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第四話 僕は新しい悪役令嬢の本当の姿を知りました。

ジュリアのサロンに着くと、ヴェルダがいた。


ヴェルダは、突然、僕が来たことに驚いていた。


「アントワーヌ、いなくなった」


「なんですって!?」


ジュリアがソファーから立ち上がる。


すぐに、彼女もヴェルダを見る。


「おそらく、一人になったところを、学園内にいた誰かに攫われたと思う。僕が、ヴェルダに絡んでいた男子生徒たちに足止めされていた時に。フェルディアさんに確認してもらうと、廊下にアントワーヌの鞄が捨て置かれていた」


本当に後悔しかない。


僕が彼女を迎えに行けば良かったんだ。


僕は、ヴェルダを見る。


ヴェルダも、学園内でアントワーヌが攫われると思っていなかったようだ。


彼女自身、驚いていた。


きっと、こんなことになっているとは知らなかったんだろう。


「・・・父ね」


ヴェルダは、僕に向かい合う。


「ごめんなさい。こんなに父が早く動くなんて思わなかったわ」


ヴェルダは僕に謝罪する。


「今日は、アントワーヌに誘われて、ジュリア様のサロンに招待されたのに・・・私が流した噂のせいね」


「やっぱり、君があの噂を流したんだ」


そう、僕とアントワーヌの婚約が早まる噂は、ヴェルダが流したものだった。


でも、そうなるとどうして彼女は僕たちの噂を流したのか、疑問に思ってしまう。


「あなた、何を考えているの?」


ジュリアがヴェルデの顔を覗き込んだ。


「どうして、そんな噂を流したの?下手をすると、あなたに不利になるかもしれないのに?」


僕もそれを思っていた。


ジュリアの言う通りだ。


トリアー家が強硬手段を取れば、ヴェルダ自身も罪を問われる可能性がある。


いや、そもそもトリアー家の罪がわかってしまえば、爵位は没収だし、他国への追放、最悪は死罪もある。


ヴェルダ自身もわかっているはずなのに・・・。


・・・そうだ、どうしてヴェルデは僕たちに伝えるんだ?


