それぞれ、の
同刻、Zランク寮――。
「……っと。どう、茂姫? 乱世たちから連絡は?」
「……興猫ねーさん、そろそろ窓以外から入ってくる方法を覚えたほうがいいもき」
「うっさいわねー。それより……」
「まだ、連絡ないもき」
「そっか……」
「ねーさんの方はどうもき?」
「いちお、不自然にならない程度にバトルはこなして見せてるけど……そろそろキツいわ、しょーじき」
「およ? ねーさんらしくもない弱気が」
「あのねぇ……。あの、頼成んとこの黒服、アレを一人で相手にしてるだけでも、結構、キツいんだってば。公式戦じゃ、連中もお行儀よくしてるからどうとでもできるんだけどね」
「そんじゃ……椿芽ねーさんとは、まだ?」
「いつぞやの龍崎志摩との戦闘以来、公式戦には姿を見せてないわね」
「むー……。幸か不幸か、ってとこもきね」
「そうねぇ、実際に出てくれば、あたし自身でどうにかできるかも知れないけど……」
「そりゃ、アニキに止められてるもき」
「……気持ちの問題だって。あたしでカタがつくなら、それこそ安いものだし」
「できる自信、あるもき?」
「どうかな……。五分五分……? それも、あたしの知ってる椿芽に多少のプラスアルファなら、って前提でね」
「むー」
「どっちにしても……そろそろ、ヤバいニオイはするわ……」
「お、脅かさないでほしいもき」
「脅しなら、もっと気の効いたこと言うわよ。下手すれば、今日あたり何かあるかもね」
「んにー……。ひさびさのいい天気だってのにもき……」
「いい天気だから、よ……。こういう時こそね……何かが起こるモンなのよ」
「お。気の効いた脅しもき」
「ま、ね♪」
※ ※ ※
同刻、怒黒組アジト跡――。
「……………………」
さらに、その地下施設――。
「……いるの?」
「……ああ」
「なんだ……6割全損なんて聞いてたけど……意外に元気そうじゃない」
「外見はな。この学園の中では入手しにくい部品もある。そのあたりは爆山がやってくれているが……」
「その……あんたの恋人は?」
「……面白い表現を使うものだな」
「男子に好かれるのも、それはそれで美徳じゃない? 怒黒組はあなたの居ない間も、それなりにやっているわ」
「……累が及んでも対処もできん。組織は解体しろと言ってはいたのだがな……。実際、買出しに出ている爆山含め、俺の修復については助かってはいるのがどうにもな。」
「頼成組は、あなたたちから興味を失っているようには見えるけど……」
「念には念を入れて、だ。お前の言っていた……天道乱世の足を引っ張ってもまずい」
「まぁ……根拠があるわけでもないのだけどね……彼がどうにかできるっていう」
「……情か?」
「馬鹿ね。まぁ……そういうことを信じさせる、信じたくさせるっていうのも、彼の能力じゃないかしら?」
「ふ……。かもな」
「それで……? そんな状況の中、危険を冒して私に接触を取ろうとした用件は?」
「ああ……。例の、停滞破壊者のことだ」
「鳳凰院……椿芽……?」
「いや……俺たちは根本的な間違いをしていた。あの娘と交戦をした今ならばわかる」
「……どういうこと?」
「あの娘にも確かに素養はある。しかし……あれはまだ人間だ。俺などの定義においてすれば……むしろ、人に過ぎるほど」
「………………」
「恐らく破壊者は……外から来たのではない」
「……なんですって?」
「ここに……この学園に居た、のだ。恐らくはこの学園の成り立ちと共に」
「……居た?」
「しかるべく観察者の登場によって、それは目覚めた。いや……生まれた、とでも言うべきか……」
「どういう意味……? あなたらしくない言い方よ」
「現実が常軌を逸しているのなら……俺の言動も曖昧にならざるを得ない」
「常軌を逸した……?」
「そうだ。とても……俺やお前が手を出せるものではない」
「………………!」
「彼が現れねばそれは眠ったままだったかもしれない。そういう意味では……当初の予想は当っていたともいえるのかもしれないがな……」
「天道……乱世が……鍵?」
「順序を間違えた出会い、か……。確かに俺らしくもなく、情感的だな。爆山の影響でも受けたか……」
「かもね……」
「ならば……こうも言うべきか。今日のこの日も……『何もない至って平穏な一日』であれば良い、と」