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再びの悪夢

 目を開けると、またもや俺はこの無機質な部屋に居た。

 パイプ椅子に灰色の事務机。壁一面に張り巡らされる数々のモニター。暑くもないのに動いてる扇風機に、不気味に響いた低い機械音。

 重苦しい雰囲気と、扇風機の風や隙間風が……俺の体を震え上がらせた。

 

「嘘だろ、マジで」


 思わず、そう呟いた。背中には嫌な冷や汗が滲み出ていた。

 また見てしまった、悪夢を。やっぱり、あの噂は本当だったんだ。

 悪夢は存在する。そして、俺を殺しに奴らは来る。今までは偶然だ、何かの間違いだと誤魔化してきただけに、現実になった恐怖はすさまじかった。

 どうしよう、どうすればいい。焦りと思考がぐるぐる回って収集がつかなくなる。それを止めてくれたのは、モニターの起動音とアイツラの声だった。


『はい、今日も始めましょうか。素敵な悪夢を、道也くんのために』

『昨日はダメだったけど、今日こそしてやるんだからね!』

『すみません。私が不甲斐ないばかりに……もっと、もっと、頑張らないと』

『ゲーム……ゲーム……ゲーム……ゲーム……』


 画面越しに存在する歪なあいつらは、容赦なく俺を殺そうとする。

 逃げないと。……だけど、その前にやることがある。今までのことで得た情報から、あいつらの行動をまとめておこうか。

 そして、あいつらの呼称をみんなの名前に統一しておく。何であろうと照は照、詩織は詩織、ゆのねぇはゆのねぇ。そうやって呼ぶことにする。

 めちゃくちゃ不愉快だけど、自分で言ってて分からなくなるよりはマシだ。

 

『今日こそ殺ってやろうね、詩織ちゃん!』

『あ、あんたに言われなくても。ファイトだ、詩織。負けるな、詩織』

 

 まず、屋敷内を徘徊するのが照と詩織。2人の徘徊のパターンは知らないけど、昨日の行動を見た限りだと照の方が活発な気がする。

 だけど、詩織は気味の悪いぬいぐるみを所持していた。トラップみたいなもので、どこかの部屋に設置して、俺が中に入ったら飛び掛かる。その際に奇声を発して徘徊する2人を呼び寄せるから恐ろしい。部屋に入るのは慎重にならないと。


『わ、私も……今日こそ道也先輩に、私の料理を食べさせてあげないと!』


 次に若菜。何やら料理しているみたいで、完成まで1階のキッチンに居続ける。

 だけど、完成したら俺を探し始める。これがかなり厄介だったりする。昨日の言動から察するに“俺の匂い”を見つけることができるらしい。

 つまり俺の場所がバレバレなわけだ。場所が分かってしまう上に隠れられない。


『ゲーム……ゲーム……ゲーム……ゲーム……ゲーム……ゲーム……』


 鈴は2階の小部屋でゲームをしている。正直、何のためにいるのか分からない。あの小部屋の中に入らなければ、大丈夫か?


『あらあら、まだ今日はほどほどにね。これから面白くなるんだから』


 そして、最も意味不明なのが部屋の最奥で笑みを浮かべてるゆのねぇ。

 何がしたいのか、何が目的なのか、何もわからない。今のところは俺を襲おうとはしないみたいだけど、それがなおさら気味悪かった。

 できれば、というか絶対に敵に回したくない。勝てる気がしなかった。


「よし、やるか」


 一通り、思考と観察が終わったところで俺も覚悟を決めた。

 息を大きく吸うと、吐き出す。不安や恐怖と一緒に内から出すように。

 大丈夫だ、ゆのねぇの助けを借りたとはいえ、何も知らない状態でも昨日は逃げ切れたんだ。対処法が分かってる俺なら問題ないはず。

 ある意味、自己暗示に似たことを繰り返していると、部屋の隅の物に気づく。


「あれ、これは?」


 それは所々が虫に食われたり、焼失したりしている紙切れ。

 だけど、見える部分から考えると……これは地図か。しかも、ここの!

 1階にキッチン、三階の中央には大部屋。間違いない、多少は頼りになるはず。

 ぼろぼろの地図と昨日も使用した備え付けのタブレットを持って、部屋を出ようとした時。電気を消し忘れたことに気付いた。モニターも点きっぱなしのはず。


“あと電気は消しなさい。次は無いからね?”


 あんな奴の忠告なんて聞く必要ないよな。今は逃げることが先だ。

 後ろ髪を引かれる気持ちに駆られながらも、俺は部屋をこっそりと出た。

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