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第44話 合同課外実習・3


 ブラオクヴェレ大洞窟に入って2時間後――


「奥に先生がいるはずなのに……魔物多過ぎない……!?」


 魔弾で近づいてくる魔物の動きを止めながら魔物の多さに悲鳴を上げる。


 入って早々に洞窟蝙蝠ケイブバットの群れに襲われ、あらかた倒せたと思ったら今度はブルースライム、ブルーローパーの集団が現れる。


 私は攻撃系の魔法はあまり得意じゃない。その中でも比較的使いやすい火炎系の魔法は使用禁止と言われたので私の役目は防御壁で非戦闘者を守りつつ、魔弾で戦闘者を援護する事。


「先生達は魔力隠し(マナハイド)透明化トランスパレントで魔物に気づかれずに進んでるんですって~」


 私の防御壁の中からマダー卿に向けて、身体の能力を向上させる補助魔法「能力向上オブテイン」をかけているテュッテが私の悲鳴に答える。


 なるほど、魔力も姿も見えなくなれば魔物とエンカウントしないで済むんだ――と勉強になりつつ、少し離れた場所で戦っているマダー卿に目を向けた。


 武術科は実戦訓練も多くて皇国の色んな場所で魔物と戦っていると聞いていたけれど、マダー卿の予想以上に手慣れた動きと未だ続く体力に驚く。テュッテの援護のお陰もあるのかもしれないけど。そして――


 チラ、と少し離れた場所にいるフレデリック様の方を見ると、大きな青い魔法陣を作り出していた。


「――氷注の雨(アイシクル・レイン)!」


 フレデリック様の詠唱と同時に出現した氷の刃が魔物の群れに突き刺さり、あれだけ気味悪く動いていた魔物達がピクリとも動かなくなる。


 ここの魔物はその身の色に違わず青色の魔力を持つ魔物が多い。青属性には反対色である黃属性、あるいは《《魔物より強力な魔力で作り出される青属性》》の魔法が有効なのだけど特定の属性――例えば氷や水といった青属性の魔法を作り出す際、発動までの時間や威力は術者の魔力の色に左右される。


 魔力の色が魔法の色に近いければ近いほど、色を変換する為の術式を書かなくて済む分発動が早く、魔力ロスも少ないので強力な魔法を放てる。


 簡単に言うとこの洞窟内で有効な青属性の魔法は薄桃色の魔力を持つ私が放つより紫色の魔力を持つフレデリック様の方が適任だ、という事。

 実際には魔力だけでなく魔法の技術においてもフレデリック様の方が上回っているから尚更フレデリック様の方が向いている。


「……僕の魔力が減るまで前衛を請け負うから、ソルフェリノ嬢はそれまで回復と防衛優先で動いて欲しい。交替してほしいタイミングになったら言うから」


 ここまで来る中でフレデリック様から言われたのはそれだけ。後は私はおろか誰とも喋らない。昔は、薬草とか魔物の生態とか色々教えてくれたのに。


 それが寂しいという感情はない。ただただ(大丈夫?)という心配が声に出せず心の中で渦巻く。


 声をかけたくない。関わりたくない。だけど元気ではいて欲しい――なんて我儘な自分の気持ちに自嘲する。



「皆、すごいなぁ……僕何も出来ないから肩身狭いよ」


 魔物の襲撃が落ち着いた所で魔物の体液等から身を清める為の浄化の術をかけているとティント卿がポツリと呟く。


 全く戦闘向きでないティント卿には照明の魔法(ルーチェ)で周囲を照らす係をやってもらっているけれど、ここにいる全員がその魔法使えるから肩身狭い気持ち、分かる。


「何も出来ないなら何で参加したんだよ?」


 マダー卿は気性が荒い人なのか、緑系と赤系という魔力の違いのせいもあるのかティント卿への当たりが少々キツい。ぶっきらぼうに突っ込む。

 ただティント卿はそういう扱いに慣れているようで、さして気を悪くした様子もなくマダー卿の問いに答える。


「薬学部の卒業課題は上級薬の調合なんだよ。僕、準最高級回復薬ハーフエリクサーに挑戦してみたくて。この洞窟でそれの材料になるアニイラシオンが取れるって聞いたから……1輪銀貨3枚で売れる、かなり希少な薬草でもあるから薬の材料費にもあてられたらと思って……」


