約束~love
望月結城と三井勇気のその後の恋は・・・
「大きくなったら勇気くんのお嫁さんになるの〜」
幼い時に交わした言葉
約束をしたわけでは無いけど・・・
私は勇気のそばに居たい。
事件のあった後
高校を卒業した私たちはお互いの家を売却した。
母の義妹であるさやかさんが所有するマンションに移ることにした。
1LDKの一室を私と勇気にそれぞれ与えてくれた。
大学にも近く通いやすいことも考えてくれての事
勇気はあの事件から少し塞ぎ込んでいた。
自分の父親が殺人犯で幼馴染の両親を殺害して、のうのうと生きていたことを心苦しく思っている様子だった。
私は、両親を失った悲しみはあったけど、それは勇気には関係はないと言った。
大学が本格的に始まり、最初は勇気が大学に行かないのではと心配していた。
朝顔を合わせても、今までのようには笑ってくれなくなり
今度は、私が勇気を支えて行こうと思った。
あの時、私のそばで勇気がたくさん笑っていてくれたから、私は今笑顔を取り戻せた。
だから、今度は私の番
少しずつでいいから勇気とまた笑って生きたい。
どんなに辛いことがあったとしても、私は勇気を見捨てたりしない。
そう誓った。
だって、あの時勇気のお嫁さんになるって言ったのは幼い時とは言え、本気だったのだから・・・
辛いこともこれからは二人で乗り越えたい。
「おはよう。勇気っ」
私は勇気に笑顔で話しかけた。
勇気は頷くだけで私を見ようとしなかった。
それでも私は勇気の視界に入りたくて勇気の顔の前に顔を近づけた。
目を逸らす勇気にしつこく視線を合わせようとする私
大丈夫、今日がダメでも明日がある。
そうして、来る日も来る日も私は勇気に同じ事をした。
それから半年が経ったある日、勇気が私の部屋を訪れた。
真剣な顔をしていた。
何ヶ月も目を合わせようとしなかった勇気がこの日はまっすぐ私を見てくれた。
けれど、勇気の言葉は私の胸に突き刺さった。
「俺、ここを出て一人でやって行こうと思ってる。
俺みたいなやつがゆうのそばにいちゃいけないんだ。
ゆうを苦しめて、傷つけて、顔も見たくないはずなのに毎日俺なんかに声かけて・・・
もう無理しなくていいから
俺も罰を受けるべき人間なんだ。
だから、俺のことは忘れて、ゆうにはもう幸せになって欲しい。
殺人犯の息子だ。
マジでごめん。
ゆうに辛い思いばかりさせて・・・」
勇気はそういうと部屋を出ようとした。
私は勇気の腕を引っ張った。
そして思いっきりビンタをした。
「ばっかじゃないの!
傷ついたのは私だけじゃないでしょ!
勇気だって、今傷ついてるじゃん。
私に悪いと思うならずっとそばに居なさいよ!
私の前から消えたりしたら一生許さないんだから!
もうあの事件ことは終わったんだよ。
勇気はあの時ずっと私を守ってくれてたじゃん。
次は私が勇気のそばで勇気の事守るから
だから、離れたりしないでよ。
お願いだから、私の目の前から消えたりしないで」
私は勇気の腕を強く握っていた。
子供が親の腕を強く引くような感じで、私は勇気の腕を離さなかった。
今離してしまったら、もう二度と会えなくなるような気がしたから
勇気は私の手を振り払うことなく涙を流しながら私を抱きしめた。
嬉しかった。
私が勇気の心の中にまた、居られる様な気持ちになった。
勇気は震える声で「ごめん」と言った。
「謝らないで、だからそばにいて・・・
勇気じゃなきゃダメなんだよ。
小さい時、私をお嫁さんにしてくれるって言ったじゃん。
約束は守ってよね!
私は絶対勇気のお嫁さんになるんだからね。」
私も泣いていた。
抱えきれない思いが溢れ出てしまった。
勇気はまだ私を抱きしめたまま
私はこの腕の中に居られることが幸せだった。
この時間が終わらないと良いと思った。
勇気が私の体を引き離した。
私はどこにも行かないでと言いたそうな顔をして、勇気の腕を離さなかった。
勇気は自分の涙を拭いた。
そしてまた、私を見た。
「俺なんかが、ゆうと居て良いのか?
ずっとゆうのそばにいて、ゆうは辛くならないのか?
俺の気持ちを受け入れてくれるのか?
・・・
ずっとゆうを好きでいて良いのか?
