―とある”良い子”の少女の独白―
――私が住んでいる世界は、敵だらけだった。
私が生まれた、最初の世界は幸せそうに見えた。
真面目な父に、優しいお母さん。元気な兄と妹に、良い子の私。
表面上は幸せな家庭。健やかに育てる家庭。……だけど私には違った。
お母さんは事あるごとに泣き叫んだ。自分の不幸を呪った。
だから、優しいお母さんでいてくれるために私は“良い子”になった。
誰かと争わず、誰にでも優しい、何の問題も起こさないような、良い子に。
お父さんは泥酔して、暴力を振るうことが多かった。
だから、頼れるお父さんでいてくれるために私は“良い子”になった。
怒った時は嵐が過ぎ去るのを黙って待ち続ける。気配り上手な、良い子に。
私の弟は、妹は、凶暴だけど、愛さないと親から怒られる。
だから、2人が可愛い妹と弟でいてくれるために私は“良い子”になった。
何をされても怒らず、言われた通りにする、良いお姉ちゃんな、良い子に。
敵だらけの世界で生きる内に、私は“良い子”になった。
家事ができて、気配り上手で、優しい、真面目な、頼れる、良い子に。
だけど、“良い子”になった私は……誰も信じられなくなった。
尊敬する先輩も、私を可愛がってくれる先輩も――最愛の、あの人だって。
私が認められるのは、好かれるのは、愛されるのは“良い子”だから。
もし“良い子”を放棄したら? もし止めて、それ以外の選択をしたら?
きっと周りの人たちは私を攻撃する。それほど世界に悪意が満ちているのだから。
だから、私は壁を築き上げた。攻撃されないように。
優しくて、誰からも愛される、素直で、一生懸命な“良い子”の壁を。
そんなバカげた“良い子”を、あの人はは――受け入れてくれるのだろうか。




