平穏なるはその胸中以外にて
――その日は、何もない至って平穏な一日だった――。
※ ※ ※
怒黒組の壊滅からおおよそ2ヶ月――。
学園は懸念されていたような混乱に見舞われることもなく、一時的な平静を取り戻していた。
当然、ランキングには一時的な混乱が見られたが……。
怒黒組はトップ二人を欠いた状況で、それでも組織維持に奔走し、どうにか解体を免れた。
あれほどの抗争を仕掛けたチーム乱獣だったが、その死に体の怒黒組に追い込みをかけることもなく……。
男闘呼組やパンクラスといった他のグループとの公式戦を繰り返すことで、怒黒組のが実質抜けた穴を埋めるかのように、両者とのバランスを保つことに従事しているようだった。
少なくとも、表面上は――。
動きがないと言えば、天道組も、そうだ。
天道乱世はあの日を境にして、学園の中から姿を消した。
IDカードの反応に不自然はない。
しかし、これは調査員からの報告によれば、天道組のメンバーである、興猫に預け、携行させている反応であって……。
天道自身が携帯をしているわけではないとのことだ。
原則的にIDは自身が携行していなければならないものであり……。
これは正式な校則に照らし合わせれば、最悪の場合、退学処理となることも在り得る。
しかし……。
(おそらく……天道乱世は、それを今や恐れてはいまい……)
目的を得たものの持つ、覚悟……。
それがあの男には、今やある。
表舞台から姿を消し山林地帯かどこかに姿を隠しつつでも、機を待たねばならない覚悟が。
(それに……それに、だ……)
今や当初の目論見とは逆に――。
(あの男に……いま、学園を去られては困る……)
『あれ』を――。
あの日以来、御君――姉様に、その情報を含め触れることを禁じられた『あれ』――。
あの『女』に……『停滞破壊者』に対処し得るのは、現状を鑑みればあの男しか在り得ない。
「……………………」
そして――。
執務室の扉を開けると、そこには聖徒会執行委員精鋭が二人、警備についている。
「副会長、どちらへ……?」
あの日以来、あの政府から派遣されてきた女の横槍を受ける形で、警備を増やしては居る。
もちろん、実際に危惧されるような事が勃発すれば……この程度の増員は無意味に等しいのでもあろうが……。
しかし、ポーズというものは見せておかねばならない。
「……出てくる」
「それでしたら、警護のものを……」
「無用」
「し、しかし……」
「くどい。無用であると言った」
「は、はいっ……!」
私の焦れた声を聞いて、彼の者は硬直し、持ち場に戻る。
そのまま廊下を歩みゆく。
(姉様は、ああ言うが……)
私にはどうしても捨て置けないことだった。
だから――行動を起こさねばならない。
何らかの行動を。