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第55話 愛情込もったあざといドレス


 オフショルダーで体のラインがしっかり出る薄桃色のスレンダーなドレスは、腰から下にかけて半透明の桃色のフリルが幾重にも縫い込まれている。


 ちょっと上半身の露出度が気になるけれど皇国各地の出身者が集まる夜会とくれば多少なりともドレスに特色も出てくるし、中学の卒業パーティーではこういうタイプの服を着ていた令嬢もチラホラいた。それを思えばそこまで悪目立ちはしないと思う。ただ、やはり――


(これを、私が着ろって……!?)


 ダンスでドレスがずり落ちる事を防ぐ為に申し訳程度の肩紐がついているだけの、完全に肩丸出しのドレスは今まで着た事無い。ドレス自体はお母様の言う通り悪くない。他人がこれを着てフワりヒラりと動く姿を想像すると素敵だろうなと思う。


 ただ――ちょっとあざとい感は否めない。自分が着るのと他人が着ているのを見るのとでは気の持ちようも全く違う。


 しかも多分お母様はまだ私が髪を伸ばしていると思っているのだろう。だからこんなに背中も空いているのだ。バッサリ切った髪はこの1年で肩にかかる位にまで伸びたけれど大きく開いている肩甲骨の辺りまであいた背中は髪で隠しきれそうにない。


 元踊り子のお母様の男の落とし方のエグさを思い知りながら、これをお父様が大好きなお酒を我慢してせっせとやりくりして貯めてくれたお金で作ったドレスなのだと思うと『恥ずかしいから』という理由で拒否するのも忍びない。


 ダンスパーティーにレオナルド様が来れない事を初めて感謝する。このドレスを着たら『マリー嬢、そのドレスは卒業パーティーに着てくるのはいかがなものかと思います』位の事を言われてジャケット羽織らされてしまいそうだ。


(辛い……男狙ってる感出てるあざといドレス見られて、幻滅されてしまったら辛い……!!)


 そんな感動の涙から一転羞恥の涙を一粒零した昨夜を思い返しながら、ぎこちない笑顔を返す。


「それなら私の馬車で一緒に行きましょうよ~私もダンス踊る相手いないけど皇国各地から集ってくる生徒達に合わせた各領の料理を食べ比べしたいから行くわ~」


 そう言われるとちょっと興味が湧いてくる。確かに中学の時に校舎で行われたパーティーでも見たこと無い料理やお菓子が並んでいて、美味しかったのもまた食べたいと思った物もいっぱいある。


 レオナルド様と踊れないなら踊れないなりにパーティーを楽しめば良いのだ。それに――


(他の男と踊っても気にならないっていうのは、都合が良いと言えばいいのよね……)


  最高学年の生徒達とそれに関わる教師達だけで行われるパーティーだ。中道部の卒業パーティーが同時刻に学院で行われる事も考えるとフローラ様の邪魔はまず入らない――フレデリック様とちゃんと話すには絶好の機会だ。


 あざといドレスにはもう目を瞑ろう。『これは嫌だから別のを送って』なんてお母様にもお父様にも言えないし、私はサイズの関係上テュッテからドレスを借りれないし。フレデリック様の為に新しいドレスを買う理由もない。


(……でもやっぱり恥ずかしいから次の休日に街に行ってドレスの雰囲気を阻害しない無難なショールを1つ買ってこよう。)


 まだ銀貨は結構残っているから少しお高めのショールも買える。


「……テュッテって本当世話焼きよね。助かるけど」


 感心したように呟かれたネイの言葉に全力で頷く。お金と友情は窮地を救う。


「だって2人とも世話のやきがいがあるんだもの~。でもレオナルド様がマリーのドレス姿見れないのは可哀想ね~……パーティー苦手だからってわざわざパーティー出なくて済むようにそんな魔道具作らなくてもいいのに~……」

「はぁー……!? いつか公爵になる男がたかだか学生達が集まるパーティーを嫌がってどうすんのよ……!! 好きな女から誘われたんだから少し位都合つけてくれてもいいのに……!」


 ため息交じりのテュッテの言葉に違和感を抱く。確かにパーティーで高位貴族は注目される。まして私達の年代の『公爵子息』はレオナルド様だけだ。


(確かに公侯爵家の人間が『目立ちたくないから、苦手だから』なんて理由でパーティーに出ない訳にはいかないだろうけど……でもだからってここまでの事をするかな?)


