灰色の君
『今日風邪ひいたから休むね…』
唯からLINEが来たのは学校に向かう途中の電車の中だった。
『大丈夫か?お大事に。』
返信をして停止していた音楽を再生する。イヤホンから流れる音楽。
次の駅で降りたら皇太が待ってる。
駅で待ち合わせして一緒に学校へ行くのだ。
電車が止まる。開いた扉の向こうにケータイを片手に皇太が立っている。俺を見つけると走ってくる。
「陸斗!おはよ!」
「おはよ皇太。元気だな」
俺を見ると途端に嬉しそうな顔をする皇太。どんだけ俺だよ。
「今日、学校早く終わるから昼飯食いに行こう!ね!」
皇太が早々に口にする。
「ああ、いいよ。ちょうど唯も休みだし。」
「小川休みなの?」
「そ、そうだけど?」
しまった、こいつの前で唯の話はまずかったか?
「ふ〜ん、そう」
特に興味も無さげに反応すると先に歩き出す。
皇太は唯のことどう思ってんのかな。
気になるところだ。
「うわぁ、お腹空いた!陸斗は何食いたい?」
「そうだな、マックでも行くか」
やっと放課後。職員会議だからとかで今日は帰りがはやい。
「陸斗との昼飯。すっげぇ楽しみだった。」
皇太が満面の笑みで話す。
「マジでか」
そういう俺も、久しぶりの親友とのご飯に自然と笑みがこぼれる。
「いらっしゃいませー」
相変わらずいい具合に混んでいる。
「じゃあ買いに行くか………」
「いいよ、俺買ってくる。陸斗は座ってて。何食いたい?」
レジに行こうとする俺を皇太が止める。
「陸斗は休んでなよ。」
そう言って買いに行ってしまった。
ほんとたまにかわってるんだよな。こうゆうところ。
何気にケータイを開くと唯からLINEが来ていてドキッとした。好きな子からLINEが来るのだから無理もない。
『だいぶ熱下がったよ〜辛かった〜』
『お疲れ様。明日は来れる?俺今日ぼっちだったわ』
『ごめんね、中村くん!明日になら行けると思う!…あと……言いたいこともある』
最後の一言にびっくりする。
「陸斗ーおまたせ〜」
「う、うぉ!」
唯の名前を見られてはいけないと、慌ててケータイをしまう。
「どうしたの?陸斗」
「な、なんでもねぇよ?大丈夫。それよりありがとうな買ってきてくれて。」
「いや、いいんだよ」
食っていると皇太がこっちを見ている。
「なんだよ……」
パシャッ
「あっ!」
「ひひっ」
油断して顔を向けた俺をスマホで撮る皇太。
「けっけせよ!」
恥ずかしくなってケータイを奪おうとしても届かない。
「陸斗のこの顔好き〜待受にする〜」
「何言ってんだよ!」
恥ずかしくなりながらも俺と仲良しでいてくれる皇太に感謝していた。
「おはよう小川。元気か?」
「おはよう中村くん、私は大丈夫だよ」
唯は約束通り次の日には登校してきた。
「あの、話って……」
「あ、ああ!それは………放課後まで待ってくれたらなぁ………」
うつむき加減に話す唯。
「わ、わかった。」
まさか!?とか考えてしまうけどそれはないだろう。俺みたいななんの特技もないやつより皇太みたいな金髪爽やか男子の方がモテるに決まってる。背も高いしスポーツ万能。文句なし。
俺もあいつみたいになれたら。唯も好きになってくれるのかな。
「お、おまたせ中村くん、待った?」
放課後。1人教室で待っていた俺。遅れて来たことで申し訳なさそうに顔を覗かせる唯が可愛くてたまらない。
「ぜ、ぜんぜん待ってないよ」
唯はモジモジしながら俺の前までくる。
「あ、あ、あのね……」
唯の頬が真っ赤に染まる。もちろん俺の頬も。
「い、嫌だったら……ちゃんと断ってくれていいからね?」
どうゆうことだろう。
「わ、わ、わたし……」
ドキドキ。
