表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/5

第三話 僕の婚約者が誘拐されました。

翌日から、ヴェルデは学園内で僕にアプローチを仕掛けてきた。


予想通りだし、悪くはない展開だ。


転生ものの展開通りの流れだし、ヴェルダは頭が回るようだ。


どうも、彼女は僕の行動パターンを調べていたようで、僕が一人になるタイミングを計って声をかけてきた。


僕もなるべく、一人にならないようにしているけど、なかなか簡単にはいかない。


ヴェルダは、僕に対してストレートなことはしてこない。


声をかける時は「趣味は何?」とか「この街でおススメのお店とか?」など、ありふれたことを聞いてくるので、アントワーヌのことは聞いてこない。


ヴェルダは、僕とアントワーヌの婚約に関して、焦っていないようだった。


それに気付いたのは、ヴェルダがアントワーヌやジュリアに話しかけていたからだ。


特に、彼女はアントワーヌには時間があれば、声をかけていた。


僕は心配になって、アントワーヌにヴェルダからどんなことを聞かれたのか尋ねると、予想外の答えをもらった。


「ヴェルダ様は、<この学園では流行しているものが何か>とか、<私やジュリア様の普段着ているドレスや私服は何か>とか、普段、みんなと話すことと変わらないものですね」


「彼女が怖いとかない?」


「いえ、気さくな方ですよ」


これはどう思うべきだろうか。


ヴェルダの行動がわからない。


ジュリアもアントワーヌのような感じで、ヴェルダの態度に困っていた。


「あの子、自分に絡んでくる生徒にだけ、態度を変えるようね」


つまり、自分に絡んできたり、いじめようとする生徒には、容赦はないのだろう。


でも、ヴェルダは何をしたいのだろう。


僕はそう考えるようになった時、ヴェルダが男子生徒たちに絡まれているのを目撃した。


彼らは「田舎者」とか「学園を出ていけ」と口々に、彼女の悪口を言っていた。


ヴェルダは彼らを睨みつけながら、話を聞くが苛ついているのがわかる。


うん?


ヴェルダの右手の親指と人差し指が、上下に動いたりしている。


どこかで見た動きだ。


あれって、スマフォをスクロールしている?


