1月2日 その後
高橋 バイトの先輩。記念日に詳しい。初詣では家族の健康を祈った。昔自分のことを祈ったら大変なことになったので…
田中 バイトの後輩。「〜っす」が口癖。初詣でお願いしたこと?…秘密っす。
1月2日のその後の話です。
1月2日の朝、ぼくはコンビニ前に戻ってきた。
高橋さんはまだ来てない。
スマホに目をやると、約束の時間の15分前だった。
少し早く来すぎたか…
ふう、と白いため息をつく。
なんとなく年が明けると、急に寒くなるような気がする。
コートにマフラー、手袋をつけてきたけどそれでもちょっと寒い…
ポケットからカイロを取り出し、暖を取る。
でも高橋さんの方から誘われるとは…
ぼっち脱却を目標にするって言ってたけど、急にそんなことを言い出すってことは、何かきっかけがあったのかな?
年末から今日までのことを思い出すが、特に思い当たることはない。
うーん…年末年始のバイト中に何かあったのかな?
まあぼくとしては嬉しいからいいんだけど…
はっ⁉︎嬉しいってのは初詣に誘われたことじゃなくて、高橋さんがぼっち脱却を目指し始めたことっすからね!
…誰に言い訳してるんだ、ぼくは…
「悪い、遅くなった。待ったか?」
少し息を切らしながら高橋さんがやってきた。
「いえいえ、ぼくもちょうど来たとこっす!ていうかまだ10分前っすよ」
「そっか。でも寒い中待たせたのは変わりないからな。何か温かい飲み物でも飲む?奢るぞ」
「それなら境内のとこでおしるこ売ってたんで、それをお願いします!2杯で手を打ちましょう!」
「わかったよ。それじゃ早速行くか」
「はい!」
高橋さんと連れ立って歩き始める。
しかし、この人は今日も暖かそうな格好をしているなぁ。
外から見えるのはコートとマフラー、ニット帽だけど、明らかに着膨れしている。
コートの下に何枚重ね着してるんだろうか…
あ、手袋…
ぼくがプレゼントしたやつだ。
…えへへ、使ってくれてるんだ。
「ん?どうかした?」
高橋さんがこちらを向きながら尋ねてきた。
「え、えっ?な、なにがっすか?」
「いや、なんか嬉しそうな顔してたような気がしたから」
「あ、いや、な、なんでもないっすよ」
ま、まずい…顔に出てた…危ない危ない…
「あ、そういえば、この手袋、ほんとにありがとね。めちゃくちゃ暖かくて助かってるわ」
…やばい。顔が緩む…なんとかごまかさないと…
「え、あ、そ、そうすか…ふふん!まあぼくが選んだものっすからね!機能性抜群でしょ!」
「ああ、暖かいのに指も動かしやすい」
「でしょ!ぼくも同じものを使って、これだ!と思ったんすよ!めっちゃ愛用してます!」
「えっ、あー、そうなのか…」
そう言いながら高橋さんがふいっと顔を背けた。
…?
「どうかしました?」
「いや、その…じゃあこの手袋、お揃いなんだなって思って…」
「…はっ⁉︎」
全然気づいてなかった…思わぬ指摘に顔が真っ赤になるのがわかる。
「いや!その…そういう意図があったわけじゃなくてですね!この使い心地を共有したかったといいますか…」
「あ、ああ!もちろんわかってるぞ!ほんとに使いやすいもんな、これ」
「で、でしょ!そういうことっすよ!うん!」
なんとか勢いで誤魔化した。…誤魔化せたのか?
そこからはなんとなく気恥ずかしくなって、無言になってしまった。
うー…でも、お揃いか…えへへ
はっ⁉︎これは違うんです!
えっ、何が?って…とにかく違うんですから!
と、とりあえず何か会話をして空気を変えよう!
意を決して高橋さんの方を見る。
高橋さんは、自分の手袋の方を見ながら、照れているような、それでいて嬉しそうな顔をしていた。
…こんな表情見たことないや。
話しかけようとした気持ちはすっかり霧散し、そのまま無言で歩き続けた。
時折横目で高橋さんの顔を見ながら。
ただ一緒に歩いているだけ、それだけで心が弾み、嬉しくなる。
高橋さんがぼくとお揃いの手袋を見て、あんな顔をしてくれるから。
さっきまでちょっと寒かったのに、今はそんなこと微塵も感じない。
手袋のおかげだろう。…いろんな意味で。
この後めちゃくちゃ初詣した