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「ルイジェ、今日から寝室を共にしますが、よろしいですか?」


カイルは二人の寝室に入るなり、ルイジェに背を向けたままそう言った。

長身で軍人らしく鍛え抜かれた大柄のカイル。

俯きながら後ろ手に首筋を掻きながら、耳を赤くしている。

その様子にルイジェは戸惑った。

自身が男である事は暴露る訳にはいかないからだ。

東国の教育の中にもしもの為に夜の営みに関する事も項目に含まれてはいた。

なるべく引き伸ばしていざと言う時に行う方法だ。

だが、日々の生活に追われていたルイジェに男女の恋愛に関する駆け引きなど分かる筈も無く、ここまで来たら逃れられないと思った。


「カイル様……、我が国の仕来りに沿って致す形でもよろしいでしょうか?」


ルイジェは冷や汗を掻きながら申し出た。


「仕来り……ですか?」


カイルは振り返りルイジェに聞いた。


「はい。我が国は貞節を一番の美徳であると幼い頃から習って来ました。例え夫婦になった間柄とは言え、夫に肌を晒す事は致しません。勿論褥以外の事であれば、グラナダ王国に馴染む努力を致します。何卒、そちらだけは私の気持ちを汲んでくださいませんか?」


ルイジェの言葉を受け、カイルは顎に手を当てて検討する仕草をした。


「どうか、お願い致します」


ルイジェは懇願を込めた視線を送った。


「分かりました。君に任せます」


カイルは頷いてベッドに腰掛けた。

ルイジェは寝室に併設されている浴室へ一人で向かった。通常の貴族女性であれば身嗜みを整える為に侍女がつけられる筈であれが、ルイジェはカイルに伝えた東国の習わしとして一切の肌が露出する行為を側仕えの者の世話も拒んだのだ。

その為、ルイジェは一人で褥の支度をした。

浴槽に貯められた湯で身を清め、唯一男性を受け入れる事の出来る場所を丹念に開いた。

ルイジェの男性の象徴である部分を腹部にサラシを用いて固く封印した。

何とも情け無い行為に涙を飲んだ。

これも祖国にいる母と妹の為なのだと。

一通り終わると、首元まで詰まった夜着を纏った。

ルイジェの着用する衣服は総て首元まである服ばかりだ。

勿論、それは成長と共に目立ち始めた喉仏を隠す為の物である。

ルイジェは緊張で震える両手を一度握りしめてから息を吐いた。

そして遠慮がちに寝室に繋がる扉を開いた。

室内にある灯を一つ一つ消し、ルイジェの動向を静かに寝台から見守るカイルに歩み寄った。

真っ暗な室内は糸を張り詰めたような緊張感で支配されている。


「ルイジェ……。僕は、冷静でいられる自身がありません」


グラナダ王国一の軍人の喪失を含んだ声音は静かに興奮を帯びていた。


「横になってください」


そう言って決心してカイルの待つ寝台を振り返ると、確かにそこに熱を帯びた男が薄いガウンを肌に掛けた状態で所在なさげに佇んでいる様子が伺えた。

暗闇でも僅かな光を孕む金糸のような髪がカイルの存在を主張していた。


「僕はどうすれば良いですか?」


カイルの問いかけにルイジェは答える事が出来ずにいた。

何せルイジェだって初めての経験だからだ。

書物や口伝えに聞いた事はあっても実践は初めてなのだ。

ルイジェは早く済ませて仕舞おうとそっと寝台に膝を付いて上がった。

軋む寝台の音が妙にルイジェに実感を抱かせた。

まだ半身を起こしているカイルの薄いガウンをそっと手探りで払うと、露わになった鍛え抜かれた肉体にルイジェの心臓は不自然な鼓動を始めた。

余りにも違う。

ルイジェのまだ幼さが過分に残る身体と成熟した大人の男性の身体を持つカイル。

それが嫌でも生々しさを掻き立てるのだ。

ルイジェが細く長い指先でカイルの身体を確かめると、確かにそこには欲望の根源が起立していたのだった。


灯を消した暗い寝室の中。

苦しげな二つの荒い息遣いが交錯した。

完全な闇の中、カイルがルイジェの髪一本すら触れる事を拒んだ。

寝台に横になったカイルに夜着をきっちりと纏ったままルイジェは跨っている。

その少しだけ捲し上げた夜着の中でルイジェはカイルを受け入れていた。

到底快感など感じる暇も無い。

寝台に上がった時、カイルの肢体を確かめた時の妙な高揚感は冷め、全身が酷く冷たい。

それが更に体内で感じるカイルの熱をはっきりと自覚させてくれる状況になっていた。

初めて他人に身体を割り裂かれる痛みにルイジェは暗闇でも分かる程顔色を無くし、脂汗を額から滲ませた。

月光のみが弱々しくルイジェを照らす。

カイルはルイジェの痛みを堪える表情を辛うじて月光の中から見て取れているのか、何度も同じ台詞を口にした。


「ルイジェ……、大丈夫ですか?」


気遣うカイルの言葉にルイジェは懸命に首を振り、永遠とも思えるよう苦しみと痛みに堪えるしかなかった。

カイルも気遣う言葉を発しはしたものの、己の劣情を抑えきる事が出来ないようだった。


ルイジェにとって拷問のような時間は過ぎ去って行った。







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