105 家で
ついに受験勉強から解放される。四国に戻れるという未来も、現実性を帯びたものになっていた。そうなればあと1か月の横浜の生活を、より印象深いものにしていきたいと思うようになってきていた。
ショウからは、数学で大きな失敗はしなかった、英語もそこまで心配ではないというメッセージが届いていた。しふぉんからは、英語はちょっと失敗したが数学がかなり取れたと思うとラインが来ていた。
私は、ショウのTwitterでどんな問題が出たのかを把握した。
数学は例年通り5問構成のようだ。比較的やりやすい問題が続いていたここ数年に比べ、明確に難化したことがわかる程度の難易度だったようだ(といっても、レジェンド入りはしないレベルではあるよう)。
見た感じ、1は整数問題(2025を絡めた覆面算の場合の数)。そこまで難易度の高い問題ではなさそうだ。2は複素数にかかわる問題であり、計算は難しくはなさそうなものの面倒くさい印象を受ける。3番は空間図形の問題。ぱっと見の印象で言えば方針が立たなさそうな印象を受けた。4番は確率。これも見た目が複雑そうだった。5番は積分漸化式と無限級数の和。ぱっと見典型問題に見えるが、よく見たら違うようだった。
もちろんこれは試験が終わった状況で見たときの印象であり、実際に問題を解いている人からは「意外と簡単」「案外難しい」といった印象を受けるのはあるかもしれない。ショウ曰く、200点前後だという見込みといっていた。
彼ら、彼女らの入試は私とは異なり2日目もある。私は、あと1日頑張れ!というメッセージを送った。
もう外はすっかり暗くなっている。私は、外に出て夜空に見えるオリオン座に想いをはせた。見える星空は同じでも、徳島と横浜では何もかもが違う。私はようやくその違いを吸収しきったころだった。あと1ヶ月で私は徳島に戻る。昔常識だったことが、今では違和感となっていることもあるだろう。
それでも、ここで過ごした3年間は楽しかった。これは胸を張って言えることだ。
思い返せば長いようで短い、短いようで長い3年だった。私は近くの公園まで向かい、そこのベンチに腰掛け横浜での高校生活を回想した。
高校に新しいことをしようと思い、軽音部に入ろうと決めていたショウに元アイドルだということがバレた高校生活2日目。そこから徐々に仲が良くなっていき、高1の文化祭のときに交際開始。そこからも大きなけんかをすることもなく今に至った。
結局、アイドル活動のことは今のところ誰にもバレていないようだった。
私は気づいたら泣きかけていた。色々なことがあったというのも理由だろうし、また戻れるということもそれに拍車をかけているのだろう。私はあふれそうな涙を何とか抑えながら家まで戻っていった。
気づいたら24時だ。私は、特に明日何かあるというわけではないが眠りについた。