 だけど高い身分の人間がわざわざ裏方に回るのはそれ相応の理由があると考えた方が自然だ。

 後2つの光花筒の作成が忙しいのか最近レオナルド卿とは挨拶くらいしか出来ていないけれど、何で裏方に回ろうとしたのか気になってきた。


 たまごサンドを齧りながら不機嫌そうに怒るネイの友情に心温まりつつ野菜サンドの美味しさを堪能しながら考えていると、食堂の入り口にスダッチ卿とユーズ卿の姿が見えた。


 彼らも私達に気づいたようで食堂のカウンターの方に行かずにこちらに向かって歩いてくる。


「ようネイ嬢、今日はカヴォスと一緒じゃないのか?」

「い、いつも一緒にいるって思わないで!」


 こちらのテーブル席の前で止まったスダッチ卿が気さくに声をかけるとネイは顔を真赤にして否定する。


「そっか、悪かったな。最近大抵一緒にいるからついな。ダンスパーティーにも誘われたんだろ? あいつ、ネイ嬢に受けてもらえたってめっちゃ喜んでたぞ」

「そ、そう……? ま、まあ喜んでるなら良かったわ」


 顔を伏せるネイの緩んだ口元をみるとまんざらでもなさそうだ。ユーズ卿もスダッチ卿もネイがカヴォス卿と良い感じになりだしてから『ネイ嬢』と呼ぶようになった。カヴォス卿は本当に良い友達を持ったと思う。


「スダッチ卿とユーズ卿はパーティーに参加するの?」

「いや、俺らみたいな家から出て独立するような人間と一緒に踊ってくれるような令嬢なんていねぇし、カヴォス達はともかくそれ以外のラブラブな勝ち組見てても面白くないしな。って言うか何が悲しくて学院最後の日に惨めな思いしなきゃいけね―んだよぉ……クソッ、皆末永く幸せになれよぉ!!」


 恨みと優しさがごちゃまぜになっているスダッチ卿の横でユーズ卿が淡々と補足を入れる。


「大丈夫だ。魔導工学科の家出組はパーティーに参加しないで何処か店を借り切って騒ぐ予定なんだ。僕達は僕達で良い思い出を作ってくるさ」


 家出組――言い得て妙な言い方にちょっと吹き出してしまう。


「そ、それに……マリー嬢とレオナルド卿がダンスしてる所なんて見たら俺、俺……!」

「あー、あいつ来れないんだって」


 スダッチ卿の若干不穏な言葉は不機嫌なネイの言葉に遮断される。


「え、そうなのか?」

「パーティー盛り上げる為に皇城の屋外訓練場で光の花を打ち上げるらしいの。残念だけど皆を喜ばせる為にしてくれてる事だから無理に誘えないわ」


 きょとんとしたスダッチ卿に説明すると、彼は口元に手を当ててちょっと考え込む。


「へーえ……じゃあマリー嬢はどうするんだ?」

「ここにいるテュッテと一緒に皇城に行くわ。誰かとダンス踊らなくても普段食べられないような美味しい物食べられるし」


 ユーズ卿の問いかけにそう答えると彼らは互いに視線を合わせた後、


「そっか、美味しい物いっぱいあるといいな!」


 そう笑顔で言い残して、そのまま食堂のカウンターの方に歩いていった。



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「選ばれなかった侯爵令嬢~」のヒロインはウィスタリアです。不穏な夫婦について詳しく知りたい方はタグをご確認頂いた上でお読み頂いた上で是非。

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