今までと変わらない気持ちのままでいて良いのか?
俺はゆうのそばに居ても良いのか?」
私は涙目で微笑んだ。
「もちろんだよ。
おかえり、勇気
大好きだよ。
私も勇気がずっとずっと大好き
だから、離れるなんてもう言わないで
私をお嫁さんにしてください。
大学卒業したら結婚しよ?
支え合って生きていけると思う。
だって、ずっとそうしてきたんだから、大丈夫だよ。
ねっ。」
勇気はまた目に涙を浮かべていた。
「勇気はこんなに泣き虫だったかな?」
私はまた微笑んだ。
この日は勇気と私の部屋で朝を迎えた。
朝食を食べて二人で大学へ向かった。
この時は昔の勇気に戻っていて安心しきっていた。
講義が終わり勇気を探したが、勇気はどこにも居なかった。
私は慌てて自宅に戻った。
勇気の部屋に行くと部屋は空だった。
勇気は私を置いて出て行った。
大学に戻り勇気のことを聞いて
勇気は大学も辞めていた。
なんで?
ずっと一緒にいてくれるって言ったばかりなのに・・・
酷いよ。
どこにいるの?
私を一人にしないでよ。
勇気がいない人生なんて、もうどう生きればいいの?
私はその場で泣き崩れた。
周りの目なんてお構いなしに声を張り上げて泣いた。
連絡を受けたさやかさんが迎えに来た。
私はさやかさんに抱えれて自宅へ戻った。
さやかさんに事情を話すとさやかさんも何も聞いていなかった。
でもさやかさんは自信満々の顔をした。
「任せて!
探せばすぐ見つかるから!
少し待ってて
今日はゆっくり休んで、明日も気が乗らないなら大学休んでも良いからね。」
さやかさんはそう言うとグッドポーズをして部屋を後にした。
さやかさんを信じて待つことにした。
数日経っても連絡はなかった。
勇気はどこへ行ってしまったの?
私では勇気に相応しくなかったの?
気持ちが沈んでいく
待てども待てども連絡はなかった。
あれから何年も経った。
私は大学4年生卒業間近になった。
勇気はまだ見つからない。
どこで何をしているのか、ちゃんと生活はできているのか
私のことを忘れていないか
この約4年間私は勇気のことは忘れたことがない。
忘れるなんて出来ない。
幼少期からずっと一緒にいて離れたことなんてなかったんだから
それでも、月日の流れはあっという間で、勇気を見つけることが出来ないまま大学を卒業した。
そして私は母が残してくれた会社に就職した。
社長や会長という肩書きではなく、事務職員として・・・
さやかさんからは母の会社なのだから、後を継ぐようにと説得されたが、私は一から会社のことをっ知っていきたいと願い出た。
さやかさんは納得いかない顔をしていたが、渋々了承してくれた。
私はまだ勇気のことを諦めたわけじゃない。
事務職員の方が何かと都合が良かった。
週末には顔馴染みの友人を訪ね、勇気の情報をかき集めた。
勇気の情報は少なかったが、あの森拓真が一年前に勇気を見かけたと言った。
引越し業者の格好をして働いていたらしい。
今も働いているならばきっとその会社に行けば会えると思った。
しかし、そんなに都合よくいくはずもなかった。
もう退職した後だった。
引越し業者の社長が言うには
3ヶ月前にやらなければいけないことがある。と言い退職して行ったそうだ。
その後のことはわからないらしい。
ただ、一通の手紙を預かっていると私に渡してくれた。
そこには・・・
『ゆうへ
突然消えたりしてごめん。
あの時は、このままじゃダメだと思ったんだ。
俺のわがままに振り回して、辛い思いさせて悪い。
でも、わかって欲しい。
もう少し後少し、待っていて欲しい。
必ず、迎えにいく。
釣り合う男になってゆうのところへ帰るから。
でも、もう他にいい男がいたら、そいつと幸せになっても俺は悔いはないから・・・
この手紙を読んでいたら、別の男はいないかな?
