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終わりない夜を歩いて  作者: 篠井秋生
8/9

ー星と野良犬ー (その8)

それから時間ときは流れてーー


待ちに待った昼休み。


オレは光彦の助言通り四限が終わると同時にカバンの中の弁当をわしづかむと、オレを呼んでいる高見の声を振り切り、待ち合わせの第二校舎の階段まで全速力で走っていった。


(高見のヤツ、ヘタしたら追って来そうな気配だからな。アイツ、足だけは速いから、ホント参るわ)


ゼイゼイと息を切らして目的地の階段にたどり着くと、大きく息をつく。


急いで弁当を食べ終え、そのあと足を伸ばしてのんびりしながら寛いでいると、程なくしてヒロがひょっこりと手すりの陰から顔を出した。


「久我一君、ごめん。待った?」


「いや、結構前に食べ終わってボーッとしてた。川上、意外に早かったじゃん」


「う、うん。少し急いで食べて来た」


「そっか。あ、ココ、座れば?」


オレが横を指差すとヒロは素直に隣に座った。


❇︎ ❇︎ ❇︎ ❇︎ ❇︎ ❇︎ ❇︎


「……実際、もっと『お堅い』感じだと思ってたんだよ、川上のコト」


校舎に面した昼休みの中庭は、僅かなスペースを使ってバレーボールをしている生徒がいるきりで、思ったよりも静かだった。


人気のない第二校舎の外階段に並んで座りながらオレがそう話し掛けると、ヒロはちょっと困ったような顔をして笑った。


「それ、よく言われる。全然そういうつもりはないんだけど、人と話すのは苦手で…」


「そうなの?」


「うん。何を話したらいいのか分からないんだ。勇気を出して話しかけても、テンポがズレてるみたいで、会話がはずまないし。だから今朝けさ、久我一君と高見君のやりとりを見て少し羨ましかった。新鮮、っていうのかな。二人は仲がいいんだなぁ、って思って」


(仲が良い ⁉︎ )


聞き捨てならない言葉を耳にして、オレは思わず目を見開いた。


「イヤ!それ、違うから‼︎ 仲が良いんじゃなくて、アレはただの『腐れ縁』だから!」


身振り手振りを交えて、即座に力一杯否定する。


するとオレのその姿が可笑しかったのだろう。

ふふっ、とヒロは小さく笑った。



「……でも、そっか。川上は人と話すのが苦手なんだ…。あ、だけどそれじゃあ、オレとこうやって話すのも、ひょっとしてビミョー…だったりするんじゃないの?」


「ううん」


急に心配になって尋ねると、ヒロはオレの言葉に首を振った。


「久我一君と話すのは楽しいよ。ヘンな緊張もしないし、すごくラクだし」


「ホント?ならいいんだけど…」


即座に否定されて、ホッと息をく。


大丈夫と言われたついでに、オレは今朝からずっと考えていたことを口にしてみた。


「あ、でも、それならさ、コレも何かの縁だし、これからも話とかしないか?オレもヒロと話すの楽しいし…」


「えっ?」


急に小さく驚いたような声が聞こえ、真横のヒロが身じろぎをした気配がした。


(ん?)


「何?どしたの?」


すかさず横を見ると、驚いたように目を見開いているヒロと視線が合う。


「あ、あの久我一君、い、今『ヒロ』って…」


「あっ‼︎ 」


(しまった ‼︎ )


いつも心の中で呼んでいたせいか、つい口が滑ったらしい。


ーーくそっ、しくった!


内心、かなりのレベルで動揺したが、そんな素振りはおくびにも出さずに、オレはとりあえず大きく息を吸い込んだ。


むしろココは押すべきところだ。


ーーチャンス到来だろ。


オレは頭を掻きながら恐る恐る尋ねた。


「…あ〜〜、もしかして名前で呼ばれんの、イヤ?」


「イヤ、じゃない…けど…」


オレの問いに、ヒロはなぜか口ごもりながら答えた。


「じゃ、ヒロって呼んでもいいかな?オレのことは、そうだな…篤紀だから『アツ』って呼んでよ」


「ええっ!」


今度は急に、思いもよらない大きな声でヒロが叫んだので、それにビックリしてオレが固まる。


「えっ?なに?どうした、ヒロ…って……ええっ‼︎ 」


(スゴイ…な)


至近距離で起こったヒロの変化を目の当たりにして、オレは思わず目をみはった。


(人間って……ホントにこんな風になるんだ…)


オレの見ている目の前で、色白のヒロの首から上はみるみるうちに赤くなり、まるで湯当たりした人か、もしくは熱が出ている人みたいに真っ赤になっていく。


よくマンガやアニメでこういう表現を見たことはあったけど、まさかリアルタイムでこれを見られる日が来ようとは。



うわ、何だろ、このカンジ。


なんか、カワイイ。


見た目、ちゃんとした男子だし、声だって低いし、女の子みたいにふわふわと柔らかい可愛いさってワケじゃないけれど、でもなんだかーー


(スゲー、カワイイ)



何となく触りたくなって真っ赤になってしまった薄い耳たぶを指で挟むと、ヒロはビックリしたように大きく目を見開いて、固まった。

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