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4. はじめての希望

 夢を見ていた。

 ほんの束の間、幸せで、そして絶望につながる記憶。


「シャル、また怪我してる。こっちにおいで、手当してあげるから」

「……ありがとうございます、アルベルト様」


 金髪の金眼の青年が柔らかく微笑む。


 アルベルトはルミナリア神聖国の第一王子だった。

 王家特有の金の瞳を持つ、優しい風貌の美青年。優秀で剣の腕も立ち、次期神聖王はアルベルトで間違いないとされていた。


 聖女ラヴィニアは元々ルミナリアの公爵家の生まれで、アルベルトはラヴィニアの従兄に当たる。

 聖女の力を発現する以前からアルベルトにはよく懐いていたらしい。

 聖女となった今も、「おにい様とお茶がしたい」と言って、よくアルベルトを大神殿に呼びつけていた。

 優しい王太子殿下はどうしても外せない場合以外、殆どその呼び出しに応じていた。

 勿論、聖女の機嫌を損ねて教会と王家の関係の悪化を避ける意図もあったのだろう。


 アルベルトが来ている間はラヴィニアも大人しくなるので、聖女の周りの人間も彼の訪れを歓迎していた。

 それでなくても、分け隔てなく優しいアルベルトは人気があり、ほのかな恋心を抱く若い女は多かった。

 ただ、王太子殿下にアプローチするような身の程知らずはいなかったし、なにより、少しでもアルベルトと接触があると、その後決まってラヴィニアが酷い癇癪を起こすので、みな憧れどまりではあったが。


 シャーロットもその中の一人だったが、ある時を境に大きく関係を発展させることになる。



(この辺りに、薬草が植わっていたはず……)


 ボロボロの体を引き摺りながら、シャーロットは神殿の裏庭で薬草を探していた。

 事の発端は、いつものようにアルベルトが大神殿に呼ばれラヴィニアとお茶を楽しんでいる間。

 アルベルト付きの従者に公衆の面前で愛を告白されたことだ。


「ずっと、君のことが気になっていて……、よければ僕と交際してくれませんか」


 純朴そうな青年は顔を真っ赤して告げる。反してシャーロットの顔は真っ青になった。

 こうしたことは初めてではない。見目麗しいシャーロットは男性に人気がある。

 問題は、これがラヴィニアの耳に入ると、決まって酷い折檻を受けることだった。

 今も、ラヴィニアお気に入り侍女たちが蔑む様にクスクス笑っているのが聞こえる。


「ほんと、顔だけは良いから殿方たちに人気があるわね」

「ラヴィニア様と顔だけは似てるから……。汚らわしい魔力持ちの癖に。娼婦でもすればいいのよ。お似合いだわ」


 実際、ラヴィニアとシャーロットは似ていた。どちらも同じ銀髪に儚げな雰囲気の美貌。

 違うのは、ラヴィニアの瞳は菫色なのに対し、シャーロットは夜明け前の様な深い瑠璃色の瞳を持つことくらいだった。

 また、ラヴィニアは常に優しい笑みを浮かべているのに対し、シャーロットはほぼ無表情なので、相手に与える印象は大きく違っていた。


「申し訳ございません、私はラヴィニア様に仕える身ですので……」


 シャーロットが丁寧に断りの文句を述べると、従者の青年は肩を落とし、仕方ないとばかりに笑って見せた。

 いつものように、彼女たちはこの出来事をラヴィニアの耳に入れ、ラヴィニアはシャーロットを嬲るだろう。


 そうして実際その通りになり、シャーロットは傷の手当をするために、薬草を探して裏庭を這っているのだった。


 やっとのことで薬草をみつけたシャーロットは、辺りにあった石で磨り潰し患部に塗り込んだ。

 間に合わせ以外の何物でもないが、なにもしないよりマシだろう。

 ホッと一息ついていると、背後から声をかけられた。


「君は……ラヴィニア付きの侍女かな? 怪我をしているようだけど」

 

 振り向いた先には、いつも遠目から見ていた金色の王子様がいた。

 それがアルベルトとの出会いだった。


 ルミナリア神聖国の王族として僅かながらも聖力を持っていた彼は、シャーロットの傷を癒してくれた。

 初めて人から優しくしてもらったシャーロットはあっさりと恋に落ち、そうしてお礼を言って逃げるように持ち場に戻った。


(アルベルト様とお話できただけでなく、治療までしていただけるなんて)


 また酷い目に遭っても、今日の記憶だけで生きていけそうな気がしていた。


 そしてそう間を置かずに、シャーロットはまた裏庭で同じようにアルベルトと会った。

 前回と全く同じシチュエーション。

 二人は会話を交わすようになり、距離を縮め、恋仲となるのに時間はかからなかった。


 まるで定められているかのようだった。


 アルベルトはラヴィニアの本性を知らないので、ただ単によく怪我をするそそっかしい巫女だと思っていたようだが。


 いつの間にか、アルベルトが大神殿に訪れる際には、この裏庭で落ち合うのが約束となった。




「今日は王都で流行っているアクセサリーショップの髪飾りを持ってきたんだ。シャルに似合うと思って」

「わあ、すごく可愛い……」

「受け取って。ほら。綺麗だよ」


 そう言ってアルベルトは髪飾りをシャーロットの髪に挿した。

 金の花の髪飾り。アルベルトと同じ色のものを贈られ、シャーロットは浮足立つのを感じた。



「ありがとうございます……。でも、こんな素敵なものを身に着けていたら、神殿で浮いてしまいます」

「じゃあ、一旦僕が持っておくよ。いつか正式に君を迎えに来たら、その時、改めてこれを贈るね」


 アルベルトは微笑み、シャーロットの頬にキスをした。


 いつか、アルベルトが迎えにきてくれる。

 それだけを希望にシャーロットは日々を過ごしていた。

 希望を持つなんて、生まれて初めてだった。



 勿論、そんな日々は長くは続かなかった。

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