31. 名探偵シャーロット
シャーロットは、ノアとくだらない話をしながら<月の光亭>の部屋へと戻ってきた。
メロディと同室だが、彼女の姿は見えない。
宣言どおり買い物に出ているのだろう。原作のことを思い出すときは一人になりたいので丁度良い。
シャーロットは小さい鞄から紙とインクを取り出した。
シャーロットの荷物は少ない。というか、原作のことを書いて整理するための紙とインク、それと着替えが数着しか持ってきていない。
一方メロディはやたら荷物が多く、部屋の面積は彼女の荷物でほぼ埋まっていた。
思えば一度も同じ服を着ているところを見たことがない。相当量の衣服を持ってきているらしい。
というか、あの狭い馬車の中にどうやってこの量の荷物を積んでいたんだろう? とシャーロットは疑問に思った。
(まあ……帰ってきたら聞いてみましょう)
気を取り直し、シャーロットは荷物に占領されていないスペース――つまりシャーロットのベッドの上――へと避難し、紙を広げた。
それをノアが興味深そうに覗く。
「何を書くの? また日記?」
そういえばこの男がいた。カラス姿で側にいることに慣れすぎて存在を失念していた。
とっとと追い出そう。
「あー、そうです。覗かないでください。ノアのえっち」
そういうと抗議するようにバサバサと羽ばたき、少し離れたところに止まった。
あそこからだと覗けなさそうなので良しとしよう。
シャーロットは記憶を探り始めた。
(アルストルのイベントは、確か物語の中盤。そのとき一番親密度の高い攻略対象と一緒に、ここを訪れるっていうのが始まりだった筈)
国交を断絶していたルミナリアとウィンザーホワイトだったが、シャーロットの働きで交流を持つようになる。
そんな中でのアルストルの魔物大量発生。
二国の繋がりを強化するためにも、「シャーロット」は事態の解決に乗り出す――というのがこのイベントの始まり。
今一番重要なのは、何故魔物が大量に発生しているかという原因だ。
そこさえ思い出せれば、早期解決が出来るかもしれない。
(そう、確か……何かから逃げてきているのよね。元々住んでいた場所を追われて)
そこまではなんとか思い出したが、肝心の「何」から逃げているのかは思い出せない。
そもそも魔物が何かを怖がることなんてあるのか。
理性なく見境なく人間を襲っているイメージしかない。
「ねえ、ノア。魔物が恐れるものって何か心当たりありますか?」
丁度良くそういうことに詳しそうなトリが側にいたので聞いてみた。
「そうだね。同じ魔に属するもので、自分より遥かに格上の力を持っているものは恐れるかな。少し上、くらいだと駄目だね。例えば、それこそ魔王。といっても今のこの姿だと無理だね。後は邪神や――邪竜とかかな」
シャーロットはそれを聞いて思い出した。
(そうだ、邪竜よ! 邪竜がどこかからやってきて、それに怯えた魔物達がここまで逃げてきているんだわ!)
ノアが側にいてくれて良かった。便利だし。
シャーロットは機嫌を良くした。先程までノアを追い出そうとしていたことは、都合よく忘れていた。
「その、邪竜がどこかに住み着いて、それが原因で魔物たちがこの辺りまでやってきてる……ってことはないですか?」
内心はかなり得意になっていたが、シャーロットは白々しくノアに問うた。
(ふふん。私の慧眼に感心する筈よ)
そう思って期待を込めた目でノアを見つめる。
が、しかし、ノアからの返事はつれない。
「いや、それは無いね」
「なんでそう言いきれるんですか。可能性として、考えてみても――」
そう言い募るシャーロットの言葉を遮り、ノアは告げた。
そしてそれは予想だにしないものだった。
「邪竜は、十五年ほど前に何者かによって倒されたんだ。もうこの世に存在してないのさ」