ヴェルダの視線も、右手を向いている。


いやいや・・・でも、さすがにそれはないだろう、と僕は自分の考えをやめた。


「いいかげんにしてよ!」


男子生徒に腕を掴まれたヴェルダが大声で叫んだ。


僕は急いで彼女に駆け寄る。


「お前ら、何をしてる?」


僕は彼らに尋ねながらヴェルダの前に出る。


ヴェルダが<悪役令嬢>の立場であろうと、さすがに彼らの態度は女性に対してのものじゃない。


彼らは、さすがに僕が来たのに驚いたようで、ばつの悪そうな顔をした。


「こいつが、俺たちの彼女を泣かせたんだ」


「言ってるでしょ、私は何もしてないって。あの子たちが絡んできたの」


「お前がきつい態度を取ったからだろ?」


「やめろ」


僕は、ヴェルダを後ろに下がらせると、男子生徒たちの前に出る。


「レジスが言ってたぞ。その子たちが、自分の家柄を押し出してきて、彼女を侮辱していたと」


「レジスだって?」


レジスの名前は学園内で有名だ。


レジスとの交友関係は、人によっては大きな影響力を持つ。


その名前を聞いた彼らは、何も言えなくなった。


「お前らも、この子をアントワーヌのようにするつもりか?」


僕はさすがに怒っている。


アントワーヌの時もそうだった。


あれだけアントワーヌの噂を、鵜呑みにして苛めていたんだ。


しかも、爵位の位を持ち出したものもいた。


貴族階級の悪い風習だと思っている。


ヴェルダが今、どういう立場であれ、一人の女の子だ。


こういうことは許されない。


結局、男子生徒たちは、ヴェルダに謝るとその場を去っていった。


「・・・ありがとう」


彼らが去った後、ヴェルダが僕を見る。


彼女はため息をつく。


「いつもああなのよ。別に私が何か仕掛けた訳じゃないのに、勝手にやって勝手に問題持ち込んで何様のつもりよ」


「昔からそうなんだ」


「なに?嫌味?」


「いや、ご愁傷様」


僕の言葉に、ヴェルダが笑う。


まあ、昔からこんなことばかりだったら、性格が捻くれるのも納得だ。


「ねえ、聞いていい?」


そうそう、僕はヴェルダに聞かないといけないことがあった。


「何?」


「ヴェルダは、何がしたいの?」


「えっ?」


ヴェルダが初めて見せるリアクションだ。


やっぱし、何かあるぞ。


「ヴェルダは、みんなと仲良くしたい?」


「・・・できればそうしたいけど・・・」


ヴェルダが言葉に詰まるのは珍しい。


「でも、僕と婚約しているのはわかっているんでしょ?」


「ええ。その件もアントワーヌ嬢に話したわ」


おいおい、マジかよ。


そんなこと、アントワーヌから聞いてないぞ。


「僕は、彼女から聞いてないけど?」


「今日くらいに言われるんじゃない?」


ヴェルダがクスっと笑う。


「女の子には女の子にしかわからないことがあるのよ」


アントワーヌが言わない理由ぐらい察しなさいよ、って言いたいのだろう


勉強になります。


僕は続ける。


「噂を流したのは君?」


僕はヴェルダが、アントワーヌの悪い噂を流したのか確認する。


「それはお父様だと思うわ」


ヴェルダは否定した。


「だから、私は関係ない。私は、アントワーヌ嬢と仲良くしたいもの」


「じゃあ、君はお父さんに言われているのは、僕との接触だけなんだ?」


「否定はしないわ」


ヴェルダの意図は確認できた。


「となると・・・トリアー家の主様を何とかすればいいかな」


「お父様には気をつけてね。あの人、強引なことをしてくるわ」


ヴェルダも僕の考えに同意する。


会話が終わり、ヴェルダが離れていく時、僕はわざと彼女に向けて話しかけた。


「やっぱし、教えてくれるんだ」


「えっ?」


「なんでもない」


僕はヴェルダを見送った。



しばらくして、僕とアントワーヌの婚約が早まる噂が流れた。


噂の出処は、ハーヴェイ兄さんでも、父や母でもなかった。


誰かが意図的に流したようだった。


でも、トリアー家の面々も困惑しているとの情報が入ってきた。


ハーヴェイ兄さん、つまり、トリアー家の内偵をしている騎士団からの情報だった。


じゃあ、誰が流したのか?


