16 カラオケ6+帰り道
「描いた未来がかなり遠くて でも歩けば
同じ明日 日々は巡るけれどそう つぎの未来へ行ける
砂漠抜けた 遠くにある町へ ただ迷わないで進める」
「黒く汚れてるその白い服 もう元には戻らないよ
だけれど僕たちはそうそれを後悔しない」
「道端ふと目を傾けてみた先に 春 始まりの花」
ヘリアンサスガールズの歌には、恋愛の感情を歌ったものが極めて少ない。覚えている範囲内だと、「恋」という言葉が出てくる歌はたぶん1つもない。ほとんどが、ファンの人たちやメンバーたちの心情を歌ったものになっている。これはプロデューサーであるアカギリかつよしの意向だという話を聞いていた。
アイドル時代の話を色々話せたのは、今日が初めてだ。2人で歌ってしゃべっていると、なぜか時間があっという間に過ぎていった。
「アイドル活動を行っていたときは、「なっきぃ」という名前で活動してたと思うんだけど、なんで『なっち』って名前に変わったの?」
「ええ、それはね、自分で『なっち』って呼び始めたわけじゃないからわからない」
私は考えずにこういってしまったが、実はなっちは自分からつけたあだ名だ。まあいいや、となったので訂正はしなかったが。時計を見ると、もうカラオケを出る時間だ。
私のアイドル時代の、ヘリアンサスガールズの歌ばかり歌っていたが、2人が共通して知っている歌と考えればそんなに悪いことではないでしょ、と私は言った。ショウも、そうだね、と言ってくれた。
2人は最寄りが同じH駅なので、C北駅からそこまで3km弱の道を一緒に帰っていった。普段も別に遠いと感じる距離ではないのだが、ショウと帰っているときは、その距離は非常に短く感じられた。
「そういえば、今日ここのコンビニの新作の激辛カップ麺出たらしいよ」
私はカップ麺が大好きだ。ショウも同じことを言っている。少し空腹気味だったので、2人でコンビニに入って、イートインスペースで一緒に食べた。
まずなっちから食べてみて、と言われたので、そんな辛くないでしょと思いながら一口目を食べた。第一印象としてはそんなに辛くない。余裕だなと思っていると、数秒後尋常でない辛さが舌の上で暴走し始めた。
「あ、やば、辛い! ショウも食べてみて! もう食べられないかも!」
私は一口だけ食べてギブアップした。私は、辛いものは好きだとは言わないまでも、人並みにはいける自信はあった。これは多分誰も辛いというだろう。
「えーっと、食べるよ?」
ショウは私が食べたカップ麺を一口食べた。最初の方は余裕そうな顔をしていたのに、数秒後彼は叫び始めた。
「あああああああああああ!」
「辛いっていうか痛い!」
ショウは、ここまで激辛の物を食べたのはいつぶりだろうという表情でカップめんを私の方に持ってきた。彼は私の方を見て、大丈夫?と言った表情をしている。私は大丈夫じゃないですという手振りをした。
捨てるのももったいないので、私はショウと一緒に何とか食べ終えた。正直、見くびっていたのを後悔した。もう食べたくない。それが2人の想いだろう。私たちは紙パックの牛乳を買って舌の痛みを何とか打ち消した。
「あのカップ麺、辛すぎたね... じゃあまた明日、部活で!」
「じゃあね!」
H駅から普通に帰ると、私が先に家に帰ることになる。私はショウと別れ、家の中に入っていった。