第43話 合同課外実習・2
魔導工学科、薬学科、武術科はそれぞれ1クラスだけど、魔法学科は上中下の3クラスある。そして上中クラスの生徒に参加資格が有る。
だから今ここにテュッテとフレデリック様が並んでいるのはおかしい事じゃないんだけれど――
「……君達、どうする? どちらか別グループのクラスメイトと入れ替わるか?」
気まずい空気を察したボルドー先生が提案する。そのどちらか、は明らかに私とフレデリック様を示している。
チラッとフレデリック様の方を見ると、彼は一瞬目が合った後すぐにボルドー先生の方に向き直した。
「……僕はこのグループで構いません。今更あからさまに……元、婚約者を避けるような真似をしてしまっては僕の名誉に関わりますから……」
そこにいたのは私が知っている自信に満ち溢れていたフレデリック様じゃなかった。紡ぎ出す声は少し苦しそうで、久しぶりに見るせいだろうか? ちょっと痩せた気がする。ちゃんと寝られているのだろうか? 食事をとっているのだろうか?
付き合っていた時も何度かフレデリック様が落ち込んだりする時はあったけど、数日で立ち直っていた。ここまで疲れた顔を見せる事はなかった。私にも、他の誰にも。
そんなフレデリック様が気にかかりながら隣のテュッテの方に視線を移すと、眉尻を下げて寂しそうにしている。フレデリック様が移らない、と言った以上私が移るかも知れないと心配なのかもしれない。
ここを移動した所で他の魔導工学科の生徒達と同じグループにはなれない。誰も知らない所に『元婚約者と同じグループになったから移動してきた』というレッテルを背負って入るのは抵抗があるし、私もせっかくテュッテと一緒のグループになれたのに離れたくはない。
それに、今こうして対面して気まずさこそあるけど逃げ出したい程でもない。皆にフレデリック様の事を今も気にしていると思われるのは――私だって嫌だ。
後でフローラ様に睨まれそうな状況ではあるけれど――それに対する恐怖より、『何で私がそこまで彼女に気を使わなきゃいけないのか』という今まで降り積もっていた怒りが勝る。
「……私も、このグループで大丈夫です」
私がそう答えるとボルドー先生は少しの沈黙の後、ひとつ息をついて微笑った。
「分かった。では、今から自分の位置と救助信号を出す護符を配る。非常時にはこの護符に魔力を込めるように」
ボルドー先生はそう言いながら片手に容易に収まる小さな護符を私達に配り終えた後、隣のグループの方に歩いていった。なるほど、こうして護符を配りながら1グループずつ問題がないか確認していくのか。
「ボルドー先生大変そう……」
ボルドー先生の背中を見送りながら呟くと、テュッテが相槌を打つ。
「本当に~。低成績同士で集まられると事故が起きる危険もあるから、その辺の調整も必要なんですって~。でも私達のグループはその点は問題無かったみたいね~!」
満面の笑顔でグループのメンバーを見て微笑むテュッテ。どうやら皆知っている人のようだ。同級生だから知っていて当然なんだろうけど、私、後の2人の名前を知らない。
「あ、そうだ~! 皆中等部の上クラスにいたから顔見知りではあるけど、卒業してから2年半も経ってるし、一応自己紹介しましょうか~」
(ありがとう、テュッテ……!!)
テュッテと同じ班にとどまって本当に良かった。
魔法学科上クラスのテュッテと、魔法学科中クラスのフレデリック様、そして薬学科――癖のない短い茶髪に薄緑色の目を持つ小柄なティント卿と、武術科――赤毛と赤紫の目で大柄なマダー卿。そして魔導工学科の私の5人組。
他のグループもパッと見る限り5人組と6人組のパーティーになっているようだ。
その中でついレオナルド卿が何処にいるのか探すと、あの大剣が目印になって3番目のグループにいる事が分かる。
『よし、グループがまとまった所でまず探索について説明するぞー?』
全てのグループを確認し終えたボルドー先生が大馬車の近くから音声拡大の魔道具を持って説明した内容は以下の通りだった。
このブラオクヴェレ大洞窟には8つの洞窟がある。8グループそれぞれ決められた洞窟に入り、奥にいる教師から教師の魔力を込めた魔晶石をもらって戻ってくるのが基本課題。
洞窟は単独の物もあれば途中で他の洞窟と繋がっている穴もあるらしい。入った穴にもよるけれど普通に行って帰ってくるだけで大体2~4時間かかるらしい。
各洞窟の途中途中に設置してある送信専用の映石によって戦闘や探索工程は録画され、各自の態度や戦闘時の戦い方などをチェックされる。
武術科と魔法学科の生徒はそれをメインに、私達魔導工学科と薬学科はそれプラス採取した物の質と量で採点される。
「次に注意事項だが……この洞窟は数百年前まで魔岩石の石鉱だった場所で、ほぼ洞窟全体が魔力や衝撃に対する耐性が強い魔岩石で構成されている。石つぶてや水飛沫程度の魔法ならビクともしないが地震系、火炎系の魔法他、規模の大きい魔法は大事故や洞窟の崩落に繋がる危険性があるから使用厳禁だ」
そしてここに出てくる主な魔物や毒虫の説明を終えた後、ボルドー先生は最後に思い出したように呟く。
「これはあくまで実戦経験を積む為の授業であって試験ではない。だがここで取れる薬草や鉱石は売れば良い金になるものが多いからな。魔物に気をつけつつ、しっかり収穫していくといい」
言い終えた後ボルドー先生がこちらの方を見て微笑んだ。明らかに私を見て微笑った。
そう言えば以前、学科変更の編入試験手続きする時にボルドー先生から貧乏疑惑をかけられてしまったんだっけ。
あの時、ボルドー先生からの提案が無かったら、後押しがなかったら私は今この場所に立っていなかったし、魔導工学科の皆と仲良くなる事もなかった。
ボルドー先生がきっかけをおかげで、今、私はここにいる。
(魔法学科から離れた私を今尚気にかけてくれてありがとうございます、先生――私、ここでしっかり採取して絶対に卒業してみせます。)
感謝の念を送りながら少しだけ頭を下げて微笑むと、満足気にボルドー先生は目を細めて声を張り上げる。
「それでは各自、健闘を祈る!」
先生の言葉を合図に、生徒達は自分達の目の前にある洞窟の中へと足を踏み出した。
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※お知らせ…本作と同じル・ティベル(数百年前)を舞台にした短編「断罪された瑠璃色令嬢~とある異世界の死に戻り過剰ざまぁ対策?~」(https://ncode.syosetu.com/n0125hl/)を投稿しました。本作との関連性は薄くタイトルの割にシリアスな、ちょっと頭のおかしいヤンデレ少年の悲恋?です。




