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「ルイジェ!」


公爵家の長い廊下を歩いていると、背後からカイルの声がした。

振り向くと、嬉しそうに早足にルイジェに近寄って来た。

側に控えていたユエは察したように何処かへ去っていった。

隣に並ぶカイルの顔を見ると、決心が揺らぎそうであった。


「今日は何をしていたのですか?」


「今度、城で開かれる皇太子殿下の婚約記念祝賀会に参加する為の準備をしておりました」



「ああ。必要な物は総て一級品で揃えてくださいね」


「公爵家の恥にならない程度に揃えさせて戴きます」


ルイジェが答えると、カイルは珍しく眉間に皺を寄せた。

分かりやすく不満を表わされた為、いつも人当たりの良いカイルの変化にルイジェは戸惑った。


「カイル様、私が何かしてしまいましたか?」


「それですよ」


「それとは?」


ルイジェは益々訳が分からないという表情を浮かべた。


「いつまでも他人行儀だからです。貴方は私の臣下ではありません」


「え?ええ、そうですね」


「折角縁あって夫婦になったのです。もう少し気を許してくれてもいいのでは?」


「わ、私なんかが……」


「私なんかではありません。もう貴方は私の妻なのですから」


ルイジェは悲しくなった。

彼を謀った状態でこれ以上甘える事は許されない気がしたからだ。

今ですら充分良くして貰っている。

東国に居た時のように明日の心配をせずに暮らせるだけありがたい話だからだ。

それなのに、カイルはもっと寄り掛かれというのだ。

良心がヂクヂクと音を立てて傷んだ。


「では、一つお願いがあります」


ルイジェがそう言うと、カイルは表情を明るくして頷いた。


「何なりと申してください」


そう言ってそっとルイジェの黒髪に触った。


「私は、この国で夜会に参加した事もありません。正式な物で無くても構わないので皇太子殿下の婚約記念祝賀会の前に何か参加してもよろしいでしょうか?矢張りいきなり大きな所に行くのは不安で……」


「ああ、確かにそうですね。直近となると何があったかな」


カイルが髪から手を離し、顎に手を添えて考える仕草をした。


「サンクリフト侯爵の所で仮面舞踏会があると招待状を受け取っています。急ですが、明後日の夜だそうです。行っても良いでしょうか?」


「仮面舞踏会……、サンクリフトの所か。余りお勧めは出来ません。サンクリフト侯爵は余り良い噂は聞きませんし、何より東国との戦争を後押しした急先鋒です。我が家紋ともかなり揉めていました。何故そんな所から招待状が?」


「ユエが東国時代に伝があったらしく、その経緯で回って来ました。招待状の受取人の欄が未記入でしたので、私が受け取った事は知らないのでは無いかと思います」


「尚更行かせたくないのですが」


「どうか、お願いします」


ルイジェの懇願に負けてカイルは溜め息を持って諾を表した。


「では、共に行きましょう。ただ、貴方の髪色はこの国では目立ちます。私もそうですが。ですからある程度身元を隠せるようにルイスに準備させて行きましょう。それで良いですか?」


ルイジェは頷いた。
















ルイジェは馬車に揺られていた。

髪はグラナダ王国で一番多い茶に染め、顔の上半分を隠すドミノマスクを身に付けている。

目の前にはカイルが細かな細工のあしらわれたアイアンマスクを付けている。

勿論、髪色は暗い茶に染めている。

最初から仮面を付けた状態で会ったから、全体像は伺えなかったが、なんだか懐かしい雰囲気がした。

その感情は、今だに理由が付けられないままだ。


ルイジェは車窓を見ながら、東国とグラナダ王国の戦争の経緯や関わる人物を思い浮かべていた。

———何かが引っかかる。

曖昧なただの勘であるといえばそれまでであるが、今回の戦争が起こった経緯をユエに詳しく王宮で聞いた時から言い知れない違和感が拭えなかったのだ。

単純にグラナダ王国とパウラヴァ国の二国間が結託して東国に仕掛けた戦争であるとはどうにも思えなかったからだ。

シードが蔓延し始めたのは約一年半程前だとユエから聞いた。

ルイジェが初めてシードの存在を知ったのもそれくらいであるから大まかに間違いは無い。

商人見習いをしていたルイジェにとっては情報は命であったし、一気に不思議な広がり方をした為記憶に残っていたのだ。

それが一番の引っかかる所である。

余りにも広がり方が迅速過ぎると感じたからだ。

今回の戦争で得をした人物は誰か———。

グラナダ王国とパウラヴァ国は勿論だ。

だが、商人達の間で奇妙な噂が戦争の少し前から戦後まで流れた事を思い出したのだ。

東国の皇太子の宮殿が活気付いているらしいと。

東国の皇太子は王の正室との間に生まれた唯一の王子で、姉に当たる第一王女殿下以外は正室から子は生まれていない。

正室の女性は王の姪に当たる人物で、かなりの近親婚である。

王家の財産を分散させないようにする配慮の為、東国の王族は度々近親婚を繰り返していた。

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