その男、天道乱世
「ぐぅっ……!」
シェリスの回し蹴りの衝撃が、あたしのガードを突き破って硬質化した腹筋に突き刺さる。
(重いッ……!)
いつか男闘呼組に加入してた時期に手合わせしてた頃とは、ぜんぜん比べ物にならない……!
当たり前って言えば当たり前だけどシェリスも他の頼成の手先の黒服たちと同じように、潜在能力を引き出されてる。
火器を放出していくらか重量は減っているとはいえ、100キロに近いあたしの重量を、ガードの上から軽々と弾き飛ばしてみせる……!
マトモな人間の力じゃない……!
「平気か、嬢ちゃん!」
ブラッドが尚も追撃をかけようとするシェリスを牽制するように、あたしに駆け寄る。
「平気……!」
「そうか――――ぐぅっ!?」
「ブラッド!?」
その彼の背後に忍び寄っていた志摩が、腕をねじり上げるように極める。
「ぐあああああっ!?」
「ちぃっ……!」
姿勢を低くし、ブラッドの足の隙間から背後の志摩の足を薙ごうとするが……!
「………………」
志摩は、すんでのところでそれをかわして距離を離し、再びシェリスとの連携を取り始める。
「ブラッド……!?」
「ち、ちぃっ……! ぬかった……狙いは俺だったか……」
「腕をやられた……?」
「あ、ああ……。折られちゃいないが……。かなり持っていかれた……」
「離れろ、お前らッ!」
「…………!」
我道にエネルギーの高まりを感じ、その声と同時にブラッドの巨躯を抱えて飛び退る。
「合わせろジャドッ! おおおおッ!! デス・ライト・ナックルッ!」
「……影舞脚……!」
我道の広範囲に向けた『気』の奔流がシェリスを、それを縫うように仕掛けられたジャドの技が志摩を襲う。
しかし……。
「………………」
「なんだとッ……!」
我道の技をシェリスが受け止め、志摩はジャドの連打の全てを見切り、躱してみせた。
「ちぃっ……!」
逆に反撃を喰らいそうになるのをどうにか体勢を整え……あたしやブラッドのところまで後退する二人。
「……やはり……一度見せたものは……悉くに対処される……!」
「俺のデスライトナックルはせいぜい、武闘祭で見せた程度なんだがな……。しかも、未完成を……」
「……シェリスは、皿騒動の時に……回収されたあんたのディスクに僅かだが触れている……」
「それだけの事でか……!?」
「はしっこい娘だ。あんたも……知っているだろう」
「う……」
「本人に自覚はないだろうが……ことに……あんたがらみの事なら……目にしたものは忘れまい……」
「ちッ……!」
我道の舌打ちは……わかる。
そういうシェリスの感情をも利用する、頼成っていうのは、やっぱり、最悪だ。
「体術でもだめだな……。業腹だが、志摩はそれ以上の技を毎日、目にしている」
「真島か……?」
「そうだ。さすがの俺でも……あの速さ以上は出せない……」
目が慣れている、ってことか……。
「……だからこそ……ブラッドを狙った、か……!」
ジャドが気づいて、憎憎しげに言葉を吐く。
確かに……。
この二人にとって、唯一、不確定な要素はブラッドの持つ、パワー……。
もちろん、ブラッドがあの二人を捕らえるのは至難とはいえ……。
いったん捕まえてしまえれば、いかに強化されている二人でも、致命打にいたるダメージを与えられる可能性もあった。
「く、くそっ……」
そのブラッドは筋をやられてる。
普段の半分がたの力も出せるかどうか……。
(うまくはいかない、か……!)
あたしにしても今は、火器搭載に偏った装備をしている分、スピードはもとより、パワーもそれほどのものが出せない。
「まずいな……」
このままじゃ、真島たちパンクラスが到着する前に、こっちが全滅させられる。
パンクラスだって、ここにいたるまでに疲弊させられてはいるはずだ。
(まずい……それは、本気でまずい……!)
「……………………」
「……………………」
シェリスと志摩が悠然と距離を詰めてくる。
「ちっ、勝ち誇ったって感じだな……」
「くっ……!」
あたしたちが、半ば覚悟を決めたその刹那――。
「正義とは――」
「…………!」
足音が――。
「己を曲げない信念。どんなに手ごわい力に圧されようとも、折れぬ魂。砕かれぬ心」
あの、声が――。
「ちっ……。遅いぜ、馬鹿野郎……!」
「この世にひとつ、世界にひとつ……その真理を示す男がいる。その真理を守ろうとする者がいる」
そう。
あたしたちの目の前に、あの姿があった。
彼の――。
「乱世……!」
「遅くなったな、興猫」
その男――天道乱世の姿、が。