その時、僕は思い出した。


前に男子生徒たちに絡まれていた時に、僕の前で見せた癖。


それに、あのネイル。


彼女はもしかして・・・。


「ジュリア、席を外してもらっていい?彼女と二人で話をしたいんだけど?」


「でも・・・」


「ごめん。どうしても聞かないといけないことがあるんだ」


僕に促されて、ジュリアは教室から出て行った。


「どうしたのよ?」


ヴェルダが不安そうにしている。


僕は、前から考えていることを彼女にぶつける。


「ヴェルダ、君は日本からの転生者だろ?」


「えっ?」


ヴェルダが目を見開いた。


その反応が、僕の考えをより明確にさせる。


「そうなんだろ?」


僕はまた、問い掛ける。


「・・・あんたも?」


ヴェルダはおもわず、僕に指さした。


「うん」


僕が頷くと、「え~~!!」と大声で叫んだ。


僕の思った通りだった。


やっぱし、ヴェルダは日本からの転生者だった。


そして、僕も彼女もここにきて、まさかの同類が現れると思わなかった。


「だったら、最初に言いなさいよ!!」


ヴェルデが僕の両肩を強く掴むと、大きく揺さぶってきた。


「ゆ、揺らすの・・・やめて・・・」


ヴェルデが興奮してるので、僕の体は大きく揺さぶられている。


これじゃ、話すこともできない。


「ご、ごめんなさい」


ヴェルデがやっと、落ち着いてくれた。


僕は一度、息を落ち着かせる。


「どうして、私が転生したってわかったの?」


「ネイルが・・・この世界にないデザインと言うか・・・」


この世界で使える色は少ない。


ネイルの色は赤系が多い。


それなのに、ヴェルデは水色のネイルとしていた。


しかも、軽くラメとかストーンが入っている。


そんなの考えるのは、ハイティーン向けのファッション雑誌をチェックしている、流行に敏感な女子高生しかいない。


僕が高校時代の時も、クラスメイトの女子たちを見ているし、彼女の会話でその辺りは自分なりに理解している。


「まさか・・・それで気付いたの?」


「他にもあるよ。例えば、最初に会った時に、スマフォをスクロールする癖が出てたし」


「あ~~、それか~~」


僕の指摘に、ヴェルダが頭を抱える。


彼女もこの癖はわかっていたようだ。


「僕も、今でもその癖抜けないしね」


「その気持ち、わかる」


ヴェルダはすごく納得していた。


いらいらした時とか、暇な時にスマフォをいじってしまう癖はなかなか抜けない。


現代日本人特有の、悪い病気だと思う。


「あんた、いつ転生したの?」


「1年半前かな。日本にいた頃は、大学生の時になるよ」


「私は3年前くらいよ。日本にいた頃は、高校の頃になるわ」


「じゃあ、この世界だと君が先輩になる訳だ」


「でも、前は大学生でしょ?だから、あんなに落ち着いてたんだ。なんか、納得した」


ヴェルダは自分の仲間がいると知って安心したのか、僕の前で笑った。


「でね、どうして、あの噂を流したのか聞いていい?」


「あんたも転生者なら、わかるでしょ?自分の生まれた時の状況がどんなものかって」


そう言うと、ヴェルダはこれまでの事情を話し出した。


簡単に言えば、ヴェルダは自分が<悪役令嬢>の立場にいることに気づいた。


このまま行けば、悪事を働くトリアー家のために、自分も殺されてしまうかもしれない。


異世界転生ものだと、よくあるシチュエーションだったので、ヴェルダとしては危機感を抱いたらしい。


それで、トリアー家の悪事を暴く代わりに、取引をして命を救ってもらおうと、僕やジュリアに接触した。


「ヴェルダは<悪役令嬢>は知ってたんだ?」


「知ってるわよ。転生ものとか流行ってるのも知ってるし、アニメとか漫画とか見たことあるし」


ヴェルダも、そう言う知識が事前にあったから、自分にこれから起こるかもしれない危険を回避しようとするのは当たり前か。


だって、下手をすると死罪で死ぬかもしれないし。


そう考えると、日本人って、転生に慣れるのは早いと思う。


「まあ、最初から転生したって言えないよね?」


僕も今でも言えないし。


なるほど、ヴェルダに話したのが、最初になるのか。


これも、転生ものらしい展開だ。


「そうよ。だから、わざとあなたたちに情報を流したの。そうすれば、私が<悪役令嬢>になる可能性がなくなるでしょ?でも、まさか公爵家の次男が転生者なんて思わなかった」


ヴェルダとしては、ようやく自分の秘密を打ち明けられて良かったようだ。


彼女も、僕に転生したことを話したのが初めてだし。


おっと、忘れそうになった。


僕は話を戻す。


「じゃあ、トリアー家の悪事を証明できるものはあるの?」


「ええ」


ヴェルダは持っていた小さな鞄から、トリアー家の悪事を書いた書類を取り出した。


僕はその内容を確認する。


トリアー家の悪事は、予想以上に酷い内容だった。


これだと、アントワーヌを無理やり攫うのは当然か。


きっと、トリアー家に弱みを握られた学生がいて、今回のアントワーヌの拉致に関わっている奴がいるんだろう。


それでも、悪事は許されるはずはない。


僕の大切な・・・アントワーヌを攫ったんだ。


トリアー家同様、きちんと罰を与える。


「そしたら、ジュリアに渡してしまいなよ。僕も立ち会うからさ」


「もちろんよ」


彼女も僕同様、その辺りは察していた。


僕は、ジュリアを呼んで事情を話した。


もちろん、転生の話はしない。


ジュリアは、ヴェルダからトリアー家の悪事の証拠をもらうことを約束した。


その上で、僕たちは急いで騎士団へ向かう。


そこには、アントワーヌの探索を監視しようとするハーヴェイ兄さんたちがいた。


僕はすぐに、ハーヴェイ兄さんにこれまでの経緯を語ると、ヴェルダの保護をお願いした。


ハーヴェイ兄さんにもちろん承諾してくれた。


そして、ヴェルダがアントワーヌが拘束されている場所を教えてくれた。


「アントワーヌの居場所はおそらく、ここだと思います」


そこは港にある倉庫だった。


ヴェルダが、この段階で嘘をつくとは思えない。


誰もが、彼女の言葉に納得している。


「兄上、僕も一緒に向かいます」


「いいぞ、弟よ」


僕の顔を見て、ハーヴェイ兄さんは優しく僕の頭を撫でてくれた。


僕は、アントワーヌを救いたい。


それに、僕がいないと彼女は寂しいと思う。


僕が目の前に現れただけでも、攫われて傷ついた心を癒すことができる。


それは僕にしかできない役目だ。


「では、行こう」


僕はハーヴェイ兄さんに連れられて、アントワーヌの救出に向かった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] ヴェルダなのかヴェルデなのかはっきりして欲しい
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