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僕と師匠と嵐

 結局師匠は一度も帰ってくる事はなく、川の向かいには立派過ぎる大きな穴が出来上がった。


「おお、我ながらいいデキだ。流石だよなあ」


 思う存分掘る事が出来て師匠は凄く満足そう。

 この穴掘りの間まともに寝ていないから、テンションがちょっとおかしくなっているのかもしれない。


「お疲れ様です師匠、早く家に帰って寝てください」

「おっ、珍しいな。いつもは早く起きろって急かすのに」

「師匠が極端なんですよ」


 普段寝過ぎなくらい寝ているから丁度いいと思わなくもないけど、やっぱり規則正しい生活は送ってほしい。

 あと普段からもうちょっとちゃんと起きてくれたら僕だって毎回あんなに大きな音を出して起こしたりしない。


 そんな軽口を叩いていても師匠は相当疲れていたらしく、家に帰ると即行で部屋に入って寝てしまった。


******


 次の日、今までの快晴が嘘のような大雨と強風。


 嵐が来た。


「師匠の言っていた通りだ……」


 きちんと戸締まりしているとはいえ窓とかはガタガタと結構大きい音が鳴っている。

 でも師匠は爆睡しているみたいで起きてくる様子は微塵もない。


 寝ずに働いていたからそっとしておくとして、村は大丈夫かな。

 師匠の掘った穴があるから問題ないとはいえちょっと心配。


 ただ、一番心配なのは庭の作物。

 一応補強をしたとはいえ、疫病で植え直した若い作物が飛ばされないか気になって様子を見に行きたい。

 でも師匠にドアを開けたら結界魔法の効果がなくなるから絶対に開けるなと言われているから外に出れない。


 ああ、疫病の後に嵐って運がない……早く通り過ぎないかな。


******


 あれから嵐は三日続いて、四日目にようやく晴れた。

 外に出てみたら嵐が来ていたのが嘘みたいな綺麗な青空で、少し涼しくて気持ちいい。


 結局師匠は三日間起きてこないでひたすら寝まくっていた。

 いつもみたいに無理矢理起こすことはしないけど、食事も取ってなさそうだから明日にでもちょっと様子を見つつ軽く起こしてみようと思う。


 とりあえず今は畑の確認。


「あれ、全部無事だ……」


 あれだけ強い風だったのに、葉っぱが飛んだり茎が折れたりしているのは一つもない。

 補強したおかげだろうけど、多分師匠が魔法で守ってくれたんだと思う。

 だって微かに結界魔法の名残があるし。


 師匠野菜嫌いなのに……。


「あの、ちょっといいかい?」


 急に呼びかけられて振り返ったら知らない男性が三人いた。

 ん? あ、いや、違う。

 真ん中にいる男性はあの村の村長だ。


「はい、何でしょうか」

「アンドルフさんはいるか?」


 アンドルフ? 

 あ、師匠の事か。

 普段「師匠」としか呼ばないし、他の人と交流もないから名前を聞くと不思議な感じがする。


「って、もしかして村に被害が!? まさかあの穴が原因で何か事故でも起きました!?」

「いやいや違う、逆だ。礼を言いに来たんだ」

「……お礼?」


 その村人が言うには川は氾濫してしまったらしく、でも師匠が掘った穴のおかげで村には何の被害もなかったという。


「あの時あんた達の話を聞かずに突っ返してしてすまなかった。アンドルフさんが穴を掘っていなければ私達の村は今頃氾濫した川に呑まれて大変な事になっていただろう」

「そんな……村が無事で良かったです。師匠もきっと喜んでくれます」


 あの人後半は普通にただ穴掘りを楽しんでいたし。


「あ、師匠はまだ眠っていて……少し待っていてくれませんか」

「いや、いいよ。休まずに働いていたんだ、ゆっくり休ませておいてほしい。これは私達からのお礼だ、受け取ってほしい」

「これって……」


 村長と一緒にいた男性が渡してくれたのはザルに一杯積まれた野菜。

 それぞれにトマトとナス、それにじゃがいも! が山盛りに積まれている。


「本当にいいんですか?」

「当然だ。村を助けてくれた礼にしては少ないが、今の私達にはこれが精一杯でな、すまん」

「そんな事ないです! あの、師匠にはちゃんと伝えておきます! ありがとうございます!」

「……ああ、こちらこそ本当にありがとう」


******


「上手くいったみたいだな、良かった良かった」


 家に戻ると師匠が起きてた。

 見ていたのなら出てきてもよかったのに、照れくさかったのかな。


「師匠! やっぱり師匠は凄いですね。それに何でも知ってるんですね」

「そりゃもう年の功ってやつよ。お前より遥かに歳上だからその分沢山色んな事知ってんの」

「年の功って師匠そんな年じゃないでしょ」


 師匠の歳は知らないけど、見た感じ三十代、もしくは二十代に見える。


「そういえば師匠って幾つなんですか?」

「んー、三百歳くらい? 一々歳なんて数えてらんないから詳しくは忘れた」

「またそんな事言って。もうその手には乗りませんからねっ」


 調子に乗るとすぐコレだ。


「今日はこの野菜でサラダでも作りましょうか」

「おうおう、若者は野菜を沢山食え。俺は野菜食えないから肉で」

「ダメです。好き嫌いしないでください」

「えー」

「ちゃんと師匠の好きな鶏肉も多めに入れますから」

「ちぇっ」

「丁度いい機会ですし、好き嫌いを少しでもなくしましょう」


 折角だからこれを機会に師匠には食わず嫌いの偏食、というかせめて少しでも野菜を食べるようにしてもらわないと。

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