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9. 遭遇と接触

 翌日の昼、シャーロットは魔導塔の敷地内を散策していた。

 本音を言うとずっと引きこもっていたかったが、ノアに嫌味を言われ、ジョセフに悲しげな顔をされるので、仕方なく部屋の外に出て、軽い運動がてら魔導塔の中を見て回ることにした。


 ノアの嫌味は聞きながせるが、あの人の良さそうな老人を悲しませるのはさすがに堪える。


(本当に広いのね、一日じゃ周りきれなさそう)


 「魔導塔」と言う呼ばれ方から、一つの塔ですべてが完結しているのかと思っていたが、

 実際には複数の建物から成り立っており、かなり膨大な敷地を有している。

 最初は一つの塔だけだったのだが、組織が大きくなるにつれ増築していったらしい。

 魔導塔と呼ぶのは、その名残だという。


 シャーロットの部屋があるのは、そのほぼ中心にある「月の塔」だった。

 一番最初からあるが、そこまで大きい訳ではなく、どちらかと言えば小さくまとまった印象の塔だ。

 ゲームでは、この最上階にノアの部屋もあった。変わってなければ恐らく今もそうだろう。



 久しぶりの外。日差しを浴びながらふらふらと歩き回っていると、色んな人とすれ違う。

 魔導士然としたローブの男、下働きのメイド、見習いらしき子供たち。

 誰もシャーロットのことを気に留めない。みな自分の研究や仕事が第一で、多少見たことない人間がいてもあまり興味はないのだろう。

 その無関心さがシャーロットには心地よかった。


(この人たちのうち、どれくらいが魔族なんだろう。見た目だと全然わからないわ)


 魔導塔は魔王のノアが主を務めているからには、恐らく相当数が魔族なのだろう。

 魔族といえば、角が生えていたり、羽が生えていたりとどこかしら普通の人間と違うところがあるというのが一般的な認識だった。

 強い魔力を持つ秩序の破壊者。それが魔族に対する教会の教えだった。

 魔族を探し出して討伐する専門の組織も教会内には存在していた。

 

 普通の人間は魔族には対抗するのが難しいが、聖力を用いた攻撃は魔の者に対して有効とされていた。

 魔族や魔物の対策に、武器を聖力で浄化し民衆へと販売するのも教会の大事な役割の一つだった。


 ぼんやりと考えことをしながら歩いていると、気が付けば魔導塔の入口まで来ていた。

 大きな門がそびえ立っているが、普段は開かれ、誰でも自由に入れるようになっている。


 その門の付近がガヤガヤと騒がしく、なにやら揉めている様子だった。


「お願いします、私はあの子に会いたいだけなんですの」


 聞き覚えのある声に、血の気が引くのを感じた。

 そちらを見やると、透き通るような銀髪に菫色の瞳の少女が門番らしき魔導士に何か訴えかけている。

 ラヴィニアだった。後ろには騎士たちが控えている。

 自分に暴行を加えた者たちではないのかと思いシャーロットは身構えたが、よく見ると見覚えのない者たちばかりだった。


(すぐにみつかるだろうと思ってはいたけど、こんなに早く。しかもわざわざラヴィニア本人が来るなんて)


 幸いラヴィニアはまだこちらに気付いていない。逃げなければと思うのに、体がうまく動かない。

 焦燥感に支配され、頭が真っ白だった。



 ふと、パチ、パチと足元から音がすると同時に、ほんのり焦げた臭いが立ち上ってきた。

 感情の昂ぶりによって抑えがきかなくなった魔力があふれ出し、地面を焼いている。


 魔力暴走の兆候だった。


 久しぶりの魔力の感覚に、どうやって抑えればいいのかもわからない。

 このまま魔力を溢れさせてしまえば間違いなく騒ぎになるし、ラヴィニアにも見つかる。


(どうしよう、どうしよう、どうしよう……)


 殆どパニック状態でその場に立ち尽くすことしかできなかったが、

 突然、腕を優しく引っ張られ、シャーロットは我に返った。


「こっち、こっち」


 茶髪に緑の瞳の青年だった。始めてみる顔だが、助けてくれるなら誰でも良い。

 シャーロットは大人しくついていき、建物の裏に連れてこられた。


「ここまでくれば大丈夫です。深呼吸してください。はい、ひっひっふーひっひっふー」


 何か違う気がする、とは思いながらも大人しく従う。

 呼吸に意識を集中させていると段々気持ちが落ち着いていくのを感じる。

 それに伴い、魔力の暴走も収まってきた。


「……ありがとうございます。あの、貴方は……?」


「俺はカイ。ノア様の頼れる補佐官。よろしくお願いしますね、シャルちゃん。とりあえず部屋に戻りましょう。俺、近道知ってるんで」



 シャーロットは頷き、大人しくカイの後ろについていった。

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