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ツギハギだらけの逃走劇

『もしかして、下にいるの!!?』


 上の階から聞こえた、モニターからも確認できた詩織の声と反応。


 み、見つかった。とりあえず、アイツから逃げないとマズいんじゃ!?

 友人が死んだことで精神が不安定になっているのか、今の彼女は昨日や一昨日以上に注意深かったし、足も早かった。

 遭遇したら、逃げ切れる可能性は低い。隠れ続ける可能性はもっと低い。


「ちぃ……。どうすんだよ……!」


 だけど、これから詩織に似た怪物が、俺がいる1階に降りてくる。

 そうなると階段は使えなくなる。上がる最中に出くわしてしまうからな。

 他に隠れる場所といったら……別館の地下と、1階の部屋の中だけ、だけど?


「地下の階段、ドコにあるんだよ……?」


 ……肝心の、その場所が分からないんだよな。

 地図には書かれてるだろうけど、階段の場所とか普通は確認しない。

 確認する余裕、悠長に場所を調べる余裕なんてない。数秒で奴は来る。

 そうなると、選択肢は1つだけ。部屋に隠れてやり過ごすしかなかった。

 俺がいた場所の付近、階段から離れた通路奥の部屋、その扉を静かに開いた。


 部屋の中は狭かった。だけど……棚のような家具(ボロボロだから原形が分からない)に隠れられるし、真ん中には長方形のテーブル。遮蔽物に出来る。

 偶然に入った場所にしては、なかなか良い場所だ。ここなら何とかなるかも。


『スガワラ……ドコにいるの……逃がさない、逃がさないから……』


 モニターを確認すると、やっぱり1階に降りてきた奴が俺を探している。

 付近にアイツがいる。見つかったら終わり。未だにこの感覚には慣れなかった。

 ゲームみたいにコンティニューはない。ミスすればリセットする暇もないまま殺される。飽くまで夢の中だけど、それでもダメージは受ける。

 そんなことを考えると、何もしていないと……不安と恐怖が込みあげた。


『この部屋……どうかな……隠れて、ないかな……』


 奴は俺のことなんて知ることもなく、部屋の中を探し始めた。

 場所は俺の部屋とは真逆に位置するところ。安心したけど、時間の問題だ。

 その内、アイツはこの部屋に来てしまう。さらに他の奴も来るかもしれない。


 ――だけど、これ。もしかしたら。逃げ出すチャンスじゃないのか?


 “部屋の中を几帳面に調べる”、言い換えたら“部屋の探索に時間がかかる”。

 他の場所を調べている内に、その隙を使って逃げ出せる。できるんじゃないか。

 チャンスだし、リスクは少ない。何より行動しなきゃ終わりは見えているんだ。


「……よし」


 息を飲んで、棚から脱出すると、そのまま扉の場所に向かった。

 モニターで部屋に入ったことは確認したけど、念のため廊下の方を見た。


 ……誰もいないようだな。詩織も、他の奴らも。

 この際だ、遠い場所に逃げるんだ。床が軋もうと、今はとにかく――


『キシャァァァァァァァッッッ!!!!?』


 大きく踏み出した瞬間、右方向に聞こえてきた、けたたましい叫び。

 振り向くと――その場所には、一昨日噛みついてきたぬいぐるみが、眼から怪しい光を光らせていた。その目は、確かに俺を見据えていた。

 ……う、ウソだろ。あのぬいぐるみ、あんな使い道もできるのかよ!!?


『あの子が、鳴いた……スガワラ……スガワラ……』


 そして、体中が凍える感覚と沸騰する感覚が、同時に巻き起こった。

 

『やっと見つけた……スガワラ、スガワラ……』


 部屋から姿を現したのは、全身がツギハギだらけの服、肌のバケモノ。


 直に見てしまうと、奴らの異様さを改めて思い知らされた。

 怖いとか気持ち悪いとかの感情以上に、生理的嫌悪感を抱かせる容姿。

 ――それが、俺の知り合いの詩織に化けて、俺を殺そうと迫りつつあった。


『見つけた……! 逃がさない、逃がさない、絶対に、ここから、逃がさない!』


 とりあえず今は逃げだした。とにかく逃げるしかない。

 だけど、背後から聞こえるアイツの足音は明らかに早かった。

 全速力で走っていたら逃げ切れるはず。だけど、体力が持つかわからない。

 そして、この状況で物陰に隠れるなどして撒ける余裕は、もっとなかった。


「……嘘だろ、ちくしょう!」


 ここまでかよ、と。不安と恐怖と諦めに染まりかけた、その時。

 俺の視界に、小さな、だけど色や構造が違う扉が見えた。これ……もしかして。外、あの昨日の中庭に繋がっているんじゃないか!?

 可能性はあったし、何より選択肢はなかった。この先に賭けるしかないんだ!


「ここだっ!」


 扉を大きく開け放って、その先に広がる場所に足を踏み入れた。

 ……暗闇に、鬱蒼とした木々。冷え切った、だけど解放された風と空気。

 そうだ、間違いない。ここは外だ。それに気づいたら、することは1つだけ。

 林の中に身を隠し、それを続けるだけだった。何も聞こえないよう息を潜めて。

 

『いない……ドコ……ドコ……ドコ……』


 俺を追って外に出た詩織。広々とした暗い庭を一瞥し、俺を探している。


 さすがの詩織も、暗闇の草陰を探そうとする几帳面さは持ってないらしい。

 人形を抱えながらも、深刻そうな表情で俺の側をゆっくり立ち去っていった。

 俺には気づいてない、けど。本当に、大丈夫か、不安になりつつもその姿を見て。


 ――もしかして、俺は助かったのか? 逃げられたのか?

 緊張の糸が解けて、体を落とす。草が揺れる音を気にする余裕はなかった。


「……はぁ」


 思わず息を吐き捨てる。そして、疑問が次々に浮かんできた。

 そういや、他の奴の行動を確認してないな。アイツラ、どうしてるんだ?


『道也はどこかな~。昨日みたいに、見つけちゃうんだから!』


 モニターを確認してみる。照は……本館で、何故か浮かれながら探索してる。


『~~~♪ 道也先輩、腕によりをかけて、作りますからね……!』


 若菜は料理中か。時間は3時半。この様子、昨日より確かに調理が遅いな。

 

『……っ! …………、…………、…………』


 鈴は……相変わらず。本館にいないし、電力の消費も気にしなくて良いしな。



 こうして、ゆのねぇ以外の奴らの現状はわかったわけだ。

 ひとまず安心して、次。気になったのが……目の前に広がっている庭。

 この際だ、別館と同じように探索してみようか。何か見つかるかもしれないし。

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