43. お貴族様達のやんごとなき大騒ぎ
「一体、何をしてるんですか……?」
ヴィクターに魔力を注がれている鳥の像を見ながらシャーロットはとりあえず尋ねた。
よく見ると嘴で大きな水晶玉を咥えている。魔力に反応してか、その玉はほんのりと赤く輝いていた。
「見ての通り、ヴィクターに魔力を溜めさせているのよ」
鳥の像の前で真っ赤になっているヴィクターを指しながらエスメが答える。
全然説明になっていないし知りたいのはそこではない。
突っ込んで聞いてもまともな回答が返ってこなさそうだ。
ふとエスメを見ると、襟元から何か生き物の頭が覗いているのが見えた。
(……あれは、トカゲ?)
シャーロットの視線に気づいたエスメは、襟元から赤いトカゲを無造作に引っ張りだした。
乱暴な扱いにキィキィと鳴いて抗議するトカゲ。
(……トカゲって鳴くっけ?)
エスメは面倒そうに、掴んだトカゲをシャーロットに見せた。
「なんだか懐かれちゃったみたいで。昨日からずっと私に纏わりついているの、この子。まあ、結構愛着湧いてきたから好きにさせてるけど」
「そ、そうなんですね……」
相変わらず謎が多い姫様だ。
これ以上トカゲについて尋ねても無駄だろう。そう考えたシャーロットは質問を変えた。
「エスメ様とヴィクターって知り合いだったんですか?」
「クリフォード侯とお父様が結構仲が良くてね。小さな頃からよく顔を合わせていたわ。まあ、幼馴染みみたいなものね」
そういえばヴィクターは名家の出身だとアルストルへ訪れる道中聞いた気がする。
そこまで興味も無かったのもありすっかり忘れていた。
確かに同じ年頃の貴族なら王女と面識があっても不思議ではない。
「うう……。最悪ですよ! こんなところまできて姫様のお守りをする羽目になるなんて!」
話を聞いていたらしいヴィクターが大げさに嘆く。
発言が癇に障ったらしいエスメがすかさず叫び返した。
「うるさいわね! ちょっと買い物に付き合って貰ったり、こっそり魔物退治に同行させて貰ったりしただけじゃない!」
「ちょっと!? 行く先々で姫様が起こしたトラブルの後始末、誰がやってると思ってるんですか!? 魔物退治だって、騎士団の方々に姫様の正体がバレないようにするの大変だったんですからね!?」
「いいじゃない別に! 私が色んな見聞を広めると引いては国のためになるのよ! 貢献できて有り難いと思うことね!」
「旅芸人のマネごとしたり、商品を限界まで値切ったり、チンピラからカツアゲして小遣いを稼いだりする経験が国家運営の何の役に立つんですか!? 一国の姫のやることじゃありませんよ!」
最近ヴィクターの姿を余り見ないと思っていたら、エスメに振り回されていたらしい。随分仲が良さそうだ。
同じく二人のやり取りを見ていたランドルフが肩を竦めながら言った。
「……『赤月祭』が近くてよかったですね。王族特有の金の瞳も、早めの仮装だと誤魔化せますから。そうでなかったらエスメ姫の評判が酷いことになっていましたよ」
「まあ、確かに……。ところで、この鳥の像も『赤月祭』に向けた準備なんですか?」
「ええ、そうです。街中にあった小鳥があしらわれた石柱は見ましたか? あの小鳥とこの像は魔力のパスが繋がっているのです。赤い玉に魔力を溜めておいて使用する時に破壊すると、放出された魔力は小鳥を通じて街中を満たします」
ニコニコと語るランドルフ。魔力が街中を満たす、とだけ聞くと、かなり危険な印象を受ける。
怪訝な顔をしているシャーロットに気づいたのか、ランドルフは言葉を続けた。
「ああ、勿論危険はありませんよ。小鳥から放たれる魔力に破壊力はないのです。ただ、街を満たす魔力の濃度が上がるだけです」
「……すると、どうなるんですか?」
「街中が光ります」
「え?」
ランドルフはすぐ側にある建物を指差した。
他の建物と同じように、色とりどりの水晶が飾られている。
「あの水晶は、大陸から特別に輸入したものなんです。強い魔力に反応して発光するそうで、街の魔力濃度が一定値を超えると一斉に輝きます。素敵ですよね?」
「そうですね……」
「ということは、あれは全て魔結晶なのですか? 随分貴重なものをたくさん仕入れられたのですね。値段もそうですが、そもそも物を確保するのも難しかったでしょう」
それまで黙って話を聞いていたラウルが口を開いた。
「ええ、まあ。ちょっとコネがあったもので」
曖昧にランドルフが微笑んで答える。
「ランドルフはこの辺りの領主――カルヴァート伯の三男で、アルストル一帯の治安維持を任されているの。それで、貿易の関係者にも結構顔が広いのよね?」
エスメがシャーロット達の方を向き口を挟む。
いつのまにやらヴィクターとの口喧嘩は終了していたらしい。
「ランドルフさんもお貴族様だったんですか……」
「とはいえ、家を出た身。今はランドルフ・アンカーソンですよ。一介の騎士です」
若くして騎士団長の地位についているからにはそれなりの背景があるということなのだろう。
ランドルフの場合は実力も伴っているので、どこからも文句は出なさそうだが。
「そんな貴重なものを、こんなにたくさん配布されたんですか……?」
「まあ、独り身だと財産があってもあまり使い道もありませんからね。それに――」
言葉を切り、ランドルフはゆっくりと辺りを見渡す。
シャーロットもつられて同じ様に視線をやった。
色とりどりの街、様々な人々。
誰も彼もがどこか楽しそうで、祭りに向けて浮足立っているのが感じ取れる。
「――私は、この街を、街の人々を愛しているのです。皆さんに喜んでもらえるのなら、それに代えられるものはない」
ランドルフはそう言って街を眺めながら、慈しむように微笑んだ。
シャーロットはその横顔を見ながら、何故か自分まで胸が一杯になるのを感じた。
ただただ、美しいと思った。




