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まにあうひと  作者: 山門
彼と過ごした時間
4/5



「転校生っていっつも疲れてるよな」

休み時間に隣の机の金丸くんが言った。


「え…?」

私はそう思ったことがなかったので、驚いた。


「顔色悪いし、いつも気分悪そうにうつむいてるじゃん。幽霊みたい」


「わかるかも…。この前テレビであったやつ。誰も知らない同級生」

反対の机のあいこちゃんも言っていた。


「え、転校生って幽霊なの?」


「怪しいよねえ〜」



当時は気づかなかったが、転校生は不気味でちょっと遠まきにされていた。でもいじめや冷やかしがなかったのは、自分のことをあまり話さないし、反応もイマイチだったからそこまで発展しなかったようだ。




でもまあ常に気味悪がられていて、気づかない私は本人へ普通に話していた。






「転校生が幽霊って本当?」


「人間だよ。急になに。幽霊なんか見たことないくせによく言えたな」


「え、待ってなんか怒ってる?」


「怒ってはないけど、ちょっと驚いた。そんなこと言われるとは思わなかった。君って本当に色々と考えてないよね。多分それ普通に悪口だよ」


私はびっくりした。悪口を言うつもりはなかったし、彼に嫌われたら話を聞いてくれる貴重な友達が遊んでくれなくなると思うと胸がギュッとした。


「ごめんなさい…」


でもどこが悪口になるのか。分かっていなかった私は、話を続けた。


「知らない同級生がいたら幽霊なんだって。

転校生いつもうつむいてて気分悪そうだから似てるらしいよ。前向いたら?」


「…」


返答は珍しく無かった。



「でも私と話してる時は普通に窓見てたり顔見て話してるよね。いつうつむいてるの?」


「…さあ。君が知らない時なんじゃない」






転校生との話は終わってしまった。









さて、悪癖である。


興味が湧いたら、すぐに入ってしまう例のアレだ。店の裏側、レジの中、人の家の庭、細い路地、神社の祭壇、病院の侵入禁止、犬小屋に山の中。



その日は下足室と校舎の間の隙間が結構奥まで続いていて、気になって入り込んでいった。

草むしりされる前の草が中途半端な長さで、ワクワクした。少し歩くと下足室の壁が終わって、プール前の広場に出た。職員駐車場だった。夏になるとプールが解放されてみんな自転車でくるから、結構広い。

所々もぐらが移動した盛り土があって楽しい。


この前写生で外に行った時、ここに集合して出発前の先生の話を聞いてたらもぐらが土を掘って移動していた。地底人かと思ってみんな怖がったけど、ただのもぐらでがっかりだった。


もぐらは結局好奇心旺盛な小学生に捕まって明るい陽射しの元さらけ出され動かなくなった。ぶっちゃけめちゃくちゃ気持ち悪かった。見た目。



ふとプール前の日陰が動いた気がした。

じっと見てもなにも変わらない。

よくある見間違いだ。




まばらな草の間に、この前のモグラがいた。

草で隠れるように横たわるそれはみずみずしさを失って干からびていた。

この前じいちゃんちの天井から落ちてきたネズミのミイラみたいだ。


カラカラの動物はミイラって言うらしい。

従兄弟のにいちゃんがこれはミイラだよって教えてくれて、エジプトの王様が生き返るためにミイラになるって話をしてくれた。



じゃあこれはもぐらの王様なのかな。



私は閃いた。





王様ならピラミッドがいるよ。











大きなため息は、達成感があった。


「これでもぐらの王様も生き返れるね」


最初もぐらの上に石を積んだけど、うまく重ねることが出来ず柔らかい土の場所までもぐらを移動して埋めて、石も半分土に埋めて、なんとか固定して平べったいピラミッドが完成した。


私はすごくいい気持ちで、昼休みの終わりのチャイムに慌てて教室へ戻ったのだった。








「え、プールのところに行ったの?あそここの前のもぐらの死骸があって最近みんな近づいてないのに」

あいこちゃんが眉毛を動かして、私はまた何かしてしまったのだと気づいた。


私がやってしまった時の顔をしていた。


「ピラミッド作ったんだよ」


「でもあそこで遊んだんでしょ?

ズボンに土ついてるし気持ち悪いよう」


いい出来栄えだから誰かに自慢したかったのだが、あいこちゃんがこの調子なら誰も見にきてくれないだろう。これまでの経験でわかる。しょんぼりして、放課後日直の仕事をしてる転校生にその話をした。




「王様が生き返る前に誰かに見せたかったのに」


明日の日付を書いて日直の仕事を終わらせた転校生が、ふふふと笑った。


「なにそれ。死んだもぐらを埋葬した話じゃないの?」


「え。なにそれ。話聞いてた?この前の写生の時のモグラ埋めて石を積んだ話だよ。あいこちゃんなんか気持ち悪いって言ってた。石が上手にできたから、見てもらいたかったのにな」


「…それはモグラを埋葬した話じゃないんだ」


「そうだよ。モグラはミイラで王様だからピラミッドにいるんだよ。そしたら生き返るんだよ」


珍しく知らない転校生に得意になって私は胸を張った。


「ふうん。…見に行きたいな」



私は控えめに言ってものすごく喜んだ。









「ああ、ここなら木の影で目立たないしいいね」

「砂利のところじゃピラミッドができなかったからこっちに移動した」

「石積むのうまいね。モグラ気持ち悪くなかったの?」

「もう気持ち悪くなかったよ。干し柿みたいな感じで汁もないし。しかも王様だよ。偉いんだよこのモグラ」


転校生は私をじっと見た。

私も転校生をじっと見た。



そのあと転校生はなにも言わずにモグラのピラミッドに向かって手を合わせたから、なんとなく私も真似をした。


軽く目を閉じる瞬間、プール側の影が動いた気がしたけど目を開けてもなんともなかった。



ボソッと転校生が言った。


「王様が生き返ったら、あの子は大変だな」






人を幽霊扱いしやがって。


あ、金丸くんのことかな?私はすぐ気づいた。



















私の知る限りモグラは生き返らなかったけど、金丸くんは目に大怪我をして片方の目玉が無くなったらしい。


外が眩しいから、陽射しの強い日はうつむいて過ごしている。






転校生が言うには怪我してるから言っちゃダメらしい。













金丸くんが幽霊になっちゃったね。


ってすごく言いたいけど、私は我慢した。

















終わり

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