17 学園祭準備 1
8月28日のライブが終わって2週間が立とうとしている。今は9月7日、水曜日。今週末11日、12日に控える学園祭に向けて、クラスは一丸となって準備を行っていた。
企画名は、有名な思考実験の名前をそのままとって「シュレディンガーの猫」と決定した。クラスの男子、星野くんの思い付きによる案だった。
内容については、どうやら脱出ゲーム系らしいが、あまり詳細は決まっていないようだ。実行委員なのに、私は全く把握していなかった。
学園祭にはどうしても大量の段ボールが必要になる。私は、山村くん、楓ちゃん、ショウと一緒に、学校の近くのショッピングモールまで段ボールをとりに行っていた。
「段ボールって、意外と重いな」
ショウは数枚しか持っていないのに、もう弱音を吐いていた。いつも自虐ネタに使っているほど、ショウには体力がない。50m走は9秒36といっていた。私は9秒15なので、単純な数値を比較するだけでも(私もだけど)ショウに体力がないということがわかる。調べたことがあるのだが、確か男子の平均が7秒4で、女子が8秒90。脚力だけで見るなら、平均的な女子よりも体力がないことになる。
「前から思ってるんだけど、ショウって体力ないよね」
私は純粋に思ったことを言った。ショウはあまり気にしていないようだ。
「あれ、長谷川くんの下の名前ってショウだっけ? カケルじゃなかったっけ」
「いや、カケルだけど、軽音部の中では、ショウって、呼ばれてる」
楓ちゃんの突然の質問に対し、ショウはこう答えた。彼はいわゆる「コミュ障」のため、話し慣れている部活のメンバー(私とひかり)以外の女子と話すといつもぎこちなくなってしまうと言っていた。
ショッピングモールを回りながら、私たちは段ボールを大量に集めた。楓ちゃんは陸上部のため、割と体力がある。私も、さすがにショウよりは物を持てる。山村はバスケ部だから、かなり体力があるといっていいだろう。
私たちは、合計で15kg程の段ボールを、ショウ:私:楓ちゃん:山村=2:3:5:8程度の割合で分担して学校まで運んでいった。
「あ、お疲れ~」
まだ夏の暑さが残るので、青空の下を歩いていると汗が流れてくる。教室に戻ると、実行委員の太田はショウにねぎらいの言葉をかけていた。