「もしかして、君?」


僕は、ヴェルダに尋ねる。


「違うわよ」


しかし、ヴェルダは否定する。


でも、本当なのかな・・・。


僕は納得していない。


僕とアントワーヌの婚約が早まる噂が急速に流れる中、そのタイミングで、アントワーヌは僕の母に呼び出された。


母は、アントワーヌのことがお気に入りのようだった。


アントワーヌが僕の屋敷にくるたびに、自分が持っていて使わなかったドレスを手に、着せ替え人形のようにファッションショーをしている。


「アントワーヌちゃん、これはどうかしら?」


「アントワーヌちゃん、似合っているわ」


「アントワーヌちゃん、可愛いわ」


など、年甲斐もなく、はしゃいでいる。


僕に対しては


「あなたがアントワーヌちゃんと選んだのは、きっと、運命なのよ」


とか


「私に似て、あなたも恋に情熱的なのよ」


と、時々、僕を抱き締めたりして、褒めてくれる。


実年齢は16才だけど、日本にいた頃は20才なんだから、恥ずかしいのでやめて欲しい。


でも、これも親の愛だと思うと、もう何も言わないよ。


アントワーヌも、母とうまくやっているので、日本のドラマとかにあった、嫁姑問題はないと思う。


婚約が早まる噂は、予想以上の反響を得たようだった。


アントワーヌの悪い噂が消えた代わりに、僕たちの婚約を認めてはいけないと、我が家に苦情が殺到したんだ。


当然、デュクルノー家にも苦情が及んだ。


ボナール家の後ろ盾が欲しい連中が、やましいほど多いのだ。


でも、父上はすでに苦情に対して、厳格なまでに対応をしてくれていた。


「今回の婚約は、王家の指示の下に進めている」


父上は、僕とアントワーヌの婚約は王家主導であると、苦情を入れた連中に伝えることで、奴らの動きを押さえ込む狙いがあった。


そのおかげで、苦情を入れた連中の多くが、王家の名前を聞いて退散した。


だが、トリアー家だけは違う。


すでに、王家に取り入ろうと賄賂をばらまいている。


「そろそろ、実力行使にでるかな」


ハーヴェイ兄さんやフェルディアさんたちは、騎士団を動かす準備をしていた。


ハーヴェイ兄さんの情報では、この街の中にトリアー家が営む傭兵ギルド所属する多くの雇い兵たちが、潜入しているそうだ。


「王家絡みと言えば、大半の貴族連中は退散する。でも、トリアー家は違う」


トリアー家は焦っている。


だからこそ、油断はできない。


だが、僕たちの予想を超えたところで、事件は起きた。


アントワーヌが姿を消したんだ。


それも、平日の学園の中で。


ほんの少しの時間、一瞬の隙を狙われた。


僕は、次の授業のために、他の教室に移動をしようとした時、ヴェルダに絡んできた男子生徒たちに絡まれた。


彼らは僕に対して、ヴェルダに惚れているのかと聞いてきた。


まったくのお門違いなことを言うので、僕は何かがおかしいと気付いた。


そもそも、なんで僕に絡んだ?


近くにはフェルディアさんが待機してくれているが・・・。


僕の脳裏に、アントワーヌの姿が浮かんだ。


「師匠!!」


僕が大声で叫ぶと、フェルディアさんが駆け寄ってきた。


「お前、大人を呼ぶなんて卑怯だぞ!」


突然現れたフェルディアさんを見た彼らは、口々に僕に文句を言う。


でも、前と態度が違う。


こうなるとは思わなかったようだ。


「急いで、アントワーヌのところへ向かって下さい!!彼女が危ない!!」


僕が指示すると、フェルディアさんは急いでアントワーヌの元へ向かった。


僕は男子生徒たちに視線を向ける。


僕の態度に、彼らは焦りが見える。


「危ないってなんだよ・・・」


「俺、そんな話聞いてないぞ」


彼らの動揺など、どうでもいい。


僕は彼らに冷たくなった声で尋ねる。


「お前ら、誰に言われた?」


「あ、いや・・・」


「アントワーヌを攫うために、僕を足止めしろって、誰かに言われたんだろ?誰だ?」


僕は彼らを睨みつける。


すると、彼らは話し始めた。


三日前に、見知らぬ男からお金をもらい、僕に絡んでほしいと頼まれたと。


僕がヴェルダと繋がっているので、懲らしめたいとの理由で。


「でも、それだけなんだ。アントワーヌ嬢のことは知らないよ!」


彼らは、自分たちの置かれた立場をやっと理解した。


「利用されたとはいえ、お前たちはしばらく屋敷から出ない方がいいぞ」


「なんでだよ!?」


「その男が、お前たちを口封じで殺すかもしれないし」


僕の話を聞いた彼らは、その場に崩れ落ちると泣き出した。


言い過ぎたとは思わない。


しばらくして、フェルディアさんが戻ってきた。


「アントワーヌ様の姿はありませんでした」


「ジュリアのサロンにいなかったんですか?」


「はい。その前に連れ去れらた可能性があります」


その理由として、普段、アントワーヌが使わない廊下の隅に、彼女の鞄が置かれていたと。


「申し訳ございません」


フェルディアさんが謝る。


「ううん、これは僕のせいです。僕が油断しなければ・・・」


まさか、平日の昼間にアントワーヌを攫うなんて思わなかった。


「ハーヴェイ兄さんに報告して下さい」


「フェリックス様はいかがなさるのですか?」


「僕はヴェルダに会うよ」


こうなると、僕としてはヴェルダに隠している秘密を話してもらわないといけない。


話してもらわないと、アントワーヌを救うことができないと思った。


「ヴェルダは?」


「ジュリア様のサロンにいます」


「ありがとう」


僕は急いで、ジュリアたちのいるサロンへ向かう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