27. やっぱり側にいてほしい
「はぁ~……」
シャーロットは大きく伸びをしながら息を吐いた。
馬車に長時間乗っていると身体が凝る。
あの二人と長時間同じ空間に閉じ込められているというのもあって、シャーロットは疲労困憊だった。
その二人はというと、今日の夜滞在するこのやや小さめの都市に着いた途端、それぞれどこかへと消えていった。
魔導師というのは誰も彼も協調性がないらしい。
シャーロットとて余り人の事は言えないが。
宿屋にとってある部屋に戻っても良いが、とにかく今は外の空気が吸いたい。
好きに過ごしていても何も文句は言われないだろう。
シャーロットは宿屋の裏手にある芝生に仰向けに転がって空を見上げていた。
カア、とカラスの鳴く声がした。もうすぐ日が落ちる。完全に落ち切ったら宿屋に戻って食事を取ろう。
また、カア、とカラスの鳴く声がする。今度は随分と近い。この辺りに巣でもあるのだろうか。
「カア」
「え?」
シャーロットはカラスに顔を覗き込まれて、慌てて飛び起きた。
(なに、このカラス、私に話しかけてる?)
バサバサ、と翼を動かして何かを主張するカラス。
どう対応していいか分からず暫く眺めていると、再びカラスが口を開いた。
「どう、ノインの外は。旅は順調?」
「カラスが喋った!?」
突然流暢に話し出したカラスに驚き、シャーロットは思わず後ずさった。
賢い鳥は人の声を真似するというが、そういうレベルではない。明らかに人の声そのものを発していた。
カラスはぴょこぴょこと歩き、シャーロットとの距離を詰める。
そして再び人の声を発した。
「僕だよ。シャル」
「……ノ、ノア?」
カラスは満足そうに羽をばたつかせた。よく見るとノアと目が赤い。
「ど、どういうことですか・……?」
「使い魔だよ。意識をちょっと分割してこの子に乗せてる。派手な魔法は使えないけど、シャルを放り出すのは流石に不安だからね。同行してもらってる二人も、悪い子じゃないんだけど、ちょっと問題のある子だから……」
どういう形であれノアがついてきてくれる。
シャーロットは安堵し、知らずの内に大きく息を吐いていた。
「……ありがとうございます。嬉しいです。無自覚でしたが、やっぱりノアが居ないと、結構不安だったみたいです……」
それを聞いたカラスは嬉しそうにカア、とまた鳴いた。
「あれぇ、シャルちゃん? 何してるの? カラスとお喋り?」
声をかけられ振り向くと、ヴィクターとメロディが興味深そうにこちらを覗き込んでいる。
このカラスに大魔導師ノアの意識が乗ってるとバレたら面倒なことになりそうだ。
二人にはノアの婚約者だということも言っていないのに。
シャーロットは慌てて誤魔化した。
「あ、えーっと……彼は私の使い魔です。喋る事もできます」
「へえ、使い魔が言葉を話せるようにするなんて、結構高度な魔法が使えるんですね」
ヴィクターが感心した様に言う。
メロディは何故か得心がいったような顔でしきりに頷いていた。
ヴィクターがカラスに話しかける。
「おいカラス、お前、名前はなんと言うんです」
「……ノワールだよ」
カラスが不服そうに答えた。
「まあ、ボクの邪魔をしないなら何でもいいですけどね。あんまり煩いようだと焼き鳥にしてしまいますよ」
ヴィクターがカラスとシャーロットを見ながら言う。
カラスが抗議するように飛び上がってヴィクターの顔を蹴り上げた。
「いてっ! あ、こらなにするんです! 本当に焼きますよ!」
カラスはまるで恐れる様子もなく、飛び上がってシャーロットの肩に止まった。
ヴィクターが怒ってこちらを睨みつけている。
(まさかヴィクターも、自分が大魔導師ノアを焼き鳥にしようとしてるなんて思ってないでしょうね)
シャーロットは可笑しくなって小さく笑った。




