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不穏

「どうする気だ? 乱世!」


「決まっている! すぐに……羽多野たちを救出に行かなければ……!」


「落ち着け、乱世……!」


「これが落ち着いていられることか!」


 俺はすぐにも自転車に乗り込み、コースを戻ろうとするのだが……。


「乱世ッ!」


 椿芽は語気を強くして、俺を制止してきた。


「つ、椿芽……」


「落ち着けといっている……! 今から本部に戻ったとしても間に合うものではないだろう。さっきの通信からすれば勇たちはどこか別の場所に既にさらわれた後だ」


「それは……そうだが……!」


「乱世、冷静になれ。今のお前は……」


「判っている!」


「乱世……」


「わかっては……いるが……!」


 ならばどうすればいい……!


「誰だ……!」


 草むらからの物音に反応し、椿芽が濃口に手をかけた。


「ちょ、ちょっと待った。あたしよ、興猫っ!」


 興猫はススにまみれた顔で慌てて手を振る。


「興猫……」


「その様子じゃ……状況は知ってるようね」


「何がどうなっている? 何か……知ってるのか、興猫」


「頼成が……チーム乱獣が、嶽炎祭乗っ取りをかけてきたのよ」


「やはり……頼成か……!」


 さっきの通信が途切れる間際の声は、やっぱりヤツだったか。


「襲われたのはウチらだけじゃない。他のグループも、サポートや選手問わず、一斉に襲撃を受けたみたい」


「他のグループも……?」


 俺は当初、以前の遺恨をここで……という風に考えていたが、どうもそうではないらしい。


 それも、嶽炎祭乗っ取りだと……?


「ちょうどほとんどの選手が休息を取る、この時間帯を狙ってきたようね。確認はできてないけど男闘呼組やパンクラスなんかも標的になってるらしいわ」


「なんだと……?」


「我道や真島は健在らしいけど……シェリスや龍崎志摩あたりは生徒証の反応が消失してる」


「確かに……」


 椿芽は言われるまでもなく、IDを操作してそれを確認していた。


「狙われたのは、基本的に女生徒……志摩とペアの軍馬は拉致まではされず、保護されてる」


「軍馬……! あいつがついていながら何をやっているんだ、むざむざと――」


「……重症よ、彼は。今後のランカーとしての選手生命も危ういくらい……」


「………………!」


 あの軍馬がそこまでの傷を負わされた……?


「それにしても……なぜ、女性ばかりを? 何が目的だ……」


「自分とこのハーレムを増強……とかにしちゃ、いくらなんでも大げさよね」


「聖徒会は何をしている? 先刻からそちらにも連絡がつかないが……」


「そっちもまだ未確認。だけど……」


 興猫は言葉を濁した。


 恐らくはそちらでも何かが起こっているのだろう。


 しかし――!


「そんなことはどうでもいい」


「乱世……」


「問題は……羽多野たちがどこに連れ去られたか、だ」


「……目星は無いわけじゃないわ。一つは乱獣のアジト。もう一つは、この武闘祭のコース上のどこかに仮のアジトを構えているか……」


「このコースのどこか、か……?」


「うん。でもなけりゃ、ここまで早く手駒を動かしきれないと思う。コース周辺には聖徒会の嶽炎祭運営部隊も配置されてたんだから……」


「むしろ……コースの中に基点があったほうが、スムーズに事を起こせるということか」


「しかし、それは……!」


 あまりにも範囲が広すぎる。


 この武闘祭のコースは、俺たちが二日がかりで完走するほどの広範囲に設定されている。


 その中を捜索するとなると……。


「乱獣のアジトのなら、市街地の隠し拠点もほとんどわかってるけど……」


「さっきの話を鑑みると、そちらは可能性は低い、か……」


 そもそも既に場所が露呈しているところを基点にして、こんな大それた行動を起こすとは思いにくい。


「でも、コース内のアジトらしきものの場所も、ある程度は絞り込めてる。襲撃された選手の証言や、反応の消失した地点から算出もできるし」


「乱世……!」


 椿芽が意を決した顔を向け、俺もそれに頷き返した。


「興猫、案内を頼めるか」


「なに言ってんの。当然でしょ、当然っ!」


 そのとき――。


「待て……天道……」


 興猫が現れたのとは逆……コースの先にあたる方向の茂みから現れたのは、我道。


「我道……!? お前……!」


 我道は全身に、そう浅くは見えない傷を負っている。


「俺も……行く」


 そう、言ったはいいが……がくり、と膝を付いてしまう。


「大丈夫か……!」


「ざまぁねぇ……。不意打ちとはいえ……シェリスを攫われ、俺も……この有様だ」


「お前にここまでの傷を負わせとは……相手は頼成だったのか?」


「いや……知らねぇ顔だった……。今の今まで、見たことも闘ったこともねぇ連中だ」


「なんだと……!?」


 ランクの上位には『あえて』名前を見せない、隠し玉……という人材が有り得るのはわかる。


 しかし……我道ほどの男を、ここまで追い詰めるようなヤツが居るなどとは……。


「言い訳じゃねぇが……あの連中は異常だ。人間の強さじゃねぇ……」


「なに……?」


「こっちの攻撃はまるで最初から読まれてるようにかわされやがる。おまけに俺の『気』の攻撃にもびくともしねぇ。あんなのは……無ぇぜ……」


「…………………………」


「いや……その辺の説明は後だ。とにかく……俺も行く。お前たちだけじゃ……無理だ」


「しかし、その体では――」


言いかけた所で……。


「ぐっ……!」


 我道の拳が、俺の腹にめり込んだ。


「……なめるなよ、小僧。多少、傷は受けたかもしれねぇが……こんなのは怪我のうちにもはいらねぇ」


「……ああ、そのようだな」


「目の前で仲間を……シェリスを奪われたって意地もあるが……」


 我道は肩を貸していた俺から離れ、自らの両足で立つ。


「正味の話、あの化け物連中相手じゃ、お前と……鳳凰院、それにそこのチビ助……」


「……チビで悪かったニャ」


「全員合わせてもまだ不安が残る。これは何もお前たちを甘く見てるんじゃねぇ。それが……実際に相対した俺の冷静な判断だ」


「……………………」


 我道の言葉には嘘偽りはなかったろう。


 そこまでの隠し玉を、あの頼成が保有していたとは……。


「一応、ウチの連中にも声をかけちゃいるがな……」


「……合流を待っている余裕はあるまい」


「ああ……すぐに向かおう……!」


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