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終わりない夜を歩いて  作者: 篠井秋生
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ー 星と野良犬 ー (その1)

「なぁ、どうする?もうこんな時間だし、どこか行くか?それともオレ、お前んの近くまで送っていこうか?」


問いかけたオレの言葉に答えようともせず、硬い表情で俯いたまま、ヒロはそこから動こうとしなかった。


並んで腰掛けた公園のベンチは、夜の冷気に冷たくなり始めていた。


いつまでもこんな所に居れば、そのうち巡回の警察官にも見咎められるし、そうなれば確実に面倒な事になるんだぞ、と暗に言ったつもりだったのに、どうやら今のヒロにはそのニュアンスが伝わらないらしい。


いつのまにか点いた外灯が、強張ったヒロの横顔を照らしていた。



(ま、この状況じゃ、ムリもないか…)



いつも少し微笑んでいるように見えるオレの好きなヒロの唇は、今は硬く引き結ばれている。


色んな意味で、もうかなりマズイとは思うが、何にしても、この状況もマズイだろう。


ましてや明日は特別な日だ。


オレは一息つくと、傍らのヒロに再び声を掛けた。


「…だったら、一度、家に連絡しておいた方が良いんじゃね?お前の母ちゃん、今頃、スゲー心配してるだろうし……」


「母さんとは話したくない」


間髪入れずに返答したところを見ると、自分の考えに耽って、こちらの話を聞いていないワケでもないようだ。


オレはちょっと安心して、言葉を続けた。


「…引っ越し、明日だろ?まぁ、お前の母ちゃんも……あっ、それからもちろん父ちゃんも、お前のコト、心配してるんだよ」


なだめるつもりで云った言葉がどうやら裏目に出たらしく、ヒロはオレの言葉を聞くなり、それまで俯いていた顔をサッとあげて、堪え兼ねたように口を開いた。


「引っ越しするなんて、僕は聞いてない!転校の事だって‼︎ 大体、勝手すぎるよ。こっちは納得してないのに、勝手に騒いで勝手に新しい学校決めて!そんなの……オカシイじゃないか!」


ーーそうなのだ。


ヒロの転校が決まったのは、突然の出来事だった。


そしてその原因は間違いなくーー


『オレ』、なのだ。




コトの発端は二ヶ月前。


オレは教室にいたほぼ全員のクラスメートの目の前で、計らずもヒロと付き合っている、と公言してしまった。


それは全くの成り行きだったのだが、平和な田舎の小さな高校を騒がせるには充分なインパクトを発揮してくれたらしい。



学年上位の優等生と、同じクラスのビミョーな落ちこぼれ。


ーーしかもオトコ同士。


年頃の好奇心も相まって、教職員クラスは事態の収拾に時間がかかり、そうこうしているうちに、心配が頂点に達したヒロの両親が、ヒロに内緒で勝手に転校の手続きを決めてしまったというワケだ。


まぁ、両親にしてみれば、優秀な一人息子の将来が左右されかねない、一大事くらいには思っただろう。


相手が『オトコ』で、しかも明らかに出来の悪そうなクラスメートとくれば、まぁ、かなりの部分で不安と怒りを感じる気持ちは分からなくもない。


親も学校に呼び出されての話し合いの席では、いかにも良い所の奥様っぽいヒロの母親に結構なキツイ言葉で罵倒されて、それに腹を立てたウチの母ちゃんが向こうの親を過干渉呼ばわりする騒動に発展し、同席していた担任と校長、それに教頭が止めに入る騒ぎとなった。


ヒロの母親はオレに向かって『相手は誰でもいいんでしょう!』とか『なんでよりによってウチの子なの!』とか云っていたけれど、もちろん誰でもいいワケじゃない。


だって、オレは根っからの同性好きじゃなくて、『ヒロ』が好きなだけだから。


どうしてそう思ったのが他の人じゃなくヒロだったのかは、オレにも分からないけれど。


だって、初めはむしろ、オレの世界にヒロは居ないも同然だったのだ。


だから、どうしてそう思うようになったのか、自分でも上手く説明する事は出来ない。


ただ一つだけ、思い当たることがあるとすれば、


それはオレがーー綺麗なものを好きだってコトだけで。


ヒロはある日突然オレの世界に現れて、オレの感じる綺麗なものの中の『てっぺん』になってしまったんだ。


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