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58. 大樹の根本で

「ノアを楽にする……って、封印するってことですか」

「それが、貴女の役割ですから」


 不思議な女性は淡々と返し、シャーロットは胸が苦しくなる思いがした。

 

 ノアの苦しみを取り除くために、自分に出来ることであればなんでもしたい、という気持ちは嘘ではない。

 いつのまにか、心の中心に居座ってしまった、大事な人なのだ。

 もっとずっと一緒に居たいし、もっとお互いのことを知っていきたい。

 

 ……でも、封印するということは、おそらく、もう二度と会えないということだ。

 それが、世界とノアのためになるのだとしても、その決断をするのは苦しい。

 

 そして気持ち以外にも、シャーロットが聖女としての役目を果たすには問題があった。

 

「……私、やり方、全然わからないんです。聖力もあんまり無くて、力の使い方もよく分からない……。もしかしたら……、もしかしたら、私、本当の聖女じゃないかもって、そう思ってて……」


 それは薄々思っていたことだった。

 例え身体が聖女のものだとしても、自分の魂はどこか別のところから来たよそ者で、ヒロインの「シャーロット」ではない。

 だから聖女としての力が奮えないのではないか。

 自分が偽物だから、本来のシナリオとずれて、ストーリーがめちゃくちゃになってしまったのではないか。

 本当の、本物のヒロインの「シャーロット」なら、きっともっと上手くやれた筈なのに――。

 

「シャーロット……」


 声を震わせながら告白するシャーロットを、女性は痛みを堪えるような表情で見つめた。


(なんで、この人がこんなに辛そうな顔をするんだろう……)


 そこで、シャーロットは彼女の身体がうっすら透けていることに気付いた。

 やがて女性は、視線を地面へと落とし、口を開く。

 

「……贄の子を、あの樹の根本まで運んでもらえるかしら。そこなら、彼も少し楽になるし、猶予も出来る。……少し、長い話になるでしょうから」


 それまでよりも随分と柔らかい声音で彼女がそういうと、シャーロットを拘束していた魔導具がサラサラと塵となり消えた。

 特になにか力を使った様子は無いのに、一体、どうやって……。いや、今は気にすることではない。 

 言われるがまま、シャーロットは開放された腕に魔力を通すと、ノアを抱きかかえ、淡く発光する大樹の元へと運ぶ。

 シャーロットはゆっくりと、幹にもたれ掛かるようにノアを寝かせた。

 瞬間、僅かに樹の輝きが強くなると同時に、ノアの顔色が幾分か良くなり、呼吸も少し落ち着いた。

 ……この大樹が一体何なのかは検討もつかないが、人智を超えたものであることは確かだ。

 とりあえず、ノアの苦痛が少しでも和らぐならそれでいい。

 シャーロットはふうと息をついた。

 

「……貴女が今、聖力が少ない原因は、その産まれにあるのです」


 二人の様子を見守っていた女性が、ぽつりと呟いた。

 産まれ、とは、どういうことだろうか。

 

「貴女は、聖女に相応しい、とても大きな力の器を持っている。本来は聖力で満たされる筈のその器は……今生では魔力で満たされてしまったの」


 今生では、という言葉がひっかかる。

 それは、別の生ではちゃんと聖力を使えていた、という意味ではないのか

 別の生というのはおそらく……本来のヒロインである、「シャーロット」のことだ。

 シャーロットは唇を噛んだ。

 

「それは、私が……本来の、シャーロットではないから、ですか」


 思わず漏らした疑問に、女性は不思議そうな顔をした。

 

「どうしてそう思うの?」

「それは……私が、別の世界で生きていた、という記憶があるからです」


 それは、シャーロットにとっては罪の告白だった。

 本来そこに居るべきではない、「シャーロット」の居場所を奪った簒奪者なのだという、罪。

 聞いていた翼の女性は、何故か悲痛な面持ちで首を振った。

 

「いいえ、いいえ違うわ、シャーロット。……初めから、順を追って話しましょう」


 ……何故、この人は、こんな顔をするのだろう。

 おそらく、やろうと思えば無理やりシャーロットを聖女として目覚めさせ、ノアを封印させることも出来るのだろう。

 そのためにここに呼んだと言っていたのだから。

 

 シャーロットは、初めにしようとしていた問いを、再度投げかけた。

 

「あなたは……誰なんですか? なんで、私のことを知っているんですか?」


 やはり女性は悲しげな面持ちで、しかし口の端に僅かに笑みを浮かべた。

 そして、慈しむような眼差しをシャーロットに向ける。

 

「私の名はルミネ。シャーロット、貴女のことをずっと見守ってきた、ただの天族の女です」

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