30. 港町アルストル
それからシャーロットは、倒れている御者の男の様子を見て、とりあえず怪我は無さそうだと安心した。
万が一があると怖いので、一応自身の聖力をかき集めて治癒を試みた。
以前よりは力が強まっている気がするが、実際どれくらい効いたのかはわからない。
その後何事もなく目を覚まし、また馬車を走らせているのできっと大丈夫なのだろう。
馬車に隠れていたヴィクターはと言うと、
「ボクはこの馬車を守っていたんです。これが壊されたらこの後移動が大変になりますからね。先を見た行動と言えるでしょう」
と早口で言い訳をしていた。
まともに相手をするのも面倒だったシャーロットは無言を貫いた。
一方メロディはニコニコと笑って、
「そっかそっか偉いね~」
と幼児をあやすようにヴィクターをいなし、ヴィクターを黙らせていた。
そして静かになった馬車の中、ふとシャーロットはある疑問を抱いた。
(ワイバーンを爆破した時、腕輪で抑えられているにしては火力が出ていた気がする)
気になったシャーロットは、ノアと二人きりになった際に疑問をぶつけた。
「一瞬だけ抑えをちょっと緩めたんだ。その辺の魔導師には出せないくらいの魔力は出てたと思うよ」
そうノアは説明した。
有難いが、いつもノアが側にいる訳ではない。
仮に抑えが無くてもなんとか戦えるような魔力の使い方を考える必要がある。
これは暫くシャーロットの課題になりそうだった。
そうしてまた数日馬車を走らせ、一行はアルストルへと辿り着いた。
◆◆◆
「わ、すごい……」
シャーロットはアルストルの街を眺めながら思わず感嘆の声を漏らした。
暫く滞在する予定の宿屋<月の光亭>に荷物を置き、シャーロットはノアと港へと向かっていた。
アルストルの街は、とにかく人々に活気がある。
あちこちに露店が立ち並び、店主たちが大きな声で呼び込みを行い、人々が足を止め商品を眺めている。
ところどころ異国訛りの言葉も聞こえる。港町だけあって各地から人が集まり、また、ここから人が出て行くのだろう。
そのまま道なりに進み、坂道を下って行くと視界が開けた。
港についたのだ。
鼻腔を潮の香りがくすぐる。
シャーロットはどこまでも続く海を見て、感動したように息を漏らした。
そんなシャーロットの様子を見たノアが可笑しそうに言う。
「始めて海を見る訳じゃないでしょ? ウィンザーホワイトに来る時に海を渡ったんじゃないの?」
「それはそうなんですけど、あの時はあんまり景色を眺める余裕もありませんでしたから……」
あの時から、ゆっくり見てみたいとは思っていたのだ。
常に何処かに逃げたがっているシャーロットにとって、どこまでも続く海は、ここではない何処かに繋がる希望のように見えた。
(あれ? でも、この景色どこかで見たことあるような……)
そんな筈はない。シャーロットはウィンザーホワイトを訪れて以降、ノインから出たことは無かったのだから。
何故そう感じたのだろう。
シャーロットは暫く考え込み、そうして思い出した。
(原作のストーリーと同じなんだわ……)
確か、ゲームのストーリーでも、アルストルで魔物が異常発生し、解決するために「シャーロット」がここを訪れるイベントがあったような気がする。
そうすると、このイベントについてきちんと思い出せば、早期解決が出来るかもしれない。
宿屋に帰ってゆっくり整理しよう。
シャーロットはそう心に決め、港を後にしたのだった。




