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謎の少女と悪夢の謎

 学校からの帰り道を、俺は1人で歩いていた。

 ゆのねぇは……まだ他にやりたい仕事があるみたいだ。

 部活はないから、すでに照や直樹たちは帰宅してるし。1人は寂しいぜ。


 学校の入り口では、何人かのマスコミらしき人がたむろしていた。

 通り抜けようとしたら案の定、マスコミに俺は質問責めに。ラスでいじめがなかったとか、体罰がなかったとか。直球だったり、オブラートに包んだりと。

 ……うんざりする。アイツラにとっちゃ人の死だって飯の種なのかよ。


「……はぁ」

「あなた、ちょっと良いかしら?」


 やりきれず1人で溜め息を吐いた時だった。背後から声をかけられた。


 振り返ると――先には、可愛らしい中学生が俺を見据えていた。

 癖がある黒髪のショートに、整った顔立ち、よく見かける近所の中学の制服。

 可愛いと言っても、彼女はどこか奇妙で不思議で不気味な、神秘的な空気を纏っていた。あまり近寄りたくない的な意味で、だけど。


「なんだよ、いきなり」

「あなたを取り巻いている怪異は――激しく重いわね」

「……はぁ?」


 あっ、これ。痛い子だ。それも末期レベルの。

 中学生にはありがちだけどさ、ここまでヒドいのは初めて見たぜ。

 この手の人間には関わらないに限る。可愛いは正義、は二次元限定だ。


「悪いが、用がないなら行くよ。悪いけど、俺も暇じゃないんだ」

「だけど、悪夢を見ているんでしょ、あなた。このままで良いの?」

「っ!!?」


 立ち去ろうとした俺を、痛い(厨二病的な意味で)少女の言葉が止めた。


 コイツ、悪夢を知ってるのか!? 俺が見ていることも知ってる!?

 衝撃的すぎる出来事に息を詰まらせた俺を、少女は面白そうに見ていた。


「あら、こちらに興味を持ってくれたようね。嬉しいわ」

「……何でそれを知ってるんだよ、お前」

「その辺りの話もするわ。立ち話もなんだし、場所を移動しましょう」


 悪夢を知る謎の少女。不可解に思った俺は後を追いかけることに。

 それにしても、今日は悪夢で殺されたうえに、自殺したクラスメートに、更にこれか。嫌なことが立て続けに起きて、気が参りそうだ。

 ……これから俺どうなるんだろう。曖昧な不安に襲われた気持ちだった。




「さて、何から聞きたいのかしら?」


 注文したカフェオレを、ティースプーンでかき混ぜる彼女。

 その仕草は年相応で可愛らしいだけに言動の痛さと不穏な空気が際立つな。


 俺が連れてこられた場所は、カフェ“ゴエティア”。

 まるっきり厨二っぽい名前のお店だ。店内はどこか洒落た雰囲気をしていて……だけど、なんとなくオカルト関係の要素が強いな。

 壁の魔方陣に、魔術書が並ぶ本棚。謎めいた小道具も店中に置かれている。

 正直、普通の状況ならワクワクしてたけど……この状況じゃ楽しめそうにない。


「んじゃ、遠慮なく。お前、誰だよ」

「名前を聞きたいなら先に名乗りなさい。それが礼儀というものでしょ」

「……菅原道也だ」

「なるほど、菅原くんね。私は“アオイ”とでも名乗っておきましょうか」


 ……なんだよ、この厚かましい中学生は。

 人に名乗らせておいて、自分は下の名前のみかよ。それも本当か怪しい。

 だけど、アオイのあの不遜な態度を見る限り、そのことを抗議しても質問しても、話が前に進まなさそうな様子だった。

 ここは高校生である俺が大人の対応をしてやろう。悪夢のことを聞きたいしさ。


「次だ、あの悪夢はなんだ。俺にいったい何が起きているんだ?」

「原因はわかってないわ。どうしたら悪夢を見なくて済むのかも」

「……ダメじゃねぇか」


 さっそく本題に入ったと思ったら、反応はこれだった。

 口にも出したけど、ダメだろこれ。この話が無駄ってことじゃん。

 期待して損した。少しでも悪夢の謎が理解できればと思ったんだけどな。


「だけどね、悪夢に出る人たちは現実の本人と繋がっているのよ」


 と、思いきや。呆れた俺を引き留めるように少女は言葉を続けてきた。


「それ、確か悪夢の怪物たちも同じこと言ってたな。どういう意味なんだよ」

「まず彼らの行動原理は必ず現実世界の本人と重なるのよ。結局、殺しに来るのは確定だけど……普段やそれに至るプロセスは個性に左右されるの」

「個性って……?」

「例えば、几帳面な人は細かく調べるし、逆なら大雑把になる。これは典型的な例で他にも性格や嗜好により変わる。あなたの悪夢もそうでしょ?」


 ……言われてみれば、アイツラの行動も同じだった。

 詩織はぬいぐるみだし、若菜は料理だし、照は若菜の応援に来ていた。鈴はゲームだし、ゆのねぇは……わかんねぇ。一応、お茶菓子をたくさん食べてたな。

 性格も何となく似通っている。今まで逃げるので必死で考えてもみなかったけど、アイツラは姿かたちだけ以外にもみんなとソックリで。


「お前の言う通りだよ。確かに事実だ」

「そうでしょう。私のことを信用してくれたかしら?」

「んで、その話はわかったけど。悪夢の解決に何の役に立つんだ?」

「現実世界と悪夢の人物は繋がっている。それは関係や感情にも左右されるわ。現実で憎まれることをすれば、それだけ行動が苛烈になる。逆もまた然りね」

「よくわからないけど。つまり、その人と仲良しだったら襲われないで済むのか?」

「そういうこと。頭が悪そうにしては理解が早くて助かるわ」

「頭が悪そう、は余計だ!!」


 あまり飲み込めてないけど……かなりいい情報なんじゃないか?

