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25. 魔王様のお達し

 その日、シャーロットは泉のほとりで日向ぼっこをしていた。

 曇りが多いウィンザーホワイトにしては珍しく天気が良い。絶好の日向ぼっこ日和だ。

 それに、本格的に冬になり冷え込んでくると、こんなにいい気分であったかい日差しを浴びることは出来ないだろう。

 思う存分ぽかぽかだらだらしないと損だ。

 そんな自堕落極まりない思考でシャーロットが一生懸命ぼんやりしていた時のことである。


 とん、とシャーロットの肩に軽く手が置かれる。

 やや微睡んでいたシャーロットがゆっくり振り返ると、そこにはノアが口の端に笑みを浮かべて立っていた。

 ノアはシャーロットがどこにいようと用事があれば現れる。

 大抵は大したことのないものだったが、シャーロットは自分の居場所が何故筒抜けなのだろうと若干疑問に思っていた。


(……なんだかいつもと雰囲気が違う気がする……)


 突然現れたノアのその優しげな微笑に、何故だか嫌な予感がした。


(何か怒られるようなことしたっけ……?)


 たまたまノアの部屋に訪れた時に置いてあったクッキーをつまみ食いしたのがバレたのか。

 それとも、図書館から借りてきた本に紅茶を零してしまったのがバレたのか。

 一番まずいのは、歩いている時にたまたま見つけた無人の小屋の壁に、うっかり穴を開けてしまったのがバレていることだ。

 落ちていた木の板を立てかけて誤魔化してはいるが、また物を壊したのかと呆れられるのが嫌でまだ申告出来ずにいた。

 どっちにしろ怒られるなら自分から言えば良かった。


 シャーロットが焦りながら思考を巡らせていると、ノアが笑みを浮かべたまま口を開いた。

 そして、それはシャーロットが一番聞きたくない一言だった。



「そろそろ働け」




 ◆◆◆




 ウィンザーホワイトの首都ノインは、この国がある島のほぼ南端に位置する。

 アルストルは、ノインから北東、島の中央付近にある港町だった。

 国内最大規模の港を有し、ウィンザーホワイトの交易の要であるこの都市は、ノインの次に栄えている都市といっても過言ではない。

 そんなアルストル付近で最近魔物の出現が急増しているのだという。

 ノインからも騎士団を送って対処しているが、まだ手が足りていないらしい。


「魔導塔からも人を寄越すよう要請されちゃったんだけど、今丁度人手不足でね……。派遣できそうなのが見習い卒業したての子たちしか居ないんだ。で、君にも同行して欲しい」


 ノアの執務室にシャーロットを連行し、ウィンザーホワイトの地図を見せながらノアは語った。


「えー……。正直自信ないんですが……。魔力操作も碌にできないし……」


 小声でシャーロットが抗議する。

 それを聞いたノアは呆れたようにため息をついた。


「だからだよ。のんびり基礎から教えるのは悠長すぎるし、突貫で学ぶとなったらやっぱり実戦が一番だからね。それに、そろそろ穀潰しでいるのが申し訳なくなってきたんじゃない?」

「いえ、そんなことは……」

「だから、役に立てる機会を与えてあげようと思って。僕、こう見えて結構寛大だからさ」

「……」


 思い切り不満を表情に出してみたが、ノアはそれを見ても全く表情を変えない。

 シャーロットが何を言ったところでこの決定が揺らぐことは無さそうだ。

 諦めて渋々了承すると、ノアが満足そうに頷いて言った。


「出発は明日の朝。馬車を出すから、それに乗ってアルストルまで向かってね。急かもしれないけど、構わないでしょ? どうせすることも無いんだし」

「明日の朝ですね……。わかりました」


 シャーロットは後半は聞こえなかったことにした。

 

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