「中村くんが……」
ドキドキ
「す、す、す、っ!……………好き…なの…」
「ふぁっ!?」
あまりの出来事に俺は倒れそうになる。
「ゆ、ゆい!じゃない!小川!それっ」
「ゆいでいい!ゆいがいい!」
俺の言葉を遮って唯が叫ぶ。
「ゆい……」
「嫌だったら言って!諦めるから。でも私、ずっとずっと……」
「お、俺もだ!おれもっ」
「ええ!!?」
全身から力が抜けた状態でなんとか声を出す。
「俺は中3の頃から……唯が…好きでした……」
言った。本心を言った。
「えっ?……うそっ……なによそれぇ……」
泣き出す唯。
「泣くなよっ俺まで……泣いちまうだろ……?」
「うっうっうっ…」
「俺のこといつから好きだったの?」
俺のそばでうずくまり泣いている唯に優しく話しかける。
「………小学4年のときから……ずっと………」
小4。今高1だから実に7年間俺に片思いしていたのか。片思いは苦しい。俺の1年間よりも長く苦しんでいたのか。なんでもっと早く告白してあげなかったんだろう。男らしくないな。結局受身じゃないか。
「ごめん唯。俺がもっと……早く………でも、ありがとう」
あれから唯と正式に付き合うことになった。
『今日も楽しかったね♡おやすみ』
『おやすみ♡いい夢見ろよ』
『おはよう!起きたー?』
『今起きたよ。おはよう』
と、こんな具合でLINEはバカップルみたいな会話が続いた。
最近、唯ばっかりで皇太にかまっていなかったな。そう思いながら過ごしていた。あれから3日。こんな夢のような日々が来ようとは思ってもいなかった。
昼休み、2組には皇太が1人、窓際に立っていた。
「皇太ー」
することもなかったので、2組に遊びに行った。
皇太は何も言わずに俺を迎えた。
「最近一緒に帰れなくてごめん。まぁお前は友達たくさんいるし寂しくはないかもだけど。」
「なんで帰れなかったの?」
唐突な質問に俺は戸惑いながら
「聞いて驚くなよ?」
と言い深呼吸した。
「俺、三日前に唯と付き合ったんだっ♪へへっ!びっくりだろ?」
そう告白した。
「……………」
皇太は無言のまま下を見ている。
「お、おい、なんか言うことないのか?」
「なんで気づいてくれなかったんだよ」
皇太が呟いた。
「え?なに?」
まさか皇太も唯のことが好きだったのか?
「まさか皇太も唯のこと……」
俺が言いかけたその時、皇太がネクタイごと俺を自分の方にひっぱった。
グラッと傾く重心。慌てて体を支えようとして
「……っん……!?」
唇に何かが触れる。温かいものが。それは……
皇太の唇……!?
「な、なにしてんっ…んあっ!?」
何が起きてるんだ?
皇太の舌が俺の口の中を舐めまわす。
「……んっ……んっ…」
「や、やめろっ……」
抵抗しようとしても動揺しすぎて力が入らない。あっという間に窓際の床に押し倒される。
「こうたっ!なにしてっ……!?」
皇太が俺のワイシャツのボタンを外しはじめる。
「やっやめろ!おい!」
ドンッ
思わず皇太を突き飛ばしてしまった。
「あっ、ご、ごめん、こうた……」
皇太はうつむいたままなにも言わずに走り出し、教室を飛び出した。
「皇太っ!皇太ぁー!」
皇太を追いかけようと立ち上がるが、膝がガクガク震えて立てない。そのまま床に膝をつき座り込んだ。
"恐怖"
怖い。皇太が怖い。
皇太。何なんだよ。皇太。
小さい頃からずっと一緒。
世界で一番大切な親友。
君が笑うと俺も笑う。
君が悲しんだら俺も泣く。
笑って泣いて。
俺の頭の中の皇太はいつも笑顔だった。しかし、今の俺の脳内の皇太は灰色によどんでいた。
灰色の君。
今は君をまっすぐに見れない。
続くといいね…