表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/110

開幕

 それから嶽炎祭当日までは、何だかんだでアッという間に過ぎていった。


 椿芽は自転車の特訓。羽多野は椿芽だけではなく俺なり興猫なりがついてやり、もしもの時のために基礎戦闘能力の底上げも行った。


 加えて、バックアップの準備などは茂姫だけでは到底回らないため、天道組全員で当たらざるを得なかったのだ。


 ともかく……万全とは言い難いかもしれないが、どうあれ俺たち天道組は嶽炎祭当日を無事迎えることができたのだ。


(いささかの懸案はなくもないが……)


 スタート地点をぐるりと見回す。


 参加選手は多いが、それでも大きな混乱はない。


 大型行事遂行のため、ピリピリしている聖徒会のお陰もあるが……。


『スタート地点は各校舎の特設会場それぞれに分散してるもき』


 耳に取り付けられた小型通信機を通して茂姫が説明をしてくれる。


「そうなんだろうな。流石に一箇所スタートでは開始早々収拾がつかなくなる」


 万単位の生徒が同時にスタートすれば、それはもう阿鼻叫喚そのものだ。


 ある程度統制が取れているのならばまだしも、そういう概念に疎いかそもそも存在しない荒くれ者共ともなれば、それはいっそうに加速する。


 魔女の釜の蓋を開けたどころか、魔女の釜そのものと言うか……。


『それでも毎年、スタート段階で結構な混乱になるもき。アニキも気をつけるといいもき』


「ああ、了解だ」


 気をつけていた所で偶発的なトラブルというものは得てして起きる。


 慎重すぎて損になることはないだろう――。


「おう、天道。調子はどうだ」


 スタートに備える俺に声をかけてきたのは、軍馬銃剣だった。


「問われるまでもないな。この大舞台で調整を失敗する俺じゃない」


「けっ、言ってくれるぜ」


 ヤツも、俺と同じく、大きな荷物を携帯している。


 食料や衣料品の類……最低限度に絞っても、それなりの荷物を携行することになる。


 分散して二人が持っても良いが、どちらか片方が背負いもう片方は身軽な体勢にしておくことが、様々なアクシデントの発生するこの武闘祭ではセオリー――。


 ……と、茂姫が言っていた。


「お前のパートナーは龍崎か」


「ええ。お手柔らかに。天道さん……それに鳳凰院さん」


 この二人においては、龍崎が荷物を無くし身を軽くする『トラブル対処』担当のようだ。


 ……もしくは軍馬が一方的に押し付けられた結果なだけかもしれないが。


「ああ……」


「鳳凰院さん……?」


 龍崎志摩は、椿芽を見て、怪訝そうな表情をした。


「どうかしたか」


「…………いえ」


「お前たちの大将は参加していないのか? 姿が見えないようだが……」


「ああ、真島の旦那は……鳥喰とペアで第2スタート地点のほうだろう」


「そうか、この人数ではな」


 同じグループでも会場が分かれることはあるのだろう。


「ま、コースは途中で合流するしな。運が良けりゃ……もしくは悪けりゃ、すぐにカチ合うだろうさ」


 なるほど、我道や頼成の姿も見えないのは、そういうことか……。


「まぁ……お互い、頑張ろうや。それじゃな」


「ああ」


「鳳凰院さん……?」


「ん……?」


「途中でぶつかる場合があった時に……不調を理由になさらないで下さいましね」


「な……?」


「それだけ、ですわ」


 言って……龍崎は軍馬に続いて立ち去っていった。


「椿芽……どこか不調なのか?」


「い、いや……。それはない」


「本当か……?」


「お前にそんな隠し立てができる訳もなかろう」


「ああ……それはそうだが……」


「彼女の勘違いだろう。もしくは……」


「もしくは?」


「ふふ……柄にもなく、ちょっとは緊張しているのかもしれないな、私は。それが……彼女には不調に見えたのかもしれない」


「そう、か……」


「ああ」


「………………」


 椿芽の返答はもっともなことだ。


 俺が、いかな些細なことであったとしても……椿芽の不調を見逃すはずもない。


 そこには、一種絶対の安心感すらも存在する。


 しかし……。


 しかし、だ。


 いつか感じた、あの……『いやな予感』。


 それもあってか……俺はやはり何かしらの不安が残ってしまっていた。


『乱世さん、椿芽さん……聞こえますか?』


 耳に装着した無線機から、今度は羽多野の声が聞こえてくる。


 羽多野と茂姫は、サポート用の部屋で待機し、随時この通信機を通じてサポートをしてくれる体勢になっている。


 ちなみに興猫に関しては、先に懸念された『有事』に備えて、別に待機をしてくれていると――。


 ……と、思いたいが、どこぞで昼寝をしている可能性も否めない。


 まぁ、それはともかく。


「ああ、感度良好だ」


「こちらも……問題ない」


『そろそろスタートもきよー。サポートはこっちに任せてほしいもきー』


「ああ。よろしく頼む」


『乱世さん……』


「うむ?」


『がんばって……くださいね』


「ああ」


 言って、俺は所定のスタート位置に向かう。


「……………………」


 やがて――。


『嶽炎祭……第85グループ、スタート!』


 アナウンスと共に、嶽炎祭がスタートした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