2021年7月1日正午に昔一緒に食べたオムライスのお店に来て欲しい。
勝手なことばかりして、嫌われてるかもしれないけど待ってる。
来るまで待ってる。』
そう書かれた手紙を大事にしまい、私は走り出した。
だって、今日がその7月1日だから・・・
行かなきゃ、もう二度と会えないと思った。
正午はとっくに過ぎていたけど、ずっと待ってるのならきっとまだ居るはず。
過去のことが走馬灯のように駆け巡る。
勇気の笑顔
勇気の甘えた声
勇気の男らしい姿
いつだって私だけを見ていてくれた勇気
息を切らしてお店の前に着くと、当時の面影はなくオープンカフェがそこにはあった。
ここのはずなんだけど・・・
お店が変わってる。
私はお店の前に居た店員らしき人に声をかけた。
「あの、ここって、前は洋食店でしたか?」
そう聞くと店員らしき人に待つよう言われた。
すると中から見覚えのある顔が
「・・・」
私は黙ったまま涙を流し、その場に座り込んだ。
そこには凛々しくなった勇気の姿が
勇気がゆっくり近づいてくる。
真剣な顔をしていた。
涙で視界がぼやけてくる。
そして、勇気は私を抱きしめた。
とても小さな声で「ごめん、ありがとう」と言われた。
やっと見つけた。
やっと勇気に会えた。
この気持ちをどう伝えたら良いのか、まだ整理がつかなかった。
話したいこと言いたいことは山ほどあったのに、いざ目の前にすると言葉が出なかった。
勇気は私を席へと案内した。
そして勇気はゆっくりと話し始めた。
「あの日、ゆうを騙して置いていてった俺を許してくれなんて厚かましい事は言わない。
許されないことを俺はしたんだ。
悲しませてばかりでごめん。
でも、あの時の俺はゆうを幸せにするどころか不幸にしてしまうと思った。
勝手なことを言ってるのは重々承知してる。
そして、さらに傷つけたと思ってる。
俺には何もない。
ゆうを守ってやれる力も無かった。
でも、そんな自分を変えたんだ。
俺、今カフェのオーナーをしていて、この店の前の店主が俺のことを面倒見てくれて、俺を養子にしてくれたんだ。
俺に経営のノウハウとかも全て叩き込んでくれて
ボロボロの店より今時のおしゃれなお店にしたいっていう店主の望みを叶えて
今はその人の老後の手助けをしてる。
後で会って欲しい。
俺の義父さんに・・・」
私は整理が追いつかない。
「経営者?
どう言うこと?
これがしたくて私の前から消えたの?
え?何?
こんなに何年も勇気を探して、辛くて悲しくてどうしたら良いのかわからず途方に暮れた日もあったのに、勇気はここの店主と楽しそうに暮らしてたんだね。
今日来てよくわかった。
苦しかった。
私だけが勇気を思っていたんだね。
帰ります。
もう二度と会うことはないと思います。
失礼します。」
私が席を立とうとすると奥からあの時オムライスを運んできた店主が出てきた。
「お嬢さん、まぁまぁもう少し話を聞いて行ってはもらえないかね〜ぇ
勇気はあなたのことを忘れた日なんてないんですよ。
過去のことも色々と聞かせてもらいました。
勇気がなぜここのオーナーになったのか、あなたの家柄に相応しい人間になりたかった。
対等になりたかったからなんですよ。
あの時の勇気の気持ちは、将来あなたと一緒になっても、あなたの会社にあぐらをかく気持ちになっていたんですよ。
男としては許せないやるせない思いだったに違いない。
そして、これは勇気が悪いわけではないが、あなたのご両親への罪の重さに押しつぶされてしまっていたんですよ。
だから、あの時あなたから離れていなければ勇気はこの世にいなかったかもしれない。
それは、あなたにさらなる不幸を与えることになると思った勇気の選択は間違ってはいなかったとわしは思うんだがね。
勇気を許してはくれんかね?
幼馴染のあなたなら、今の勇気の気持ちも理解してると思うのだが?」
私は勇気がそこまで悩んでいたなんて知りもせず、一方的に今度は二度と会えなくなる選択をするところだった。
「おじいさん・・・ううん、勇気の義父さんありがとうございます。
私、勇気の気持ちをわかった気になっていたんだと気づきました。
もう失いたくないんです。
私、ここからまた勇気とやり直していきたい。
追い詰めていたなんて気づかず本当にごめんなさい。
私たちは、また一緒にいられますか?」
勇気の顔は優しく私を見つめて頷いてくれた。
勇気の義父さんも笑顔で頷いた。
会いたくて会いたくてやっと会えた勇気と私はこの後幸せになりました。
2年後結婚式を挙げて、半年後妊娠
可愛い女の子を出産して、毎日が充実している。
それはとても幸せな時間で、たまらなく愛おしいと思える日々
私の母の残してくれた会社は相変わらずさやかさんが継いでくれている。
カフェ店舗拡大に成功した勇気のアシスタントとして今私は夫を支えています。