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第50話 他人の恋路


 その翌日、レオナルド卿は学院に来るなり私に大丈夫か聞いてきた。だけどフレデリック卿の呪術の事や工具セットの事は何も言ってこなかった。


「貴方が無事なら良かった」


 そう言って微笑んでくれるレオナルド卿に、またちょっと胸が高鳴った。


 その日の午後の工学の授業でチラッと彼の工具セットを見たら、いくつか新しいものに替わっていた。リチャード卿には負担かけてしまったけれどお金を渡せて良かったと思った。


 請け負っていた分の内職を全て終えて内職から開放されると、授業がより一層楽しくなっていた。

 少しでも卒業課題に応用できるような物がないか聞き入ると同時に少し分かりづらい部分はクラスメイトに聞く事ですぐに埋める。


 ネイの言う通り、授業も勉強も興味がある部分はすぐに覚える。興味がない事を無理矢理詰め込むのとは天と地ほども違った。


(私も、魔法にもっと興味を持って学べてたら良かったな……)


 とにかく良い点数を取る事に必死でがむしゃらに勉強していた自分に『もっと良いやり方があるよ』って教えに行けたら――なんて事を考えながら学食のデザート、桃のシャーベットに舌鼓をうつ。

 お金の事をを気にしないで良い学院生活は本当に気楽で、楽しい!


「デザート買える余裕ができて良かったわね」


 ネイは私の学食に付き合ってくれる時、いつもたまごサンドと水だ。毎日同じ低価格メニューを一切苦にしてない姿が本当にすごいなと思う。


「ネイも紙人形の裁断機が卒業課題として認められたんだから少しはお金に余裕出てきたんじゃないの?」


 卒業課題は締め切りまでに出すならいつ出しても良い。締切は黄緑の節にある卒業式及び卒業パーティーの1周間前だからまだ先なんだけど、数日前にネイは卒業課題を提出して見事合格を貰った。


 見せてもらった紙人形は人が鋏で切るより精巧に切れていた。あれを使えば内職のペースは爆上がりしているはずだし、そもそも後期の授業料は納めているはずだ。それなのに相変わらずお金にシビアな所が変わってないのが不思議だった。


「魔晶石の自動研磨機の作成でお金なんて一気に吹き飛ぶわよ」


「え、卒業までもう後3節しか無いのにまだ出すの!? それにネイ、貴方来週から合同課題実習でしょう!?」

「元々同時並行で進めてたからね。改良免許がなくても改良が許される機会なんてそうそうないわ。卒業課題は何個出してもいいし私にとってはここが勝負時なのよ……貴方こそ、レンズ石に銀貨5枚もかけて大丈夫なの?」


 そう――アニイラシオンを売ったお金が予想外に余ってしまったので、せっかくだからと掲示板で依頼を出す事にした。手作りの依頼書を貼る事も出来たけれどそれだと私が依頼した事が分かってしまうので受付を介して貼ってもらった。


 <小指の爪程のレンズ石1個銀貨5枚で買います。>という至極簡素で、定価より銀貨2枚上乗せした依頼書を。


「来週、ネイがレンズ石見つけるの期待してるね」


 実習の翌日あの張り紙をしてもらったのは工具セットに使う予定だった銀貨5枚が返ってきてから。既に購買に売られてないか確認したけれど売られてないと言うので相場より高く設定したんだけど、未だに持ち込まれてないから前半組は誰もレンズ石を拾っていない可能性が高い。


 レンズ石は希少だから普通の市場には滅多に流通しない。後半組の働きに期待するしか無い。


「銀貨5枚はデカイし気合い入れたい所だけど……聞いた感じだと泉のルートは2、3、4なのよね……まあ、何とか頑張ってみるわ」


 いつものようにたまごサンドを食べ終えて水で流した後、ネイは立ち上がる。

 食事を終えるとすぐ工学室に行くのは魔晶石の自動研磨機の為だったのだと納得しながらシャーベットの残りのひと口を口に入れた時、


「マリー嬢!」


 と明るい声で呼ばれて顔を上げると、魔導工学科のいつもひそひそ話の声が大きい事に気づいていない三人組が立っていた。


 なぜ誰も彼らのひそひそ話に苦言を呈さないのか疑問に思って別のクラスメイトに聞いた事があるのだけど『あいつらの話は本人達はひそひそ話のつもりで話してるけど筒抜けで面白いし、聞こえないと何話してるか逆に気になるから』という理由で放置されていると聞いた時は(確かに)と思った。


 そしてレオナルド卿から『マリー嬢』と呼ばれるようになってからクラスメイトの皆が自然と皆が私を名前で呼ぶようになった。


『リチャード卿だけがマリー嬢と呼んでる時は好き合ってるのかなと思ってたけど、皆から呼ばれる事に抵抗がないなら是非俺達も呼ばせて欲しい!』と言われた時はちょっと感動した。


 名前で読んでくれる人達が、呼びたいと言ってくれる人達がこんなにいる事が、嬉しかった。


「今の話聞こえたぜ。レンズ石まだ見つかってないんだな?」


 先程までネイが座っていた椅子に腰掛けながら言ったのは明らかな好意を示してきていつ暴走するのかヒヤヒヤしたけど、全く行動を起こしてこないので安心して接することが出来る、茶髪に暗い黄色の眼で小柄なスダッチ卿。


「僕達皆後半組だから探してみるよ」

 その隣の椅子に座ったのはよく暴走気味のスダッチ卿を諌めるツッコミ役の黒髪に濃い橙色の目で細長い印象を受けるユーズ卿。


「まだ誰も見つけていないみたいだし、期待していてくれ」


 残った椅子に綺麗にウェーブを髪が肩まで届いた、薄い橙色の眼が綺麗で身だしなみを一番きっちり整えているカヴォス卿が座る。


「ありがとう皆。お礼はしっかりさせてもらうから」

「ああ、いや俺達が取ってくる分にはお礼は良いんだけど、ちょっと1つお願いがあって……」

「お願い?」

 スダッチ卿の言葉を反芻すると言いづらそうにユーズ卿が一度咳払いをする。


「3節後の卒業式の後に卒業パーティーがあるだろう? その時にコイツがネイに告白できるように協力してほしいんだ」

「な……!?」


 ユーズ卿に肩を叩かれたカヴォス卿が驚愕の表情で言葉を詰まらせた。



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「選ばれなかった侯爵令嬢~」のヒロインはウィスタリアです。不穏な夫婦について詳しく知りたい方はタグをご確認頂いた上でお読み頂いた上で是非。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 三人の名前!! [一言] あの話真実だったのか…!!と思うとなんかカワイイ。
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