 レンズ石と素材の換金目当てで来た私にはティント卿の気持ちが痛い位に分かる。薬じゃないけど魔道具の材料費も本当高い。せっせと内職して貯めたお金があっという間に消えていってしまう。


「自分の身を守る力もないのに来るたぁ、無謀だな」

「その身を守る力もない人間を守るのが君の役目だろう?」


 呆れたように言い捨てるマダー卿をやんわり諌めようと思った時、これまであまり言葉を発さなかったフレデリック様の静かな声が響いた。


「まあ、そうだな。ああ……何だ、もう折り返し地点か?」


 マダー卿が見据えた先には灰色のローブを纏った教師がいる。さっきまで見えなかったけど恐らく姿を消していたのだろう。


「俺が魔晶石もらってくるから、お前ら少し休んでろ」


 まだまだ動きたりなさそうなマダー卿はフレデリック様の言葉に気を悪くした様子もなく先へと歩き出した。


(魔物ばっかり気を取られてたけど、もう折り返し地点かぁ……)


 こうやって魔物の群れに遭遇する度に採取できる物がないか探して、見つけた薬草を半分くらい摘み取っているけれど、特に真新しい物は見当たらなかった。


「そうかぁ……もう折り返し地点かぁ。泉に着くルートじゃなかったんだね」


 ティント卿が1つため息をつくと、肩にかけていた鞄から大きな瓶を取り出した。

 そして近くにいたブルーローパーの死骸からヌルヌルの触手をナイフで器用に切り取ると手袋を嵌めた手で器用に絞る。そして触手の先の排出口から垂れ落ちる粘り気のある薄水色の液を瓶の中に垂らしていく。


「ティント卿、な、何を?」

「何って……ここの泉の水も薬の材料になるから持って帰りたいと思ったんだけど、ハズレたからこいつらの体液入れていこうと思って。ブルーローパーの体液は軟膏の材料になるから、ちょっとしたお小遣いになるんだよ」


 その発想、私には無かった。楽しそうに喋りながら体液を絞るティント卿も十分凄いと思う。採取においてグロ耐性があるのは相当な強みになる気がする。見る分にはまだ耐えられるけど絶対やりたくない。


「ちなみにレッドローパーとかピンクローパーの体液は興奮作用や催淫作用が含まれているから軟膏の材料には出来ないんだ。あれはあれで媚薬の材料になるからこれよりずっと良いお小遣いになるけどね」


 自分の色と同じ色の魔物が催淫作用持ってる、という余計な豆知識を知って微妙な気持ちになりつつ、辺りを見回す。


 とても大きな岩を乱雑に抉った洞窟です、と言わんばかりに壁も床も天井もゴツゴツとしている洞窟は確かにここで行き止まりみたいだ。


 レンズ石は光に反射してキラりと光る。何処かに埋まっていれば、と思って自分でも照明の魔法を出して周囲一体照らしてみるけれど、それらしい石はどこにもない。


(やっぱり、泉の近くじゃないとないのかな……?)


 ネイはこの洞窟の泉の近くでレンズ石が見つかったと言っていた。望みはなさそうだと思うと自然と頭が項垂れる。


「……ソルフェリノ嬢、どうしたんだ?」


 フレデリック様が声をかけてくるのにビックリして顔を上げる。こっちを見てはいるけど目は合わせて来ない。私が余程落ち込んでいるように見えたのだろうか?


「マリーはレンズ石を探してたんです~。泉の近くで見つけたって話を聞いて~。でもここは泉のルートじゃなかったみたいで~……」


 私が言い出しづらいと思ったのか、テュッテが代わりに返答する。


「……まだ諦めるには早い。ここに着くまでに通らなかった道が2つあったから帰りにその道も通ってみたら見つかるかも知れない」

「え、いいんですか……!?」


 フレデリック様の言葉に私より先にティント卿が反応する。フレデリック様は力のない目のまま淡々とティント卿に答える。


「僕は構わない。魔力にもまだ余裕がある……マダー卿には僕から説明しよう。戦い足りない感じだったから、悪い反応は返ってこないだろう」


 そう言うとフレデリック様はこっちに向かってきたマダー卿の方に歩いていく。


「あ、あの……ありがとうございます、フレデリック様……」


 私の言葉にフレデリック様はピタリと足を止めたけど、またすぐに歩き出した。




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「選ばれなかった侯爵令嬢~」のヒロインはウィスタリアです。不穏な夫婦について詳しく知りたい方はタグをご確認頂いた上でお読み頂いた上で是非。

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