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29. はじめての実戦

 最初に動いたのはメロディだった。

 遠くへ飛び去ろうとしているワイバーンの方を見つめると、慌てる様子もなくどこからか――本当に一体どこから?――先端に星のオブジェがついた短い杖を取り出し、大きく振りかぶる。


「てぇいっ」


 そしてそのまま掛け声と共に、低空飛行しているワイバーンへと投げつけた。


(それ投げて使うんだ……)


 驚くべき精度とスピードで放たれたそれは、真っすぐにワイバーンへと飛んでいき、そのコウモリの様な羽を射貫いた。

 見かけに寄らず肩が強いようだ。

 

 獰猛そうなワイバーンにファンシーな杖が刺さっている。

 緊迫した場面である筈なのに、そのやや滑稽な光景にシャーロットは気の抜ける思いがした。

 

 そのまま眺めていると、翼から生えた杖から電撃が発生し、ワイバーンの全身を包み込んだ。

 ワイバーンはグギェギェという奇妙な叫び声を上げ、その衝撃で御者の男を離す。

 そのまま男は地面へと落下した。


「ぐえっ」


 地面に叩きつけられた男は、潰れた蛙の様な声を上げ動かなくなった。

 

(えっ、死んでないよね?)


 よく見ると、微かに胸が上下しているのが見える。

 高度がそこまで無かったことも幸いし、どうやら気絶しているだけの様だ。

 シャーロットはほっと胸を撫で下ろした。


「あ~、受け止めること考えてなかったぁ。うっかりうっかり」


 メロディがまるで反省してなさそうな声音で呟く。

 うっかりで済む問題なのだろうかとは思ったが、シャーロットは男の事は一旦後回しにした。というか、するしかなかった。

 衝撃から立ち直り、口で杖を引き抜き投げ捨てたワイバーンが、こちらに向かって来たからだ。

 明らかに怒り狂っている。

 誰かどうにかしてくれないかな、と他力本願なシャーロットは辺りを見まわした。

 

 目が合ったメロディがシャーロットに向かってウィンクする。

 

「もう使えそうなやつ手元にないよ~」


 それならそれらしくもっと焦って欲しい。

 シャーロットは馬車の方を振り返る。確かヴィクターがあそこで固まっていた筈だ。そろそろ立ち直っている頃だろう。

 しかし、探してみてもヴィクターの姿は見えない。まだ馬車の中にいるのかもしれない。

 

(となると私がどうにかするしかないのね……)


 実戦は初めてだ。流石に少し怖い。一歩間違えれば死ぬかもしれない。

 そう思うと、恐怖が足元から這い上がってくる。シャーロットは不安で身がすくんだ。

 ワイバーンはこうしている間にもこちらに近づいて来ている。

 はやく何とかしなければ。

 そう焦れば焦るほど、シャーロットは頭が真っ白になるのを感じた。

 

 その時、耳元でノアが囁いた。


「何も考えず魔力を放てば良い。シャルなら大丈夫さ」


 その声に安心し、余計な力が抜けるのを感じた。

 シャーロットは深呼吸する。

 

(大丈夫。いつもみたいにやればいい。ノアもついてる)


 とにかく、攻撃できればいい。出来れば確実に一撃で仕留めたい。

 あんまり難しいことは出来ないから、とにかく威力の高い攻撃を打ち込むことに集中する。


 シャーロットは心を決め、ワイバーンに向かって全力で魔力を放った。


「――爆ぜろ!」


 魔力は正確にワイバーンを射貫き、その魔物の全身を微かに発光させる。

 次の瞬間、爆音と共にワイバーンの体が破裂した。煙がもうもうと上がる。

 

 煙が全て晴れた後、そこには何も残っていなかった。

 ワイバーンは、痕跡すら残さず消えていた。


「あーあ、ワイバーンの素材、結構貴重なのに……。でも、よくやったね。えらいえらい」


 ノアが羽でシャーロットの頭を撫でた。

 少し羽毛がくすぐったいが、褒められるのは素直に嬉しい。

 シャーロットは微笑んだ。



「えっ、すっご……」


 その背後ではメロディと馬車に隠れていたヴィクターがそれぞれ、目の前で起こった光景に驚きを隠せず、呆然としていた。

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