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閑話 ある少女の記憶

投稿再開します

 白い部屋、白い天井、窓から見える景色。それが私の世界の殆どを占めていた。


 産声を上げた瞬間から体は病魔に侵されていた。

 医者からは「一年も持たないだろう」と告げられていたらしい。

 幸い――といっていいのか――私の両親は資産家だったため、娘の治療に惜しみなく財産をつぎ込むことが出来た。

 

 富裕層向けの豪華な病室と、最新の医療。それが私に与えられた全てだった。

 両親が面会に来ることは殆どなかった。

 たまに訪れたと思うと、何を言っていいのかわからない、という顔で黙り込んだ後、「じゃあ、この後も用事があるから」とそそくさと帰っていく。

 愛していないことはないのだろうが、自らの手で育てていない娘に対してどう接して良いのかがわからなかったのだろう。

 それは私も同じだったので、「もっと会いに来て欲しい」と我儘を言うこともなかった。

 一抹の寂しさはあったが、年の離れた姉は頻繁に訪れてくれてたし、それに私には、他に心の拠り所があった。




 ◆◆◆



 

(シャーロット、大丈夫かな)


 目の前で銀髪の少女が巨大な尾に吹き飛ばされ、地面に叩き付けられる。苦悶に顔が歪んでいた。

 彼女を傷つけた尾の持ち主は、黒い竜だった。

 その体は巨大で、現実で見たことのあるどの生き物よりも大きい。黄色い目が爛々と狂気に染まっているのが見て取れた。

 黒竜はシャーロットにとどめをさそうとその爪を振り上げた。

 助けたい。しかし、私には何もすることが出来ない。



 これは夢だった。眠る度に見る夢。

 

 始まりはいつも十八になったシャーロットがルミナリアを訪れるところからだが、そこからは毎回違っていた。

 多くの場合は、聖女として修業を積み、誰かと恋に落ちて、魔王を封印する。

 毎回上手くいくとは限らなかった。むしろ、その途中で命を落としてしまうことの方が多かった。

 一番多い死因は、この黒竜だった。


 今回のシャーロットもここで命を落としてしまうのだろうか。

 そう不安になって見守っていると、寸でのところでルミナリアの王子アルベルトが彼女をかばって剣で爪を弾いた。

 そのまま猛攻を仕掛け、しばらくすると黒竜は聞くに堪えないような声で絶叫して息絶えた。

 良かった。今回はもうちょっと生きていてくれそうだ。


 毎日夢で見るシャーロットは私の生きる希望だった。

 明るくて、前向きで、いつも挫けない。見ているとこっちまで元気を貰えるような女の子。

 現実の自分は殆ど病室から出ることは出来なかったが、夢の中だと違った。

 シャーロットと一緒に草原を歩いた。人々が行きかう街並みを歩いた。友達とお喋りして、そして恋をした。

 実際の自分は病に侵され、ギリギリで命を繋いでいるような体だったが、夢の中だとそれを忘れることが出来た。


 夢の中の私は見ていることしか出来ないので、直接シャーロットと話したことはない。

 それが出来たらどんなに良いだろう。

 幾度となく彼女の人生を見てきた。彼女に訪れる危機を予め教えてあげたいし、仲良くなりたい。

 話したことはないが、彼女は私の親友だ。


 シャーロットが私の心の拠り所だった。


 

 お見舞いに来てくれる姉に頻繁にこの話をした。病室からほぼ出ないような生活だと他に話すことがなかったというのも大きな理由ではあるが。

 姉はいつも興味深そうに私の話を聞いてくれた。


 そしてある日、姉は私に告げた。



「××ちゃんの話してくれる夢の内容を参考に、ゲームを作ってるんだ。試作品が出来たから、良かったらプレイしてみてくれない? 感想聞かせてよ」

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