第33話 魔導工学科の卒業課題
片手に乗る位の小型の魔道具であれば工具セットがあれば殆ど問題なく作れるんだけど、中型~大型の魔道具を作る為にはそれなりの設備がある施設でないと作れない。数少ないその施設の一つがこのヴァイセ魔導学院の工学室だ。
今、その工学室は後期休みにも関わらず10数人のクラスメイト達で賑わっている。高等部の最高学年にはどの学科にも卒業する為の課題があり、今ここにいる生徒の殆どが自科の卒業課題である<一般的に普及されてる魔道具の改良>に取り組んでいる。
これまでは1節丸々地方に帰省していた人間もこの時ばかりはリチャード卿と同様に帰省を半節程度に留めてこの工学室でそれぞれ自身の卒業課題に挑む人が多いらしい。
「あら、マリー。何作るか決めたの?」
クラスメイト達の熱気に少々当てられつつ、まだ誰も使っていない作業机に工具セットと資料を置いた所でネイから声をかけられた。
「ううん。今日は前言ってた施錠確認の鍵を作りにきたの。後、皆どんな物作ってるのか卒業課題の参考にしようと思って……自分なりに『より良く、人の為に』って色々考えて見るんだけど何も思いつかなくて……」
卒業生の資料を見ても、使用する魔力量の削減、効率、耐久力、精度の向上、調整可能範囲の拡大……何だか高尚な改良と高度な技術の文言が並んでいて、今いち参考にならない。
「え、別に『より良く』、なんて思う必要ないわよ?基本的に見るのは生徒の知識と技術だから。悪用される可能性がある物でも特許や技術公開しないってだけで、課題としては認めてくれるし。まあ私は特許取るか技術独占するかで悩んでるけど……」
この国では新たな魔道具の開発は様々な理由から原則禁じられている。魔道具の改良についてもかなり厳しく、専門の免許を持っている者以外が魔道具を改良する事も原則禁じられている。
だけど魔導学院の魔導工学科の卒業課題は例外で、改良免許を持った教師が生徒の改良した魔道具の設計図と現物を確認し、悪用される危険性が無いと判断した物に対して生徒名義で公開や特許の手続きを取ってくれたりする。
改良そのものに免許が要る分、ネイのようにこれで一発当てようと思う人間からしたらこの卒業課題は絶好のチャンスかも知れない。
今私が作ろうとしている施錠確認の鍵も、もし無料公開ではなく特許制だったら作った人は結構なお金が入ったのではないかと思う。
「まあどっちも駄目って言われても作った魔道具は自分の物になるしね。私は全力で私利私欲の為に作るわ」
「ネイは何作るの?」
自信に満ち溢れてながら言い切るネイに尋ねると、よくぞ聞いてくれたわねと言わんばかりのドヤ顔を見せてくる。
「裁断機の仕組みを応用して改良した、紙人形専用の裁断機よ! 今はハサミで5枚ずつしか切れないけど私が考えてる裁断機なら一度に30枚はイケるわ。紙の節約にもなるし時間短縮にもなるし何より裁断中は他の事が出来る。これで内職楽勝、紙人形制作を1手に引き受けて仕事にできる位だわ」
紙人形はその性質上折り目をつけちゃいけないので、確かに専用の裁断機が発明されたらワンチャンあるかも知れない。ネイの目の付け所が凄い。
「ただ、紙人形の首の部分が細さと頭のカーブと手足のバランスがね……型は綺麗にできたんだけどそれを紙に押し当てると上手く切れないのよ。お守り用の小サイズは厳しいから中サイズにするべきか……でも需要は小サイズの方があるのよね……」
ネイがそう言いながら見せてきた紙人形は確かにパッと見紙人形の形を成しているけれど、言われた部分に着目すると違和感がある。それでもまだ卒業まで半年あるのに既に試作品を作って改善点の分析にまで至っている所は本当に凄いと思う。
「大体この頃になるともう皆何を作るかは決めててそろそろ作り出す頃よ。早い奴はもう提出してるみたいだし、最低限この休みに何作るかは決めといた方がいいわ」
紙人形を指に挟んでヒラヒラと靡かせながらネイは自分の作業台の所に帰っていった。
(そうか……私利私欲の為の改良でもいいのか……私利私欲……自分の為に必要な物……)
自分が作りたい物――今の自分が欲しい物、必要とする物。
パズルのピースが嵌ったような感覚を覚えた後、施錠確認の鍵の制作に取り掛かった。




