ー星と野良犬ー (その6)
あくる日の朝オレが学校へ行くと、いつも通りヒロは先に来ていて、オレの姿を見るなりコチラへとやって来た。
「お、おはよう、久我一くん」
「はよ」
教室で交わす初めての挨拶。
やっぱり少し緊張しているのだろうか。いつもは白い頬っぺたが少しだけ赤くなっている。
(カワイイな)
顔がニヤけそうになるのをこらえて挨拶を返すと、ヒロはホッとしたように小さく微笑んで息をついた。
「あの、久我一くん、昨日はありがとう」
「いや、どう致しまして。それより、川上は大丈夫だったのか?家の方」
気になっていたことを尋ねると、ヒロは小さく頷いた。
「あ、うん、大丈夫。図書館に寄ってて遅れたって言って、何とか…。それで、その…あのあとどうだった?ネコ、大丈夫だった?何か困ったこととか無かったかな?」
「あ〜、それなら、そうだな、あのちびすけの親の事なんだけど…」
そうオレが口を開きかけた時だった。
「うぃ〜っス!」
教室中に響き渡るデカイ声がオレ達の会話を派手に遮り、声の主に心当たりのあるオレは思わず頭を抱えたくなった。
「よぉ、久我一 ‼︎ 今日はずいぶん早いじゃん!お前にしてはめっずらしい〜〜‼︎ 」
朝一番から小憎らしいコトを平気で言ってきたのは、中学からの腐れ縁で同じクラスの高見健二だった。
(くそっ!タイミング悪い!)
「…珍しくはないだろ。確かにいつもよりかは早いけど」
「はよっス!…ってーか、川上と朝から何?ずいぶんと珍しい組み合わせじゃん」
身長百八十センチ越えのガタイのいい高見は、オレとヒロとを交互に見比べると、不思議そうに首を傾げた。
「何でもねーよ。オマエ朝からうるさ過ぎ。つーかデカイ!邪魔!あっち行ってろ!しっしっ!」
早くこの場から追い払いたくて邪険にすると、高見はいかにも不満気な声を上げた。
「え〜〜っ、何だよ、久我一、朝からオレに冷たい〜〜!」
「当たり前だ。オマエに優しくする義理はない」
「え〜〜っ!ヒドイ〜〜、久我一、オニ〜〜‼︎ 」
「何とでも言え」
オレがそっぽを向くと、
「川上〜〜っ、久我一に何とか言ってくれよ。コイツ、ヒドくない?」
と、あろうことか高見はヒロに泣きついた。
(あっ!コノヤロ、何どさくさに紛れてヒロに懐いてんだよ!)
会話を邪魔された上に、ヒロに懐かれるとか、冗談じゃない。
「おい!高見!オレたち今ちょっと大事なハナシしてんだからアッチ行け!」
業を煮やしてオレが叫ぶと
「大事なハナシって、なに?」
と、この期に及んで性懲りもなく訊いてくる。
「っだ〜〜っ!もう!何でもいいだろうが ‼︎ っつーか、もうそろそろ予鈴鳴るぞ!オマエ、一時限目の現国の課題、今日はちゃんとやってきたんだろうな?今日、オマエから指すって、現国の永島云ってたの、忘れてねーだろうな?」
「アッ!」
オレの指摘に高見が目を見開いて叫んだ。
「うわぁ〜〜!ヤバイ!オレ、カンペキに忘れてた!忘れてましたっ‼︎ どーしよ!永島にぶっ飛ばされる!うわ〜ん、久我一、助けて〜〜‼︎ 」
「オレは知らん!泣きつくなら光彦に泣きつけ」
話題が逸れたのをコレ幸いとばかりに、オレは教室の隅にいたもう一人の腐れ縁ーー 豊島光彦に高見を押し付けた。
「みっちゃ〜〜ん!助けて〜〜‼︎ 」
事態に気付いた豊島が、げんなりした表情でコッチを見る。
「久我一、面倒くさいのをコッチに押し付けるな」
「お前、今ヒマだろうが」
豊島がチッ、と舌打ちをしたのと、デカイ男が居なくなったのを確認してホッとしたのもつかの間、時計を見ると、タイミングを見計ったように予鈴が鳴った。
(あ〜、くそっ!ホント、タイミング悪い!)