわね、流石姫ちゃん、対策が早い。っつかその禁止命令拡大できないの、あたしたちに」

「うん?無理。過度に制限するとストレスになっちゃうから。月で常時リィスさんと接触できる人数自体が少ないから、これ以上は制限しないほうがいいっぽいんだよね。悪いけど、諦めて」

 シャキヤールができねえんだろうなあと顔に書いて尋ねるのを、即時理由付きで却下するケスレル。こういう時にはちゃんと管理者らしい顔をするあたりが、逆にあざとい、とは妹の戯言だ。


 そんなわけで、この後も、月には時折、悪戯の被害者の叫びがこだますることが確定するのだった。


前回の小ネタよりちょっと文字数が多いですがそれでも一本未満かなと。

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