Makes Me Wonder
「お……俺だ。縁」
なんちゃら番号なんてわからないし、なんせ知り合いの声がしたもんだから慌てて答えてしまった。
『ん? 堅田の知り合いっすか?』
『ああ、安心したよ。どんくさい奴が来たらどうしようかと思ったけど、飯沼なら信用できる』
「ちょっと待ってくれ。これ一体どういうじょうきょ……」
『御託はあとっす! 来るっすよ!!』
ヤギ頭が強く地面を蹴り、前方へと走り出す。その刹那強い衝撃を受けた俺は後頭部を打ち、目の前に星が散った。猛烈に痛いけど、これもしかして操縦して戦えってことなのか?
『まずい!』
おじいさんの声が聞こえたかと思うと画面いっぱいに映し出されていたヤギ頭が離れ、次の瞬間には代わりに黄色いヤツがヤギ頭のマウントポジションを取っていた。めちゃくちゃ速い。バスケの試合かと思ったわ。
『堅田くん、君の読み通りだ! XYZはほとんど生身の生体だろう!』
『じゃあ鋭利なものさえあればダメージ通るってことですね』
『いや、おそらく打撃も通用するっすよ! 今スキャン結果送るっす!』
なんだこの人たち……? まるでずっとロボットに乗ってたみたいな感じだ。マウントを取られたヤギ頭がもがくのをこともなげに、のんきになにやら相談しあっている。
俺はその間にいろいろと操縦桿を動かすことにした。暗くてよく見えなかったが、操縦桿は四本あり、一番右から首・右腕・左腕・胴体と分かれているようだった。ためしに首を動かしてみると、頭上に浮かぶ小さな円盤が見て取れた。これは俗に言うUFOか? おそらく、パイロットのうちの誰かが操縦しているに違いない。
足元を見たとき思わずギョッとした。自衛隊車両がすぐそばまで近づいてきている。それだけじゃない、豆粒みたいな大きさの人間たちがぞろぞろと列を成して避難している。俺のデカブツが乗っているアスファルトはズタズタになっており、土まで覗いているほどだ。
俺たちがここに存在していること自体、住民にとっては脅威でしかないのだ。
『よし、作戦が決まった。飯沼、そのまま前に進んでコイツの頭踏みつぶしてくれ。回答求む』
グロすぎないか?
「や、やってみる」
アクセルを踏み込むがしかし、曲がり方がわからない。とはいえ何度か踏みなおしてみると、なるほど、アクセルを左右に傾けることで操作できるようだ。キュルキュルと無限軌道が作動する音が鳴る。少しずつヤギ頭の頭部が近づいてくる。
『二足歩行じゃないの、不便そーっすね』
『依音さんは足すらついてないじゃないですか』
そんな通信をよそに、ほんの一メートルほどにまでヤギ頭が近づいてきた。あとは踏みつぶせばおしまい……ってところで、まさか、ヤギ頭と目が合ってしまうとは。
「あっ……」
連続する鈍い音。グシャグシャグシャ。あたりに血しぶきが飛び散り、気づくと俺は両親の部屋にいた。外はけたたましいサイレンの音と、小さい悲鳴が支配していた。
立ち上がろうとするもまるで足元がぬかるみのようで、ずるりと滑っては転んでしまう。そして自分の右手がしっかりとへその緒の花を握っていることに気づいた。かなり強い力で握っているにも拘らず、なぜかしおれておらず、よく見ればそれはあの変な世界に咲きまくっていた花のようだ。
両親はまだ、帰ってきていない。