50. しっちゃかめっちゃか
姿の変わったロバートを前に、暫くシャーロットは呆然としていたが、慌ててエスメを守るように前へ出た。
とにかく、彼がエスメに何かをしようとしていたことは間違いない。
「エスメ様に、何をしようとしていたんですか?」
警戒し、体に魔力を巡らせながらシャーロットは問う。
少しでも怪しい動きを見せればロバートを倒すつもりだった。暴力で。
(それにしても、この顔、なんか見覚えがある気がする……)
「ちがっ、違うんです! そんな、危害を加えようとなんてしてないです。僕はただ、フィアマを――」
あわあわと、ロバートは握りしめた手を突き出した。
その手の中から、キィキィと不満そうに鳴くトカゲが顔を出している。
きょろりとした目で辺りを見回すそのトカゲには見覚えがあった。
「このトカゲ、最近エスメ様に纏わりついていた子……?」
「……サラマンダーだね。随分珍しいな。ロバートは精霊師なのか。通りで焦げ臭いなと思ってた」
後ろからのんびり歩いてきたノアが言う。
その姿は余裕の無いシャーロットとは対象的で、そういえばノアは最初から全く焦っていなかった。
おそらく、エスメに危険が無いことをわかっていたのだろう。
その証拠に、面白いものを見るような目をシャーロットに向けている。
シャーロットは一人慌てていた自分が恥ずかしく、腹立ち紛れにノアの肩を軽くはたいた。
痴話喧嘩を他所に、ロバートがため息混じりに話し始める。
「あ、わかるんですか……。そうです、この子は僕のパートナーのフィアマです。最近姿を見なくて、探していたら、この人の首元に張り付いてて……」
それでエスメに手を伸ばしていたのか。
ロバートの言葉を聞いたエスメは、何故かちょっと嬉しそうにトカゲの顔を覗き込む。
「お前、私を気に入っていたの? ふふん。随分見る目があるじゃない」
「まあ……エスメ姫の魔力は、炎と相性がいいからね……」
サラマンダーは炎の精霊だ。
強い魔力を持ち、炎の魔法に適性があるエスメの側は心地よかったのかもしれない。
得意げなエスメを横目に、呆れたような口調でノアが解説した。
ともかく、何事もなさそうで良かった。ノアとのデートを再開できそうだ。
これ以上何事もなく今日を終えたい。
シャーロットがそう思った時だった。
「シャーロット様! そこにおられたのですね! お会いできるとは、なんたる僥倖……!」
遠くから声が聞こえ視線をやると、恐らくそこにいるのはラウルのようだった。
法衣で彼と判別できるが、随分遠い。
会ったというか、目ざとく見つけられただけのような気がする。
キラキラとした笑顔で、シャーロットに駆け寄ってくるのが遠目に見えた。
シャーロットは絶望した。
(ああ……折角今、場が落ち着きかけたとこだったのに……。うう、もうやだ……)
ただ、ノアと思い出を作ろうとしてただけなのに、どうしてこうめちゃくちゃになるのか。
ゆっくり感傷に浸る暇くらい与えてほしい。
大型犬のように駆け寄ってきたラウルは、前触れなくその動きを止めた。
端正なその顔が驚愕に歪む。
「ロベルト殿下ではありませんか!」
「ロベルト……?」
シャーロットには聞き覚えの無い名前だったが、エスメは名前を聞いてピンときた様子だった。
「ああ、ロベルト王子ね。ルミナリアの第二王子が、なんでこんなところにいるのかしら? 入国の報せは受けていないけど」
ルミナリアの第二王子ということは、アルベルトの弟ということか。
どこか見覚えがあると思ったのは、そのせいだったのだろう。
余り似ていないが、どこか纏う雰囲気がアルベルトと似ている。
ラウルは姿勢を正すと、真面目な顔でロベルトの前へ跪いた。
「随分探しましたよ、ロベルト殿下。アンジェリカ様がお待ちです、ルミナリアに帰りましょう」
「い、嫌だ! 僕はもう母上のところには戻りたくない!」
ロバート――ロベルトは、悲痛な面持ちで叫んだ。
そうして、何故アルストルに逃げてきたかを、ぽつぽつと話し始めた。




