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15. 台風の目

エスメ目線

 燃えるような赤い髪と輝くような黄金の瞳の美貌。

 強い魔力を持った末の姫。

 父王に溺愛されているエスメの機嫌を取ろうと、貴族たちはこぞって贈り物を贈った。

 あれが欲しい、これが欲しいと我儘を言ったことはなかった。

 だって、そんなことを言わずとも、綺麗なもの、価値あるものは全てエスメのものだったから。

 

 あの日までは。

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 エスメが魔導塔を初めて訪れたのは、十四の春。

 強い魔力を持て余していたエスメを、両親は慣習通り魔導塔に預けた。

 そこで出会ってしまった。

 この世のものとは思えぬ美しさを持つ、黒髪に赤い瞳の大魔道士と。

 

 幼いエスメはノアに構って欲しがったが、魔導塔の主は多忙らしく、そもそも会うことさえ稀だった。

 エスメの教育をしてくれていたジョセフに、何度も「ノア様に会いたい」と言っては困らせた。

 時たま会えたとしても、軽くあしらわれるばかり。

 思い通りにならないのは初めてだった。

 

 悔しくて、ノアを見かければいつも後を追いかけるようになった。

 それが恋心に変わるのは自然な流れだった。

 

 ある程度魔力を思い通りに扱えるようになったと判断されたのは十六の冬。

 生まれ育った王城に返されたエスメは父王に初めて我儘を言った。


「お父様、私、ノア様と結婚したいわ。許してくださる?」と。


 王はエスメに魔導塔の秘密を教えてくれた。

 魔導塔の人間はほぼ魔族で、その主であるノアは魔王なのだという。

 

 海向こうのルミナリア神聖国が力を増すにつれ、ウィンザーホワイトはルミナリアのことを恐れるようになった。

 ルミナリアは国ぐるみで魔力持ちを差別している。

 魔力持ちの多く産まれるウィンザーホワイト王家は、いつルミナリアが攻め込んできてもおかしくないと常に怯えていたらしい。

 

 そこで当時のウィンザーホワイト王家に声をかけたのがノアだ。

 ノアは魔王として、魔族たちの安住の地を求めていた。

 人の姿をした魔族たちが魔導師としてウィンザーホワイトに定住してくれれば、ルミナリアへの抑止力となり得る。

 両者の利害は一致し魔導塔は誕生した。ウィンザーホワイトは魔法大国となった。

 同時に、魔法大国となったウィンザーホワイトを受け入れられなくなったルミナリアとは国交が断絶した。

 エスメの祖父の時代のことだ。

 

 父王としても魔導塔との繋がりを深めておきたかったようで、真実を知ったエスメが良いなら、話を進めてくれると言った。

 

(やっぱりノア様は特別だったのね!)


 特別なノアは特別な自分に相応しい。

 エスメは、問題ないから話を進めてほしい、と父王にお願いした。

 

 王城内での話がまとまり、いよいよノアに打診する、となった段階で問題が起こった。

 

 

 突然、当代の聖女であるラヴィニアが訪ねてきたのである。

 ルミナリアと国交がないとは言え、ルミネ教の信者はウィンザーホワイト内にも数多く存在していた。

 訪れた聖女を無碍に扱うことは出来なかった。

 

 貴賓として招かれたラヴィニアはにこやかに語った。

 

「お隣なのに、お付き合いはないのは寂しいですわ。元は一つの国。過去のことは仕方ありません。未来のために、仲良くしましょう。ルミネ様もそう思っていらっしゃいます」


 ルミナリアは豊かな国だ。友好的に交流ができれば、ウィンザーホワイトの繁栄にも繋がるだろう。

 ただ、姫が魔導塔に嫁ぐとなれば、流石に反感を買うかもしれない。

 エスメの縁談に待ったがかけられた。

 

 エスメは王家の姫である。

 国益が何より大事なのはわかっていたし、そこで強引に押し進めることは望まなかった。

 

(それに、あの優しそうな聖女がそんな細かいこと言うわけないわ)


 それは実際その通りだった。

 大事な用があるから、と出かけ、戻ってきた聖女にエスメの縁談話を相談すると、

 

「まあ。それは素晴らしいことですわ」


 と微笑んでくれた。だがそう言った後、聖女は心底困った顔をし、衝撃の事実を伝えた。

 聖女の侍女が魔導塔に迷い込み、なんとノアと婚約してしまったらしいのだ。

 

「あの子はちょっと問題のある子で……。ご迷惑をおかけしないか、心配なのですけれど」


 ラヴィニアは形の良い眉をひそめながら言った。

 

 エスメは怒り狂った。聖女の話によると、どうやら顔だけは整った女のようだ。

 きっと体を使ってノアを籠絡したのだろう。

 

 聖女がルミナリアに帰ると同時にエスメは行動を開始した。

 

(許せない。私のノア様、返してもらうわ)


 そうしてエスメは適当な口実をつけ、魔導塔に向かったのだった。

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