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月光に照らされた白い顔を見る。

青褪めていた顔色は幾分赤みが戻って来ているようだ。

自身の欲望に呑まれた可哀想なこの麗人はきっと総てを知らないのだ。

最中には許さない行為を、当人が知らない事を良い事に禁を破り存分に触れた。

———ああ、矢張り彼であったか。

自らの眸できちんと確かめまでは半信半疑であった。

それにしても、既に女性の身体を知る者がこんな小手先の事で騙されると思っているならば、東国の人間はどうかしているとカイルは眠りに身を任せた少年の髪を弄びながら思った。


カイルがグラナダの商団に紛れて東国を調査した際に出会った少年がルイジェであった。

身分を偽り、目立つ髪色を平凡な茶に染め、いつも目深にフードを被っていたカイルを、ルイジェはグラナダ王国に迎え入れてから会っても気付かないようだった。

当時、ルイジェはグラナダとも取引のあった商人の子飼いであった。

港町には似つかわしくない美しさに、一目で惹かれた。

勿論、性別も分かっていたが、辿々しく覚えたての片言でグラナダの言葉を話す姿がやけに可愛らしく映って困った。

幾度か訪れる度に親交を深め、グラナダの言葉を教えた。

カイルは訪れる度にルイジェに惹かれた。

聡明で家族思いの優しいルイジェ。

病気がちな母を支える為にカイルよりも若い少年が懸命に勉学に励みながら、雇ってくれている商人に付いて必死で身を起こそうと足掻いている。

その姿が何よりも美しく見えた。

だからカイルはルイジェに恋情を寄せるようになってしまったのは必然とも思えた。

自身より七つも下の、それも少年に。

気付いた時にはもう重症だった。

そんな中、今回のルイジェを迎える遠因となった極島奪取の戦に関する案が上がった。

真面な良心を持つ貴族は反対した。

勿論カイルもだ。

無関係な平民を巻き込む悪魔のような作戦は当然受け入れ難いものがあった。

それに、ルイジェに危険が及ぶ可能性がある。

そんな物に良しと言える筈が無かったのだ。

だが、金に目が眩んだグラナダ国王と側近達を抑える事が出来なかった。

作戦は粛々と実行に移された。

そうして、自国の勝利で終結した。

そうして、自国の勝利で終結した。

当初の目的通り、極島を手中に収めた。

カイルはルイジェと彼の家族を迎え入れる準備を終戦してすぐに始めた。

同性であるし、ルイジェの国を蹂躙した戦争の総指揮官である。

受け入れて貰えるとは思っていなかったが、せめて近くに置いておきたかったのだ。

自身の身の回りの世話係にでもしようかと考えていたのだ。

ルイジェは賢い。

きっと大丈夫だろうと思っていたのだ。

そんな中、東国より一枚の肖像画が回ってきた。

極島の他に賠償に関する目録と一緒に人質として差し出される予定の人物の姿書きであった。

カイルは軍人としてだけで無く、議会に参加する上位貴族である。

その肖像画を見て、すぐにルイジェであると分かった。

だが、奇妙な事にルイジェそっくりの人物は女性であるとの事だった。

何故だろうと考えて、ふとそう言えばルイジェには双子の妹が居たのだったと思い出した。

議会では美しい東国の姫の身柄をどうするかと言う話しになった。

本来であれば、国王の住まう宮殿の端にある幽閉塔にでも暫く置いておくのがグラナダでの捕虜の扱いである。

しかし、肖像画の余りの美しさに議会に参加した貴族達は私欲を剥き出しに手に入れようとあれこれ算段し出したのだ。

カイルは、どの道ルイジェ母子を引き取る予定であった為、他の貴族になど譲れる筈が無かった。

此度の戦果としてルイジェを娶る話を強引に決定させたのだ。

そしてやって来たのは、矢張りルイジェの妹では無くルイジェ本人であった。

これは言い訳になってしまうが、カイル本人はルイジェと褥を共にするつもりはなかったのだ。

少なくともルイジェ本人がカイルを受け入れてくれるまでは、大事に側に置いておくだけのつもりだった。

それも、こうなってしまうと総て詭弁でしかないが。


隣で眠るルイジェ。

目尻が赤みを帯びている。

そっと触れると、ルイジェは小さく身じろいだ。

無残な事をしてしまったとは思うが、不思議と後悔は無かった。

きっと何度同じ場面になっても情を交わしてしまうだろう。

カイルが淡い月光に照らされたルイジェを見つめていると、控えめに寝室の扉をノックされた。

カイルはルイジェを起こさないように寝台からそっと抜け出ると、扉を薄く開けた。


「分かったか?」


扉の前にはアルザス家の私兵団の副官を務めるジキル・ルイス・スティーブンソンが居た。

ジキルは胸に手を当て、畏まった。


「抜かり無く。既にグラナダ王国に向かう船にご案内致しました」


「そうか、ご苦労」


カイルの返答を聞いてからジキルは一礼し、足早に去っていった。

カイルは静かに扉を再び閉ざすと、重い溜息を吐いた。

きっと総てを知っていた上で重なってしまったと知ったら、ルイジェは離れていくだろう。

やっと手に入れたと思った何よりも優先すべき存在を手放す事が出来るだろうか———。

カイルは痛み始めた眉間を揉んだ。









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