17. どちらかと言えば困る
シャーロットは自室のびしょびしょに濡らされたベッドの前でため息をついた。
地味に困る。今日受けた様々な嫌がらせの中で一番かもしれない。
エスメはあの最悪な空気のまま終わった夕食会以降、シャーロットに様々な嫌がらせを行っていた。
例えば。
(やたら食事が野菜だらけになったわね……)
シャーロットの部屋に持ってこられる食事から肉や魚が消えた。
昼間、見慣れぬ下働きのものが持ってきた不自然に空白のある昼食を見てシャーロットはかなり微妙な気持ちになった。
神殿で暮らしていた頃は似たようなものだったし、ただの孤児として生きていた頃はもっと酷かった。
それに、療養中からの惰性で部屋に食事が運ばれてくるだけであって、魔導塔内にある食堂に行けば普通の食事が食べられた。
移動するのはやや面倒だったが。
その後、シャーロットが工房を訪れるとカイに集めてきてもらったガラクタが全て破壊されていた。
流石に少し悲しかった。
いつものように不用品を持ってきたカイは、破片の山の中でしょぼくれているシャーロットを見て大体何があったのかを察し、慰めようとした。
「また集めてきてあげますよ。魔導士たちは変なもの量産するから、こんなのいくらでも湧いてくるし。まあ、どうせ最後には粉砕するんだしいいじゃないですか! 手間が省けたと思えば」
全然慰めになってない上に無神経すぎる。
シャーロットは腹が立ったのでその後一日カイを無視した。
無視したところで、カイは話したい内容を話したいだけ話すので何の意味も成さなかった。
というかよく考えればこれは、エスメの嫌がらせじゃなくてカイに腹が立った話だった。
愛されて育ったエスメは相手がなにを嫌がるか等、考えたこともないのだろう。嫌がらせがかなり下手だった。
(ベッド、どうしようかな。魔法を使って乾かしてみたいけど……)
腕輪を付けたところで、シャーロットは残念ながら魔力の扱い自体がかなり下手だった。
相手を攻撃するくらいのことは出来るが、細かい制御には自信がない。
燃やさずに乾燥させるのは難易度が高そうだ。正直なところボヤを起こす気しかしない。かといって腕輪が全く役に立っていないという訳ではなく、腕輪を付けずに魔法を使えば月の塔を焼失させてしまうだろう。
少し考えこんだ結果、シャーロットはノアに頼んで乾かしてもらうことにした。
「僕にこんな雑用させるの、本当に君ぐらいだよ」
ノアは言いながら乾燥魔法を使ってくれた。そうは言うもののそこまで嫌そうな顔でもない。
シャーロットとてこんなことでわざわざ大魔導士を呼び出すのはどうかと思ったが、そもそも知り合いがノアとカイ、それにジョセフくらいしかいなかった。
食事を持ってきてくれる下働きの者たちも、いつも固定で同じ人が来るという訳ではないので顔見知り程度の間柄でしかない。
ジョセフは常に魔導塔に滞在しているという訳でないようで、最近は姿を見なかった。
加えて、シャーロットは普段カイがどこで何をしているのかをよく知らない。
「ありがとうございます。ぐっすり眠れそうです」
「わざわざ乾かさなくても、僕の部屋で一緒に寝ればいいんじゃない? 婚約者なんだし」
「それではおやすみなさい。また明日」
「君本当に結構冷たいよね……」
ノアを追い出してシャーロットはベッドに入る。
布団がふかふかになっていてかなり気持ちいい。本当によく眠れそうだ。
(たまにお願いしようかしら。布団乾燥……)
かなり失礼なことを考えながら、シャーロットはゆっくり意識を手放した。




