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23. 芽生える野望

 カイは王都の上空を高速で飛んでいた。

 幸いシャーロットの魔力の臭いは覚えている。辿っていけばすぐに見つけられるだろう。


(しかしまたあの姫様も面倒なことしてくれましたねえ)


 ノアがシャーロットに渡した腕輪には魔法がいくつも重ねがけされていた。その内の一つに追跡魔法がある。

 あれをエスメが取り上げてさえ居なければもっと楽に見つけられただろう。

 もっとも、腕輪付きのシャーロットは危険性が低いのでカイが探しに行けと命令されることもなかったかもしれないが。

 

(いや、どうでしょうねえ。ノア様思いの外あの子気に入っているみたいだし)


 カイ個人としては、シャーロットが多少傷つこうが死ななければ良いと考えていた。

 目的のために生きていてもらう必要はあるが、それだけである。

 仮にも魔王であるノアの婚約者だというのに「シャルちゃん」と不敬と取られても仕方がないような呼び方をしているのは、カイがシャーロット自身に敬意を払う価値をまるで感じていないという証左であった。

 

 ラヴィニアが現れた時に魔力暴走を起こしかけていたのを助けたのも、その後落ち着かせるために話し合いの様子を見せたのも、全て魔導塔を守るためだ。

 あの魔力量で魔力暴走を起こされるのは溜まったものではない。

 

 聖女らしからぬ濁った眼差しと綺麗な顔立ちは気に入っていたが、それ以上の大した価値は感じていなかった。

 ノアの方は徐々にシャーロットの事を気に入り始めている節があるが。

 

 

 スラムの上空に来た辺りで漸くシャーロットを見つけることが出来た。

 質の悪そうな男達に追いかけられているようだ。

 シャーロットの方は必死に逃げているが、男達は随分と余裕が見える。

 よく見ると身体強化の魔法を使用している。魔導師崩れなのだろう。

 助けてあげようかな、と魔法を使用しかけたが、すぐに思い直した。

 

(何もせずに連絡しろってノア様に言われちゃったしなあ……)


 カイはノアの命令はきっちりと守る男だった。

 

「ノア様? 聞こえます? シャルちゃん見つけましたよ。スラムの辺りです。詳しい場所お伝えしますね……」




 ◆◆◆

 

 


 シャーロットが意を決して街ごと男達を吹き飛ばそうとしていたその時、耳元で囁き声がした。

 

「こらこら。腕輪無しに魔法を使ったら駄目だって言っただろう?」


 同時に、シャーロットを男達から遮るように細身の黒髪の男が出現する。

 ノアだった。

 

「あ? なんだお前、転移魔法か? ちょっとはやる魔導師みたいだな」

「今その子俺たちと遊んでんだけど。使い終わったら貸してあげるから、順番待ちしといてくれる?」


 ぎゃはは、と品のない笑い声を上げる男達。

 実際男の言う通り、転移魔法はかなり高度な魔法で緻密な魔力の制御が要求される。

 失敗すると体がバラバラになってしまうことも珍しくない。

 

「ノア……。ありがとうございます」


 ノアのおかげで大量殺戮を犯さずに済みそうだ。シャーロットは感謝の念で一杯だった。

 それを聞いたノアはシャーロットに微笑みかけた後、男達に向き直った。

 

「君たちの魔力、覚えがあるよ。魔導塔に来たことがあるね? まあ、僕の顔を覚えてないくらいだからあんまり真面目じゃなかったようだけど」


 はあ?と訝しげにしていた男達だったが、そのうちの一人が何かに気づいたようで突然震えだした。

 顔からは血の気が引いており、真っ青を通り越して土気色になっている。

 

「お、おい。さっきノアって言ったよな……。まさか、大魔道士ノア……様?」


 残りの男達もぎょっとした表情でノアを食い入るように見る。

 

「確かに、魔導塔で見かけたことがあるような……?」


 流石に大魔道士には勝ち目が無いと悟ったのか、男達はじりじりと後退を始めた。

 それを見たノアが指を鳴らす。と同時に、男達の目の前に雷が落ちた。

 当てないようにギリギリを狙って落雷させたのだろう。かなり緻密に操作された魔法だ。

 

「う、うわあぁ!」


 雷を合図にして男達は走って逃げて行った。後ろ姿が大分間抜けだ。

 シャーロットはノアに尊敬の眼差しを向けた。

 

「すごい、流石ノアです」

「まあね。君もこれくらいの魔力操作は練習すればそのうち出来るように――」


 シャーロットはノアの言葉を遮って続けた。

 珍しく目を輝かせている。

 

「ノアレベルになれば、名前だけで人間を追い払えるんですね。私も悪名を世界に轟かせたいです」


 ノアは微妙な顔をした。

 

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