7 帰り道
終わった後、私たちは、誰もいない放課後の教室で、かっこよかったね、みたいな話をした。私は中学校の頃はボーカルをやっていた。
「前田さんって元アイドルだから、ボーカルとか一番適正っぽいよね」
長谷川くんは周りに誰もいないことを確認して話す。私は、ありがとう、とだけ言った。
私は列車で通学しているが、長谷川くんは歩いて学校まで来ているようだ。どうやら最寄駅は同じH駅のようだった。
「せっかくだから一緒に帰らない?」
私は長谷川くんに提案した。彼もその提案を受け入れてくれ、2人で歩いて帰った。
「まだ長谷川くん以外には、私がアイドルやってたことバレてないみたい。誰にも言わずにいてくれてありがとう」
結局、今日1日、誰にもヘリアンサスガールズの話はされなかった。本人の許可を得て長谷川くんのラインのトークを見せてもらったが、本当に誰にも言っていないようだった。私たちはまだ薄明るい夕方の道を2人で歩いて行った。今日のパフォーマンスで、私は高校になっても軽音部をつづけようという思いを胸に抱えていた。
「結局、きみは軽音部入るの?」
私は長谷川くんに聞いてみた。
「決意が揺らがなければ入るつもりだよ」
なぜかわからないが、私は長谷川くんと一緒にいたいと思うようになり始めていた。
帰り道は全て新鮮な体験だった。私はそこまで方向音痴ではない(と思っている)のだが、さすがに初めて歩く道はわからない。なんとなく帰るべき方向がわかるだけだ。
学校から出て左に曲がり、橋があるところで左に曲がり、交差点で公園を通る。公園は広く、ここを探検するだけで2時間は時間がつぶせそうだ。
公園を抜けると広い通路に出る。その道沿いにはK駅(最寄りH駅と学校の最寄りC北駅の間の駅)がある。その道に沿ってまっすぐ歩いていけば、H駅まで(少し時間がかかるが)たどり着くことができる。
普通に歩いて帰れば40分。C北駅から学校までまあまあ距離があることと、駅での待ち時間を考えれば、列車(30分)でいってもあまり変わらない。長谷川くんと一緒に帰れるならば、このくらいの距離なら長いとは思わない。私は、定期(1ヶ月)の期限が切れたら歩いて帰ることに決めた。