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まにあうひと  作者: 山門
彼と過ごした時間
3/5


転校生は静かであまり喋らない。

でも時々すごく喋る時があって、その日はそんな日だった。



「皆既日食ってあるよね。あれって月が太陽食べちゃってるみたいだから日食って言うんだよね。

昔の人はなんでそんな名前つけたんだろう」


「怪奇日食って何?」



「…太陽も月も地球も宇宙を回ってるから、たまに太陽の前に月が来て太陽を隠しちゃうんだよ」


転校生は物知りだった。


「じゃあ日食じゃなくてかくれんぼだよね。また動いたら戻るんだから隠れただけじゃん。ほんとだ、変な名前ー」


私は色々足りていなかったかもしれない。


「昔は解明されてなかったから、不気味な現象だったんだよ」


「だから怪奇日食??」


「そう、皆既日食」



お互いにニュアンスの違いには気づかなかった。


「昔の日本じゃ朔の日って言うんだ。

…いろんなものがその間だけ強くなったり弱くなったりする」


「いろんなものって?」


「…」


私の質問に無言になった転校生は、ふと笑顔を浮かべた。


「幽霊とか」



ぶっちゃけ私は全く幽霊を見たことがなく、無縁で過ごしていたが、見えないものに対する恐怖は子供らしく持っていたし、興味もあった。


私が転校生と一緒にいたのは、彼がたまにするそういう話しがとてつもなく魅力的だったからだ。


私の目はキラキラと輝いて、


「そうなんだ!」

「そう」


会話が終わってしまった。

私は続きが知りたがったが、転校生の中では話題が終わってしまったらしくまた元の静かな転校生に戻ってしまった。


こういう時になんと言ったら続きを話して貰えるのか分からなかった私は、いつも意味もなく笑ったりしていた。




高校生の時に金環日食があって、世界中が話題にしていた。

ふと転校生とのその話を思い出したけど、語る相手は既に側におらず随分寂しい思いをしたものだ。



ずっとそばにいたら男の子として好きになっていたと思う。思春期で周りが彼氏彼女で盛り上がってる中、私がそういう風に思ったのは彼くらいで、残念に思った。



会いたいな、という気持ちは心の片隅に常にあったのかもしれない。


高校卒業後の進路で、さよならした時に聞いていた転校生の行き先をなんとなく選んでしまったくらいには。

また転校しているかもしれないし、いる保証は全くなかったけれど、まるで導かれるようにその街へ進学したのだった。










ところで、幽霊の力が強くなるのか弱くなるのかどちらなのだろう。


皆既日食で。


もし強くなったのだとしたら、人間はどうなるのだろう。


弱くなるのか。


だとしたら


ふと転校生が言っていた言葉がよみがえる。








『あれって月が太陽食べちゃってるみたいだから日食って言うんだよね』





人間は食べられてしまうのかもしれない。

幽霊に。








とっぴもない考えだが、妙に腑に落ちる気がして、転校生と怪奇日食について語ったその日の私は勝手に満足したのだった。














終わり

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