 照も、詩織も、若菜も、鈴も、ゆのねぇも俺を嫌ってはいないはず。

 その状態からもっと仲良くなれたら、悪夢で襲われる機会も減るはずだろ?


「話は変わるけど、あなたの悪夢にはどんな人が出ているのかしら?」


 希望が見えてきたところで、少女が質問を変えてきた。

 唐突だな。だから何というわけじゃないから素直に答えるけどさ。


「どんな人って。幼馴染に先輩に後輩が2人、それとクラスメートだな。みんな女子だから五等分の悪夢なわけだ。まったく嬉しくねぇけど」

「……待ちなさい。全員、女性なの?」

「ああ、不思議だよな。野郎の友人もいるんだけど、よりにもよって」


 俺が言うと、顔を真っ赤に染め始めたアオイ。なんだよ、いきなり。


「そ、その様子だと気付いてないの。今時こんな朴念仁いるのね……」


 言っている意味は分からないけど、なんか馬鹿にされたような気がする。


「まあ、良いでしょう。面倒事は増えそうだけど」

「面倒事ってなんだよ。んで、俺はどうすれば良い?」

「そんなの、簡単な話よ。彼女たち全員と親密な関係を築けば良いのよ。つまり――悪夢のハーレム、名付けて“ナイトメアハーレム”を作るのよ!」


 これこそ待てや。ものすごいこと言ってない、この娘?

 ハーレム、ってそれは。そりゃみんな女子で、みんな美少女だけどさ。

 俺に、よくあるラノベの主人公になれというわけか。無理だろう、それ。


「よくわかんねぇけど。やるしかないならやってやるよ」


 だけど、彼女の表現が素っ頓狂なだけで間違っていなかった。

 要するに全員と親密な関係を築いて、悪夢を乗り越えろってことだろ?

 俺がそう決意を固めると、アオイは頷いた。何か不吉なものを考えてそうに。


「その調子よ。あなたなら期待できるわ」

「そりゃどうも。だけど、そんな情報。何処から手に入れてきたんだよ」

「あなた以外にも悪夢を見た人間に接触しているのよ。一昨日はあなたと同じ学校の女子生徒さん。もう死んじゃったみたいだけどね」


 あなたと同じ、死んじゃった。咄嗟に自殺した生徒が思い出された。


「それ……もしかして!?」

「あなたも想像通りよ。私に助けを求めたのだけど、勝手に死んじゃった。元々精神が不安定だったし、持った方だけどね。哀れだけど」


 確かあの人も悪夢を見ていたけど、それにもアオイが関わっていたのかよ。

 そして、彼女の口から放たれた言葉の数々。淡々と、何も思ってないようで。

 ……嘘だろ、コイツ。ちょっとだけでも信頼し始めていた俺の心が一気に冷めた。

 

「それ、どういう意味だよ」

「別に、そのままの意味よ。事実を並べたまで」

「だけど、死んだ人に対してあまりにも冷たすぎじゃないか。人が死んだんだぞ」

「私を非道な人間と思うのは勝手。だけど、現実を見なさい。悲しんでも死んだ人間は戻ってこないし、現にあなたは同じ運命を辿ろうとしているの」

「それとは別だ。俺が死にそうだからって誰かの死をないがしろにできるかよ」

「優しいのね。甘いと言うべきかしら。その精神じゃ悪夢を乗り切れないわよ」


 冷たい眼差し。わかってる。アオイは飽くまで正論だ。

 正論だけど、俺は納得できない。そんなに人の死を割り切れるなんて。


「私が話した方法は対処療法にすぎない。悪夢自体を止めることはできていないのよ。それに、あなたの場合は特に――」

「……なんだよ」

「なんでもない。とにかく問題を解決したいなら私を頼るしかないの」

「それは、わかってるけど」

「なら、やるべきことはわかってるでしょ。とことん私を利用することよ」


 彼女の目的が分からない。何故アオイは悪夢に関わろうとするのか。

 不思議だし、信用できない。だけど、悪夢を知る人物は未だに彼女しかいない。

 俺を複雑な思いを込めた向ける視線に見つつ、アオイはカップを口に傾ける。


「今日はここまで。また明日、あなたが生きている限り協力するわ」


そして、カフェオレを飲み終わった彼女は、これを最後に立ち去る。

 ……どこまでも彼女の言動が腑に落ちない俺を、置いてけぼりにして。


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[一言] 好きなのに、気付いてくれない鈍感なところを、無意識に憎まれ、夢で襲われている。現実では愛とか好意だが、夢で反転して、悪意とか憎しみに変換されたというところでしょうか?生き延びるのは、無理ゲー…
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